「私は数年前に彼女のバンド・サマリスに夢中になった。だから彼女のソロ活動を見るのはとても素晴らしいことだった。」ビョーク
古くはシュガーキューブスからシガー・ロス、近年ではオブ・モンスターズ・アンド・メンやアウスゲイルといった面々まで。北大西洋に位置する総人口31万人程度の小さな島国アイスランドは、これまでにもフォーク音楽の牧歌性と神秘的な実験精神を併せ持つ、ユニークなポップ・アクトを世界に向けて数多く輩出してきた。その中でも、最も著名で大きな影響力を誇るアーティストと言えば、真っ先に名前があがるのはビョークに違いない。
そのビョークが英「ガーディアン」紙のインタビューで、インスピレーション源の一つに挙げたアイスランドの若き才能がいる。その名はヨフリヅル・アウカドッティル。彼女はいまだ二十代前半という若さながら、パスカル・ピノンやサマリスといったプロジェクトで幾枚ものアルバムを生み出しており、アイスランド・シーンの次世代を担う才女だ。そして、彼女がJFDR(ジェイエフディーアール)というソロ名義で作り上げた1stアルバム『ブラジル』は、彼女の名前をアイスランド内だけに留まらず、国外にまで知らしめる決定的な一枚となるだろう。
「レイキャヴィーク(アイスランドの首都)にはおそらく150人くらいのミュージシャンがいて、それぞれが互いの逆を行くようなグループを作っている。その中で自然と個性を育んでいく。クラシックのバンドでも、エレクトロニック・バンドでも、メタル・バンドでも構わない。全てが互いにぼんやり溶け合って、それがアイスランドの音楽になっているの。」
ビョークは上記のインタビューで、アイスランドの音楽シーンについて、そんな風に語っている。規模は小さいながらも多様な音楽家が刺激を与え合い、独自の豊かなコミュニティを作っているレイキャヴィークの音楽シーンは、JFDRの音楽にも大きな影響を及ぼしてきた。彼女が最初に国外でアテンションを受け、ビョークを虜にするきっかけとなったバンド・サマリスを聴けば、アイスランドならではのユニークな折衷性がよく分かるはずだ。JFDRがヴォーカルを担当し、その他のメンバーはクラリネット奏者とエレクトロニック・プロデューサーという特異な編成のサマリスは、2011年に結成。
最大の音楽的な参照点はフィーヴァー・レイやポーティスヘッド、ジェイムス・ブレイクといった、歌心を併せ持つダークなトーンのエレクトロニック・ミュージック。ただ、サマリスはそこにクラリネットの響きや19世紀アイスランドの詩の引用を加えることで、より土着的な神秘性を湛えている。サマリスは結成からほどなくして、ビョークやアウスゲイルらアイスランド出身アーティストが多数所属するロンドンの名門レーベル〈ワン・リトル・インディアン〉に見出され、今までに計3枚のアルバムをリリース。「私は数年前に彼女のバンド・サマリスに夢中になった。だから彼女のソロ活動を見るのはとても素晴らしいことだった。」とは、ビョークの弁だ。