第128回 夏の終わりと始まり

「やたら陽気なおデブ」僕は小さい頃からそう思われてる。大声で笑ったり、大げさなリアクションをしたり、ハンバーガーをいくつもたいらげたり、膨れたお腹を揺すってみせたり。ずっとこんなことをして来た。もちろんそうしたかったわけじゃない。一番楽だったんだ。
出会ったのは2ヶ月前。デパートで受付の仕事をしていた彼女は、狭いカウンターの中でとても窮屈そうにしていた。通り過ぎるお客さんにそんな姿をからかわれながらも、満面の笑顔で愛想を振りまく彼女の気持ちが痛いほどわかった。僕は近づいて「君にはもっと向いている仕事があるよ、僕のダイエットのトレーナーにならないか?」と言った。彼女は泣くほど笑ってくれて、そのまま仕事を辞めた。
お互い初めての交際。何をするのも楽しかった。遊園地で2人乗りのアトラクションにぎゅうぎゅうに乗り込んで大笑いした。そして夏の終わり、僕は彼女を海に誘った。太った人達が一番されたくないこと。それは裸を人に見られることだ。普段からもうお肉が見えてるじゃないか、という奴もいる。でも違うんだ。そこには大きな壁がある。太った裸を笑われるなんて考えただけで死にたくなる。だから敢えて僕は彼女を誘った。
水着でいることにどうしても慣れない僕たちは、うつ伏せで身を寄せ合ったまま何時間も過ごした。それでもすごく幸せだった。2人とも持って来たタオルが小さくて砂だらけになっても、なかなか上を向けなくて背中だけ日焼けしても全然気にならない。これからは僕たちは僕たちの生き方をする。まだ始まったばかりだけれどね。
photo by takumi yamamoto