第137回 黒い太陽
アカネが産まれた時にはもう太陽は暗かった。日中明るい時間は1日6時間くらい。その時間も段々短くなっていて、アカネが物心ついた頃には、夕方と夜しかなくなった。そんな時に弟が産まれた。初めて弟が立って歩いた時、外はもう真っ暗だった。まだ昼の13時だというのに。
「今、世界中が荒んでいます」というニュースを朝から晩までやっている。海外ほどではないが日本ももちろん例外ではなかった。働かない人が増えたし街はゴミだらけ。そこら中で喧嘩しているし、意味も無く若者に殴られたりもした。そのうち誰もあまり外に出て来なくなり、午前中だけだった小学校も遂に閉鎖されて、授業は全てインターネットからの中継に切り替わった。太陽に見捨てられた地球は、思ったよりも早く終わりを迎えそうだ。
少しでも太陽の光を浴びようと、海岸には多くの人が集まる。太陽を崇める変わった宗教の人達や、平和を歌い続ける人、手をつないで海に入っていってしまう集団など様々だ。私たちは1年前に突然いなくなったママを探すために毎日ここに来ている。太陽が薄暗く海岸を照らし始めると、どこからともなく歓声が上がる。どこにも届かない悲痛な叫びだ。私は子供 たちの耳を塞ぎながら人々を見渡す。この時間が1番嫌いだ。アカネが「ママだ! ママだ!」と叫び出した。私は期待せずに指を指す方向に振り向く。ママなんていない。そこには黒い太陽があるだけだ。