第174回 若い女
「あなたが息子を大事にするとはどうしても思えないの。だから迎えに来たわ。」半年ぶりに会った母ちゃんはかなり怒っていた。父ちゃんのせいでもう家族がぐちゃぐちゃだ。新しく出来た若い母ちゃんに僕を押し付けてまたどっかに消えたのが先週。それを聞いた母ちゃんが乗り込んで来たってわけだ。
若い母ちゃんがどうして父ちゃんに惚れ込んだのか僕にはわからない。あんないい加減な男を相手にするなんて。テレビに出ていてもおかしくない位に美人だし、いつもセクシーだし、僕にもちゃんと話しかけてくれる。最近の僕はいつも部屋でドキドキしていた。いつ彼女が部屋の前を通るだろうって。今日はどんなこと話そうって。そう。僕は彼女に惚れてしまった。
「あの子は思ったより大人よ。そんなに心配しなくて大丈夫だわ」彼女はいきり立つ母ちゃんに向かって笑顔で返した。「あの人が帰ってくるまでは私が責任もってあの子の面倒を見るの。さあ帰りましょう」そう言って彼女は僕に手を差し出した。少しだけ迷ったけど、また2人きりになれると思った瞬間彼女の手を握ってしまった。細くて長い指がなんとも言えない。母ちゃんのすすり泣く声が後ろに離れて行く。でも僕は彼女の横顔から目が離せない。
photo by Maiko Y Vyrostko