第120回 次の方どうぞ

娘による最終テストが始まった。彼が自分の父親として相応しいかどうか、自転車に乗れない女の子を演じながら試すのだ。何も知らずに最終テストまで進んできた彼。ここまで来たからには合格して欲しい。過去の男たちはここで皆散っていった。私は少し先を歩きながら彼等を見守る。いつもは娘と一緒に自転車でスイスイと走る道を、今日はゆっくりゆっくり歩きながら。

何度かやっているだけあって、娘の演技は大したものだ。きっとどこの誰が見ても自転車に乗れない女の子に見える。時には壁にぶつかりそうになりながら、採点を積み上げているに違いない。普段からとても優しい彼は、そんな娘を一生懸命補助している。そんな姿を見て「後で謝らなきゃ」と私は少し気の毒に思った。

このテストもそろそろ最終チェックポイント。実は娘が1番知りたいのは、彼が母親も娘も同じように大事にするかどうか。だから自転車の練習に付き合っている間に、ママのことを気遣うかが、合格不合格の分かれ道なのだ。もうすぐゴール。娘が不安そうに私を見上げる。その時だ。「そんなに振り返ってばかりいたら危ないからもっと近くにおいで!」彼は忙しく娘の相手をしながら私に言った。娘は歓声を上げながら自転車で走り去る。呆気にとられている彼の胸に私は飛び込んだ。あなたは合格よ、と心の中で叫びながら。