ファッション・音楽共に最高峰のクリエイティブが溶け合ったパーティー<TOGETHER WE DANCE ALONE>が5月17日に表参道・VENTで開催された。
本イベントに参画したのは日本のsacaiと、ドイツのDixon。世界に名を轟かせている両者が描いた忘れがたいあの夜をルックバックしよう。
sacai / dixon
「TOGETHER WE DANCE ALONE」
「TOGETHER WE DANCE ALONE」、これは表参道にあるイベントスペースVENTにて去る5月17日に開催された、日本のファッションブランドsacaiとドイツ・ベルリンのDJ、Dixonによるコラボレーション・パーティーに冠された名前である。Dixonは今までにも同盟のイベントを世界各地で開催してきた。
sacai
sacaiは「日常の上に成り立つデザイン」をコンセプトに、今では世界40カ国以上で販売されている日本を代表するファッションブランドだ。デザイナーでありブランドの代表でもある阿部千登勢のクリエイションは、スタンダードなものをハイブリッドにし、異素材とのミックスやディテールにこだわったアイテムで男女ともにファッション業界からも高い支持を得ている。
阿部はオバマ元大統領によるホワイトハウスでの晩餐会に招待されるほど国際的に活躍するトップデザイナーであり、ファッションウィークで発表される毎回のコレクションは非常に高い注目度を誇っている。
Dixon
Dixonはエレクトロニック・ミュージック・マガジンの世界的権威、Resident Advisorの読者投票で4年連続ベストDJ1位に選出された名実ともに世界の頂点に立つ、凄まじい人気を誇るDJだ。キャリアの初期にはAtari Teenage RiotのパーティーでDJをしていたり、Jazzanovaが率いるレーベルSonar Kollektiveに所属していたりとベルリンの音楽シーンの中心部から活動を開始していた。
ファッションにもこだわりが強いのは有名でその独特なセンスは、個性的なオーディエンスの多いベルリンのクラブでも目立つ存在だったという。
2005年には盟友であるÂmeの二人とともにInnervisionsというレーベルを発足。独自の審美眼で厳選された作品をリリースする超優良レーベルとして活動したり、古城や離島、博物館など非日常的な場所で開催するパーティーLost In Momentを主催するなど、常にオーディエンスに特別な瞬間を音楽を通して提供し続けている。
そのsacaiとDixonがコラボレーションパーティーを行い、この日のためだけにオリジナルの洋服をデザインして限定販売するという、ファッション業界と音楽業界の双方が注目するイベントが開催されたのは、とても画期的なことである。
そもそも音楽とファッションは密接なものであり、様々な音楽ジャンルにはすぐにそれと分かるアイコン的なファッションスタイルがあったのは今や昔の話かもしれない。ややステレオタイプな意見だが、パンクファッションといえばライダースジャケットとラバーソウルの靴だったり、ヒップホップファッションといえばビッグシルエットにベースボールキャップ、ヴィジュアルロック好きはゴスロリに代表されるようなファッションだったり、その人の着ている服を見れば好きな音楽の趣向と時代感がわかったものだ。
ところが現在では、情報がフラットになり多様性が受け入れられるようになって、聴く音楽も様々になれば、着るファッションも人それぞれで、皆が好きなものを自由に追い求めている。当然どちらにも興味がない人も多くいるのは間違いなく、受動的に耳に入る音楽を聴き入れ、ファストファッションで満足する人もいれば、周りと同じような格好をしないと疎外感を覚えてしまうような人もいるだろう。
今回のパーティーで言えば、もちろんユニークでファッショナブルなオーディエンスが多く集まっていた。音楽もファッションも良し悪しは個人個人が決めることだと思うが、sacaiとDixonがそこまで世界的に熱心なファンを抱える秘訣がこのパーティーを通して見えたように感じられた。
良いDJとは一体なんだろうか? 誰もが知るヒット曲を連発でプレイし、オーディエンスを熱狂の渦に巻き込むタイプのDJもいれば、1人でロングセットをプレイし、様々な展開を織り交ぜつつオーディエンスをフロアに長時間釘付けにさせるタイプのDJもいる。これも良し悪しは聴く人それぞれの判断に委ねられるものだが、Dixonは後者のタイプのDJである。まるでストーリーテラーのように、シームレスにプレイする音楽で一晩の物語を創り上げていくのだ。さらに言えばそのクオリティが尋常ではない。
厳選された音楽とそれをプレイするスキルはもちろんのことで、自分仕様にカスタムメイドした唯一無二のDJミキサーをこのイベントのためにわざわざベルリンから持ち込み、サウンドエンジニアであるマネージャーが入念なサウンドチェックを行い、VENTが誇る都内屈指のクオリティの音響空間を最大限に発揮するために準備を怠らないのである。それはすべて、オーディエンスのより良い体験のために計算されているのである。
尋常ではないと言えばsacaiも然り、こだわり抜いたデザイン、素材、製作過程を経て完成された商品はまさに作品と言え、もちろん身に纏う衣服しても抜群の着心地の良さ、着る者の気分まで高揚させることで、洋服を着るという体験を通して多くの愛好家を世界に抱えている。
今回sacaiがDixonとともにコラボ製作したプルオーヴァーも、両者のこだわりが反映され、異素材の独特の切り返しが特徴的であり一見してsacaiのクリエイションだとわかるデザインに仕上がっていた。
パーティーはMotoki a.k.a. Shameが早い時間から集まったオーディエンスをじわじわとウォームアップさせるように会場の空気を徐々に創り上げていき、Dixonが登場する頃には平日深夜にも関わらず会場は満員となっていた。
そしてメインアクトであるDixonによる3時間にわたる圧巻のパフォーマンスが繰り広げられてゆく。決して派手ではないが淡々と一定のグルーブをキープしながらオーディエンスをコントロールしていく様は、フロアにいる一人ひとりそれぞれがDixonの紡ぎ出すストーリーの登場人物の1人となって入り込んでいくかのようである。
あれだけの音量ながら耳が痛くはならず、むしろフロアに居ることが次第に心地良くなってくるのは、やはりDixonのプレイのクオリティが非常に高くVENTの音響空間のデザインが優れているからに違いない。殆どのオーディエンスが終始にこやかな表情で楽しんでいるように見受けられたことが印象的でもあった。
“TOGETHER WE DANCE ALONE”というパーティー名は直訳すると「一緒になって、独りで踊る」となり、何のことかさっぱりで意味がわからないかもしれない。
しかしDixonはその言葉の意味を、それぞれが感じたままに捉えてくれればいいと言っていた。一見一聴すると難解に捉えられるかもしれない両者のファッションと音楽の世界観が見事に融合し、各々が感じるままに楽しむことで素晴らしい一体感を創り上げたパーティーだったことは言うまでもない。あの現場でしか味わうことのできない空気感は、フィジカルな体験の重要性をあらためて教えてくれる一晩であった。
簡単にコピーすることのできない経験を得るためには直に現場に赴いて参加して、自ら楽しむしかないのである。コンテンツを体験して消費することの大切さがあらためて見直されている昨今、お気に入りのファッションを身に纏って、各地で行われているパーティーにぜひ参加してほしいと思わされた一夜であった。
Text・Photo by Official