第99回 予感
初めてのデートは高校2年の春休みだったわ。相手は休み時間になるといつもふざけ合っていた子。ある時意外にもお互いに映画が好きって事が分かって、思い切って映画祭に誘ってみたら顔を赤くしながらOKしてくれたの。あの頃はメールなんて無かったし、電話も家の電話しか無かったから学校の帰り道に待ち構えるのよ。何日も声をかけられずに、通り過ぎてしまったあの子を見えなくなるまで見送っていたわ。ああ、すごく楽しかった。
あの頃って凄く大人ぶるじゃない? だからあたしは少しエロティックな雰囲気のある映画を選んだの。気にしてないふりして本当は心臓バクバクだったわ。あたしなんてまだキスもしたこと無かったのに。思った通り映画は際どいシーンの連続だった。でも子供っぽく見られるのも嫌だったから、それとなくジュースを飲んだり、でも頻繁に飲むとおかしいから「暑いね」なんて言って上着を脱いだりしてどうにか最後まで観たわ。上演後に舞台挨拶で監督や俳優が出て来た時に、なんだかホッと安心したのを今でもよく憶えてる。
その時よ。いつもはふざけてばっかりだった彼女があたしに寄って来て、肩に腕をかけたの。右手はあたしの太もも辺りに置いて。こんなこと初めてだったから、あたしは本当に驚いて彼女の方に振り向くことすら出来なかった。大胆な彼女は、ガチガチになって前を向いたままのあたしにどんどん積極的に近づいて来る。でもあたしはなぜかとても嫌な気分になった。その時気づいたの。そういえばあたし映画でも男の裸ばっかり観てたなって。薄々感じてたけど、あの瞬間にはっきりしちゃったの。あたしが何者かって。