あなたがクラブ・ミュージックのリスナーなら、「!K7」という印象的なロゴを見たことはないだろうか。ドイツを拠点にする〈!K7〉は、95年にはじまった人気DJミックス・シリーズ『DJ-Kicks』を通してカール・クレイグやダディ・G(マッシヴ・アタック)、フォー・テット、ホット・チップ、コード9を筆頭にクラブ・シーンの「今」を紹介してきた名門レーベル。その看板アーティストとして知られる人力テクノユニット、ブラント・ブラウアー・フリックのダニエル・ブラントが、初ソロ作『エターナル・サムシング』を完成させた。

「クラシック×ミニマル・テクノ」で話題を呼んだブラント・ブラウアー・フリック

独ヴィースバーデン出身のマルチ・アーティスト、ダニエル・ブラントは、4ヒーローのドラムンベースに触れてエレクトロニック・ミュージックに開眼。映像制作を学ぶために向かったケルン・メディア芸術大学在学中の08年、ヤン・ブラウアー&ポール・フリックとともにブラント・ブラウアー・フリックを結成した。

このユニットの最大の特徴は、ミニマル・テクノをヴァイオリン、チェロ、チューバ、トロンボーン、ヴィブラフォンを駆使した人力グルーヴで再構築していること。10年に〈!K7〉から発表したデビュー・アルバム『You Make Me Real』はスティーヴ・ライヒを髣髴させる現代音楽的なミニマリズムとテクノを筆頭にしたエレクトロニック・ミュージックの長所を融合させた音楽性で話題になった。

Brandt Brauer Frick – BOP

彼は映像作家としての顔も持ち、ドイツ、ロンドンを拠点に生活。〈!K7〉の代表アーティストとして活動を続け、ブラント・ブラウアー・フリックの16年作『Joy』ではゲスト・ヴォーカリストのビーヴァー・シェパードとタッグを組んだポスト・クラシカルとミニマル・テクノ、クラブ・ジャズの中間を行くよりオーガニックなサウンドを手に入れている。

待望のソロ・アルバムはロンドンのポスト・クラシカル名門〈Erased Tapes〉から

そんな彼がソロ・アーティストとしてロンドンの〈Erased Tapes〉との契約を発表したことは、近年のブラント・ブラウアー・フリックでの活動ともリンクしていたのかもしれない。というのも、〈Erased Tapes〉は07年の設立以降、初期のポストロック的な作品を経て徐々にエレクトロとクラシックを融合させたモダン・クラシカル/ポスト・クラシカル的な作品をリリースするようになり、近年はニルス・フラームやオーラヴル・アルナルズのヒットでポップ・フィールドにも認知を拡大。

Nils Frahm – Says (Official Music Video)

Ólafur Arnalds – Doria

レディオヘッドが16年の<マディソン・スクエア・ガーデン公演>で、サポートに同レーベルのドーン・オブ・ミディを迎えたことも話題となっている。こうした〈Erased Tapes〉の歩みには近年のブラント・ブラウアー・フリックが様々な音楽性を取り込み、よりシーンの外側へと踏み出してきたことと共通の魅力がある。恐らく今回のソロ作も、ダニエル・ブラントのリスナーを広げるきっかけになるはずだ。