「若けりゃ良いってもんじゃない」
27歳を超えたくらいから、何度頭をよぎったかしら。人間は皆平等に歳を取るもの。若さや可愛さだけでは、やっていけなくなるのがアラサー女子。若さと可愛さの代わりに何が必要かしら…
第五回
季節によって観たくなる映画の系統が変化するような気がしている。春から夏にかけては窓を開けて風を感じながらアジア映画が観たい。
沢山の映画を観るもんだから、行ったことのない国の事もなんだか知っているような生意気な気持ちが生まれるけど、本当は全然違うんだと思う。
3月◯日
13:30 香港(HKG)
摂氏24度
何度もスクリーン越しに見た景色の中で、温度、湿度、匂い、想像でしか触れたことのないものを答え合わせする様に一つ一つ確認していく。
街を見渡して一番に建物の異様さに興奮した。ほんの50平米程の土地にさえ30階建てのビルを建ててしまう。少し離れた所から見るとまるでペン立てみたいで笑ってしまった。
「君が言っている映画の場所はもう壊されてしまっているよ。」
フルーツ・チャンの映画は何故、芸術的な映画ではなく現実的な映画と言われるのか。
「ハリウッド★ホンコン」という映画の舞台となっている貧民街、ダイホム・ヴィレッジは2001年までに全て撤去されてしまっていて、もう実際には見ることができない。
映像の中でしかもう見る事ができなくなってしまうことをフルーツ・チャンはわかっていてこの映画を撮ったのかもしれないなぁと、せわしない香港の雑踏の中で感じる。
貧民街と、そのすぐ横に建てられた超高層総合施設。
ちょうど20年前、1997年に香港はイギリスから中国に返還された。
自分たちが中国としてのアイデンティティをすぐに取り戻すには植民地時代が長すぎたのかもしれない。イギリスでも中国でもないよって顔でしれっとしている個性的なファッションセンスのハタチの若者みたいな国だなと思った。
香港に暮らす友達は、「かつて香港は、欧米人にとってアジアの玄関口だったから、とてつもない人数が移り住んできたんだよ。香港にやって来た欧米人達と、もともと此処に暮らしていた人達の間には何倍もの経済格差があるんだ。」と教えてくれた。
実際に昼ご飯を食べた地元民御用達の食堂で三人分のお会計だった金額は、その夜に飲みに行った外人だらけのバーのカクテルほぼ一杯分だった。
すごく面白い映画だなとは思っていたけど、登場人物の一人、トントンという女がなんだか何を考えているのか全然わからなくて、それはこの映画の力不足のせいなんだと思っていた。でも実際に香港へやってきてはじめてトントンというキャラクターの意味や「ハリウッド★ホンコン」という映画の事がわかった気がした。
この高層ビル群の何億個も何兆個もあるかもしれない窓の一つ一つにそれぞれ人がいるのかと思うとすごい気持ちになる。なんて言葉が一番適切なのかわからなくて、どんな言葉でも嘘になってしまいそうだからもう何も言わないと決めた。
自分とは関係のない人が、自分とは関係なく、こんなにも生きている。
空虚はある一定を超えると気づかない場所にできたカサブタみたいになっちゃうのかもしれない。
だいたい東京から沖縄への距離の倍くらいの場所。きっとまたすぐ訪れる気がしている。次はウォン・カーウァイの映画の登場人物を探しながら普通に観光とかしたいな。
ザキ