待望の……というのも使い古された表現だが、この作品にはぴったりである。世界中のファンのみならず、おそらくダンジーちゃん本人でさえも「超待望」だったに違いない、コンピューター・マジックの1stアルバム『ダヴォス』がいよいよ日の目を見ることになった。
デビューから5年、これまでも数々のEPを発表しており、2012年の『サイエンティフィック・エクスペリエンス』をはじめ日本オリジナル企画のCDを3枚もリリース。ご存知のとおり日本国内ではレクサス、キユーピー、そしてパナソニック……と、3社の大手クライアントのCMに楽曲提供するなど、その浮遊感のある歌声とサウンドはすっかりお茶の間へと浸透していただけに、今作が初めてのアルバムだと聞いて驚くリスナーも多いだろう。むしろ、サブスクリプション・サービスが全盛の現代において、彼女のような優れたソングライターであれば「アルバム」というフォーマットにこだわらなくても勝負はできたはずだ。
しかし、コンピューター・マジックは「絶対にアルバムを完成させる」という初期からの目標を貫き通し、アッシュ、インターポール、テンプルズといったバンドとの仕事歴を持つクラウディウス・ミッテンドーファーにプロデュースを依頼。結果的に、彼女のポテンシャルとメロディーメーカーとしての魅力を余すことなく引き出した、素晴らしい作品へと仕上がった。間違いなく現時点でのキャリア集大成であり、2015年を振り返った頃に、ニュー・オーダーやチャーチズの新作と肩を並べて語られるであろうエレクトロ・ポップの新たな金字塔だ。ではさっそく、ダンジーちゃんとの対話をもとにアルバムの制作背景にググっと迫ってみよう。
Computer Magic – “Be Fair”(Official Video)
Interview:Danielle Johnson(Computer magic)
『Davos』は私の人生の一部といっても過言ではないのよ
ーー2年前のインタビューで「フランク・ザッパが今日の気分」とおっしゃっていました。それでは、いま夢中なアーティストは誰ですか?
いまはそうね……クラフトワークかな。あとは、ゲイリー・ニューマン。
ーークラフトワークといえば、Instagramにも投稿していましたね。
アハハ、そうだったわね(笑)! 最近はその2組をよく聴いてるわ。
ーーこれまでもEPや日本限定のCDなどは数多く発表してきましたが、今回リリースされる『ダヴォス』は待望の1stアルバムです。もうすぐファンのもとにも届きますが、率直に今の心境は?
とにかく興奮しているの。日本でリリースされることはもちろんだけど、やっぱり母国のUSでアルバムが出るってことにドキドキしているわ。
ーーサブスクリプション・サービスもあり「楽曲単位」で音楽が聴かれる昨今、あえて「アルバム」という形態にこだわらなくてもアーティスト活動は可能だと思うのですが、それについてはどうお考えですか?
アルバムは全体の世界観であったり、曲と曲の前後の関係性が大事よね。常に新しい音楽にトライしてきたけど、同時にアルバムをずっと作りたいと思っていたの。だから、やっと願いが叶った感じね。
ーー今回収録されたトラックは、どれもこのアルバムのために書き下ろされた楽曲なのでしょうか?
うん、ぜんぶ新曲よ!
ーーいちばん苦労した曲って何ですか?
たぶん“Hudson”かなぁ。自宅のベッドルームに始まり、カリフォルニアでレコーディングして、ブルックリンの「Converse Rubber Tracks」でもレコーディングして、ミックスダウンはプロデューサーのスタジオ……と、4箇所も転々としたのよ。
ーードラマーのクリス・イーガンはライヴでもお馴染みの存在ですが、新たにクラウディウス・ミッテンドーファーをプロデューサーとして迎えることになったきっかけは?
もともとは、私が音楽活動を始める前からの友人だったのよね。クラウディウスの仕事は当然知っていたし、彼が手がけてきたバンドの曲もカッコ良かったから、いちファンでもあったの。だから、アルバムのプロデュースをお願いするなら彼しかいないと思っていたわ!
ーー『ダヴォス(Davos)』はあなたのお父さんが管理していたスキーリゾートの名前だそうですね。このタイトルに込められたエピソードを聞かせてもらえますか?
残念ながら「Davos」は90年代にクローズしてしまったんだけど、小さい頃からパパと会う場所といえばそこだったし、子どもの時はスキーも教えてもらっていた。だから、私の人生の一部といっても過言ではないのよ。まるで街の中にあるもうひとつの小さな街みたいで素敵な名前じゃない? パパは今でもこの場所にあるマンションとかコンドミニアムの手入れをして過ごしているわ。
ーーアートワークのロゴは、そのスキーリゾートと同じものなんですか?
少し近いと思う。それに、ちょっと宇宙っぽい雰囲気も出してみたの。
ーーちなみに、他にはどんなタイトルの候補が?
タイトルを決めるのはものすごく時間がかかったわ。私のiPhoneのメモには色んな名前の候補が残ってて、そのひとつは『Automatic Fantasy』だったんだけど、自分の直感に従って『ダヴォス』にしたの。『Automatic Fantasy』は2ndアルバムのタイトルになるかもね(笑)。
次ページ:「日本では有名人なんだから!」って自慢しているわ(笑)