第159回 はじめまして。さようなら。

ぐるぐる巻きにされている包帯を外す時が来た。包帯が解けていくたびに、少しづつ白い光が薄く目に飛び込んでくる。本当に目が見えるようになったのかも知れない。私は1枚の写真を握りしめてその時を待っている。どうしても会いたい人。どうしても会いたかった人。

私は何年も路上や酒場で歌う盲目の流しをしていた。その場でリクエストに応えて1曲歌い、小銭をもらう。何度も追い払われながら、それでも私は歌い続けた。他に仕事なんてない。これが私の最後の生きる道だ。やめたらホームレスになるしかない。ライちゃんはいつからかそんな私の世話をしてくれるようになった。からかわれながらヨロヨロと酒場を出ていく私を見ていられなかったのだろう。

するとすぐに生活が一変した。2人で路上流しをする姿が瞬く間に話題になり、トントン拍子に歌手デビューが決まった。私たちは婚約し、多額の契約金で目の手術を受けることになった。やっとライちゃんの顔が見れるよ、と言うと「ガッカリしたら許さないからね」と笑った。ライちゃんはその夜、交通事故で死んでしまった。

ゆっくりと目を開ける。写真にはどこかの酒場で歌う私に寄り添うライちゃんがいた。想像していたよりずっとかわいらしい。いつもこんなに私の近くにいてくれたんだ。マスクなんかして風邪でも引いてたのかな。こんなに優しい顔してたんだね。もっとちゃんと見たいのにどうしても涙が溢れてきてしまう。ライ。やっと会えたね。