モダン・クラシカルやネオ・クラシカル、ポスト・クラシカル等と呼称されるジャンル/カテゴライズの浸透やシーンの隆盛により、さらに知名度をあげた〈Erased Tapes Records〉から、レーベルを代表するアーティストでもあるニルス・フラームが全面バックアップするベン・ルーカス・ボイセンの新作『スペルス』がリリースされた。

トム・ヨークも賞賛。〈Erased Tapes Records〉を振り返る music160615_erasedtapes_5

『スペルス』ジャケット

〈Eraced Tapes Records〉とは?

〈Erased Tapes Records〉は、ロンドンに拠点を置き、ジャンルに縛られない多様性や前衛性を持った作品を数多くリリースしてきたレーベル。2007年に設立され、カイトのアルバムをリリースした当初はポストロック・ファンからの注目度が高かったが、優れたアンビエント作品のリリースにより電子音楽愛好家たちの間でもその名を知られるようになり、ピアノや弦楽器の美しい響きを主軸とした静謐な作品を多く有するようになってからは、ポスト・クラシカル・シーンの中心的レーベルとしても認知されている。ニルス・フラームやオーラヴル・アルナルズといったアーティストの目覚ましい活躍により、近年はポップスやロック・フィールドにまでそのリスナー層を拡大しつつある。

リリース作から窺い知るレーベル・カラー

トム・ヨークも賞賛。〈Erased Tapes Records〉を振り返る music160615_erasedtapes_1

ニルス・フラーム & オーラヴル・アルナルズ

所属アーティストとその音源について少し触れていこう。

ニルス・フラームは、ドイツ出身のピアニスト/作曲家/エンジニア。友人へのクリスマス・プレゼントとして制作した『ウィンターミュージック』、親指の負傷により思いついたアイディアをかたちにした『スクリュース』、グランドピアノやローズ、アナログシンセを駆使したセットでのライブ音源にエディットを施した『スペイシーズ』などコンセプチュアルな作品を意欲的に発表し続け、息遣いさえも聴き手に伝わるような繊細な曲調からエクスペリメンタルなサウンドの展開まで、スタイルやジャンルに捉われることなくピアノの可能性や自身の音楽を追求している。トム・ヨークによる賞賛やロイヤル・アルバート・ホールでの圧巻のパフォーマンスも話題となり、いま世界で最も注目されているピアニストのひとり。また彼は、「(一般的なピアノの鍵盤数が88鍵あることから)一年の88番目の日にあたる3月29日を、ピアノとそれに関わる人々を祝う記念日としよう」という<Piano Day>の提唱者でもある。

▼Nils Frahm – Says (Live on KEXP)

オーラヴル・アルナルズは、アイスランド出身。シガー・ロスや坂本龍一のヨーロッパ公演をサポートした経験を持つマルチ奏者/作曲家であり、映画や舞台音楽、テレビドラマのサウンドトラックも手がけるなど様々なシーンで幅広く活動。ポスト・クラシカルの代表格でありつつも、現在は、そのタームから大きく飛躍し高い評価を得ている。極北の流氷や冷たく澄んだ空気を連想させる透明感、ところどころに万年雪を被る彼の地の荒涼とした景色をおもわせるダイナミックなスケール感を内包した、メランコリックでシネマティックな作風が特徴的。

ちなみにニルス・フラームとオーラヴル・アルナルズは数年来に渡りコラボ楽曲の制作もしており、それらをまとめた企画盤『コラボレイティブ・ワークス』もリリースされている。

▼Ólafur Arnalds – Full Performance (Live on KEXP)

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