ブロンド・レッドヘッドほど軸がブレないバンドも珍しい。その名はノー・ニューヨーク一派のDNAに由来し、最初のアルバムをソニック・ユースのスティーヴ・ シェリーがプロデュースしているわけだが、NYのアート・ロックがもつ退廃の美学を彼らは正しく継承してきた。芸術肌でミステリアス、凡人とは違う時間軸に住むような佇まいが多くのファンとフォロワーを生み出しており、カズ・マキノと双子のアメデオ&シモーネの三人は現代USインディーの愛されるベテランというポジションを確立しつつある。
一方で、サウンドのほうは20年のキャリアで積極的に変化を試みてきた彼ら。今はなき名門レーベル〈タッチ&ゴー〉時代の名作3rd『フェイク・キャン・ビー・ジャスト・アズ・グッド』(97年)で初期のガレージ路線を極めると、以降はシンセ・サウンドを織り込んだ、耽美なゴシック・ポップへと徐々に方向転換。2004年の〈4AD〉移籍後にその動きは加速していく。
そして本題へ。新たに自主レーベルに移籍しての4年ぶりとなる最新作『バラガン』は、バンド史上でもっとも実験的なレコードだろう。強調されているのは、本人達も語るとおりのスペース。“荒涼”とも形容しうるムード、抽象性を極めたバンド演奏のリノベーションに驚く人もいるかもしれないが、アートを追求してきた彼らの歩みを踏まえれば一貫性を見出すのは難しくない。この境地に至るまでのプロセスについて、アメデオに話を聞いてみた。
『バラガン』ジャケ写
Interview:Blonde Redhead(Amedeo Pace)
–––今回の作品、相当チャレンジしてますね。まずは徹底したミニマムな音づくりが印象に残りますが、どうしてこういったサウンドに取り組もうと思ったんですか?
ドリュー・ブラウン(ベック、レディオヘッド他)は凄くエネルギッシュな人で、今作のプロデュースについても自分から名乗り出てきてくれたんだけど、彼の意向がスペースを敢えて残す事だったんだ。すべて音で語り尽くすのではなくて、余白の部分でリスナーに音以外のなにかを感じてもらうことを彼は重視していた。楽器の数も最低限に絞って、感情がよりダイレクトに伝わるような作りってことだね。僕らもそれに賛成だった。3人で話し合って、よりシンプルなアルバムにしようと決めたんだ。
–––タイトルの『バラガン(Barragán)』が気になってググったんですけど、メキシコの建築家ルイス・バラガンから拝借したんですね。
そうそう。カズのアイディアなんだよね。彼女のなかで突発的に浮かんだ言葉で、そのあと実際にバラガン・ハウスにも行ってみたんだ。スペースや照明の使い方には感銘を受けたよ。
–––それがサウンドにも反映されたということ?
いや。単に語感が気に入ってるんだ。なんか声に出してると楽しいからね。
–––(笑)。『バラガン』を聴いて2枚連想したんですよ。トーク・トークの『Laughing Stock』とYMOの『BGM』なんですけど。
トーク・トークは“スペース”ってことだよね?
–––そうそう。YMOは“Dripping”でのシンセの音色とか、アートワークも含めたポストモダンな雰囲気というか……。
あー、なるほど。
Blonde Redhead – “Dripping”(Audio)
–––実際のところ、どういう音楽に影響を受けてここに辿り着いたのかなと。
(少し考え込んで)まあ実際のところ、何か聴いたものに直接影響を受けて曲を書いているのではなくて、より深いところ、自分でも理解できないところから曲って生まれてきているからさ。昔やらなかった事に刺激されたり、今やりたいことに背中を押されたりしてね。カズとアイディアを交換しながら生まれて来る曲も多いしね。今回もデモをたくさん録って、50〜60曲から10曲まで絞ったんだ。