00年代後半から続いてきたEDMブームの中でトロピカル・ハウスの雄として人気を集め、Spotify史上最速で再生回数10億回を突破したアーティストとなった他、15年にリリースされたデビュー・アルバム『クラウド・ナイン』が大ヒットしたノルウェーのプロデューサー、カイゴ。彼が最新アルバム『キッズ・イン・ラヴ』を完成させた。
多くの人々に「トロピカル・ハウスのプロデューサー」として注目された初期の活動を経て、『クラウド・ナイン』で自身の本当の魅力であるソングライターとしての能力をより前面に押し出した彼は、通算2作目となるこの『キッズ・イン・ラヴ』では、さらにサウンドの幅を拡大。
幼少期から触れてきたピアノで培った普遍的なメロディを追究しながらも、そこによりアップビートなエレクトロニック・ミュージックやザ・フーやジャーニーといったクラシックなロックの要素、そしてスタジオで実験した様々なプロダクションの冒険を加えることで、よりきらびやかなポップ・センスを手に入れている。
そして何より印象的なのは、それらがまるで、世界各地をツアーして回ったここ数年の経験を反映させるように、ライブの光景が浮かぶスケールの大きな楽曲に結実していること。トロピカル・ハウスが生んだ“癒し王子”としての側面を引き続き持ちながら、同時にそこからより大きな世界へと乗り出していくような雰囲気が全編を覆っている。
今回は9月の<ULTRA JAPAN 2017>での来日時に2曲を聴かせてもらった段階で聞いた最新アルバム『キッズ・イン・ラヴ』についてのインタビューをお届けしたい。彼がアルバム完成への最終局面を迎えていた時期ならではの、リアルな雰囲気が感じられるはずだ。
Interview:カイゴ
——この間、映像ドキュメンタリー作品『Stole The Show』を観ても改めて思ったのですが、この数年間はあなたにとって新しい扉をどんどん開いていくような経験になったようですね。中でも印象に残っている出来事を挙げるなら?
それは本当に沢山あるよ。僕にとってこの数年間は新しい経験を沢山した、信じられないようなことが沢山起こった期間だったから。むしろ、色々ありすぎて簡単には言えないくらいなんだけど、(開会式でパフォーマンスを披露した)リオ・オリンピックのことはとても心に残っているよ。それから、僕のホームタウンで一番大きな会場を使ってフェスティバルを開催したときは、そこに24,000人もの人が来てくれた。今出来ていることすべてがラッキーだと思っているんだ。世界中を旅して、素晴らしい人に沢山出会ったり、違う国の文化に触れたりすることも素晴らしい体験だったよ。
——あなたはトロピカル・ハウスの盛り上がりとともに人気を獲得しましたが、もともと音楽的にはそれだけの人ではなかったと思います。そしてデビュー作『クラウド・ナイン』以降の楽曲を聴いていると、そうではない側面がどんどん出てきている印象がありますね。
とにかく僕が考えているのは「音楽」が作りたいということで、トロピカル・ハウスという箱に閉じ込められたくないとずっと考えていたんだ。だから、『クラウド・ナイン』でやりたかったのも、「僕はそれだけの人間じゃない。新しい音楽もやるよ」ということで。それを意識しながら作ったアルバムだから、そう感じてくれてすごく嬉しいよ。
——続くEP『Stargazing』に収められていたセレーナ・ゴメスとの“It Ain’t Me”なども、その変化を推し進めるような楽曲でした。あの曲はどんな風に作っていったんですか?
“It Ain’t Me”は3人のソングライターと一緒にスタジオに入って、色々アイディアを練って最初のデモを作っていったんだ。そうして形が出来上がってきたときに、一緒に作業していたメンバーがセレーナ・ゴメスと友達だったから彼女に送ってみたら、彼女もすごく気に入ってくれて。それでセレーナのヴォーカルを録りに行って、トントン拍子に進んでいった感じだった。
プロダクションの面では、「僕のサウンド」であることはキープしつつ、でも新しいこともできることを見せたかったんだ。それでヴォーカルをチョップして、ポップで新しいサウンドが作れるように考えていった。つまりこの曲でも、僕がいまだに新しい音楽性にチャレンジしていること、つねに前に進んでいることをみんなに伝えたかったんだよ。
Kygo, Selena Gomez – It Ain’t Me
——それ以降、ライブで披露している新曲なども含めて、ヴォーカル・チョップを使うことが増えているイメージがあります。これはどんな風に出てきたアイディアなんでしょう?
ヴォーカルをチョップすることは、今は色んなプロデューサーがやっていることで、もちろんそれ自体は新しいことではないよね。でも、それをリードのメロディに大々的に使うことで、ポップでありながら新鮮な感覚が出るようにしたかったんだ。これはとにかくスタジオで色々と実験していった結果だね。
それが上手くいく場合も、そうじゃない場合もあるけれど、結局は「それを色々試していくしかない」って感じなんだ。僕が恵まれているのは、才能溢れる沢山のソングライターと一緒に作業できる環境があることで、僕がアイディアを出したものに、彼らが何かを付け加えてくれることもある。
そうすることで、アコースティックで披露しても印象に残るメロディと、スタジオでの実験性との両方を兼ね備えたサウンドを作りたいと思っているんだ。そうすれば、作品をじっくり聴くことも、フェスで披露してみんなを躍らせることもできるようなサウンドになる可能性があるからね。
——では、自分がソングライティングに影響を受けた人の中で、普遍的なメロディと、クラブ・ミュージックのプロダクションとでそれぞれ影響を受けた人を挙げるなら?
僕がエレクトロニック・ミュージックを作ろうと思ったきっかけが、アヴィーチーだったんだ。彼の音楽はクラブ・ミュージックでありながら、同時にキャッチーで綺麗なメロディを持っていて、すごく頭に残る。そういうことを意識するようになったのは、やっぱり彼の影響なんだと思う。
他にも好きなプロデューサーは沢山いて、たとえばスウェーデンのオリヴァー・ネルソンも大好きだし、有名無名問わず色んな音楽を聴いているよ。ちょっと待って、今携帯のプレイヤーを見てみるけど……たとえば、最近だとトゥー・フィート(Two Feet)。彼はここ最近よく聴いているプロデューサーだね。彼は歌うことも、ギターを弾くこともできて多才なんだ。あとは、フランシス・アンド・ザ・ライツ。
それから、カルヴィン・ハリスの新作も素晴らしかった。これまでとは全然違うサウンドになっていて興奮したよ。
——話を聞いていると、今のあなたはクラブ・サウンドと歌とをより上手く融合させて、新しいものを作ることに惹かれているような印象を受けました。
ああ、もしかしたら、そういう意味ではカルヴィンの新作と僕の今のサウンドの雰囲気は、ある意味ちょっと似ている部分があるのかもしれない。他のプロデューサーもそうだけど、みんなそれぞれやってることは違うのに、どこか似ているような雰囲気を感じる部分があるのは確かだから。
——そして今回、あなたの最新アルバムが完成間近だそうですね。
そう、もうちょっとで完成するんだ! 今ちょうど最終プロセスだよ。