想起させたり、想いを馳せたり、自分を佇ませたり、思い浮かばせたり……光景感を持った楽曲に定評のあるアーティストは多い。しかしその大半は映像的なものばかりだ。そんな中、ビートメイカー/プロデューサー/シンガーのササノマリイが生み出す音楽は、どこかそれらとは違っている。ハンドメイドで肉筆感や温かみを帯びた原風景や情景等の絵画を思い浮かばせるものが多いのだ。しかも各歌内では、けしてそれらについて歌われてはいないのだから不思議だ。

そんな印象のササノマリイの音楽性であったが、今回のニューシングル“MUIMI”には驚かされた。これまでの彼のイメージに無かった面や要素が突如として飛び出してきたからだ。

これまでの彼の特徴とも言えた若干の心地良さを交えたチル気味のウェービーなサウンドとは対照的に、EDM性の強いガシガシとした明瞭なエレクトロサウンド。

しかし逆に歌詞やメロディはどこか所在ないようにも聴こえる。新しいようでいて彼らしい。ある意味そんな矛盾する2極の同居をこの曲からは感じた。

adidasやSTUSSY、G-SHOCK等とのコラボーレーションを成してきたUKで活動中のアーティストJoe Cruzとのコラボ楽曲でもある“MUIMI”は、そのJoeのアートワークでのコラボもトピックな楽曲。

ササノマリイの新要素と拭い切れないササノマリイらしさの相反する2極が同居しているのも興味深い。「無意味」という「意味の無い意味」の存在について深く考えさせられる同曲。今回はそんなササノマリイや、この“MUIMI”をアートワーク方面から紐解いてみたい。

Interview:ササノマリイ

ササノマリイ、Joe Cruzとのコラボで生まれた「MUIMI」に込められた意味とは?絵画的な音楽の魅力を紐解くインタビュー interview181119-sasanomaly-3-1200x1200
ササノマリイ×Joe Cruz

——ササノマリイさんの歌やサウンドからは、映像よりもむしろ絵画を思い浮かばせます。いわゆる絵画の連続が物語を形作っているというか……。

まさにその通りです! 自分でもその意識で楽曲を作っている面があって。自分の中での風景や情景はドラマティックな景色よりも、むしろ一つの情景やそれを切り取ったものだったりしますからね。それが静かに動いていく、そんなイメージが制作上で浮かぶことも多いです。

——ちなみにその源はどの辺りから来ているんでしょう?

今でも知り合いの展示会や個展等にもちょいちょい行ってはいますが、実は僕、学生の頃はグラフィックデザイナーを目指していたんです。その時も並行して音楽はずっと作ってはいましたが、音楽との付き合い方をどうするか? を考えていた際、最終的に自分が自分の全てを賭けて表現や力を注ぎこめるのは、やはり音楽の方だと行き着き、音楽を選んだんです。なのでアートや美術は自分には常に近い関係値にあって。まさに僕にとって音楽とアートは切っても切り離せないものだったりしますね。

——では、意外にもピクチャー派だったりするんですかね? ちなみに「リンゴ」と聞いてパッと言葉と現物のどちらが浮かびました?

現物ですね。

——いわゆるピクチャー派ですね。でも、言葉を伝えることを意識している方が多いシンガーソングライター界隈では、それは珍しいのでは?

今ようやく自分が何故歌詞を書くに苦労してきたのか、その理由が分かりました(笑)。自分は比較的、先に音を作ることが多くて。そこから浮かんでくる景色や情景があるんですが、それを自身で受け取って、それを何とか言葉化している流れなんです。

——ササノマリイさんのリリックは、いわゆる心情描写や心の機微が主なのに対して、それがけっして情景描写から表しているものではないところが以前から疑問でした。

まさしく。例えば雪が降る情景が浮かび、それを歌詞化する際にも、けして「雪が降って」と表現したくないタイプですから。それを描くなら、雪の降っている中に自分、もしくはそれ以外の何者かがいて、そこで動く心情や雪が降ったことに際し自分にどのような感情の動きがあったのか? を言語化したいタイプなんです。なのでどうしても、その景色や情景を見て、それを言葉に変えるならというプロセスを経るのでそれに時間を要しちゃうんですよね。歌詞を書いている途中でも長く時間をかけ過ぎて、しまいには「果たしてこれは何を歌いたかったんだろう…?」と自分でもなる時がありますから(笑)。それぐらい思ったもの、感じたものまで、情景描写に頼ることなく書き表したいんです。

——なるほど。なんとなくササノマリイさんのこれまでの歌詞とサウンドが、独立性を見せながらも融合して一つのものとして成立している理由が分かりました。

ありがとうございます。話していて、それはやはり自分は元々インストゥルメンタルを作ってきたのが大きく関係しているんだろうなと思い当たりました。

——それは?

より多くの人に伝わりやすいようにと歌に移行していき、今のスタイルに行き着きましたが、自分の中では常に言葉は、どうしても物事を限定させてしまう印象があって。でも、僕の場合はそこは明確に伝わらなくてもいいとあえて割り切っていて。それこそ言葉は、若干見えやすくなるパーツの一つでいいとさえ思っていますから。

——では本質的に伝えたいのは実は歌ではなかったり。

ストーリーを説明する為の歌ではないことは確かです。それよりかは言葉と音、それらを合わせて感じてもらったことで生じる心の動き。僕が浮かんだ風景や光景をそのままの形で伝えるのではなく、一度音に変換をして、それを受け取り手の景色として変換してもらいたくて。その方が実物の写真等を見せるよりもより伝わるでしょうから。

——確かに余白や行間がある分、そこに自身の感受や想いも融合させられますもんね。

その方が絶対に歌に入り込めるし、自身をその歌の中で佇ませられますから。それがある種、自分と受け取り手の共感性なんだと思っています。

——ここまで話を聴いて来て、今回の“MUIMI”の音と歌、言葉との独立性にも納得がいきました。今作はまさしく今、おっしゃって下さったものが根底にあるからこそ成り立っている楽曲ですもんね。

そうなんです! そこがこれまでと全く違ったところで。これまでは比較的、それでも歌とサウンドを溶け込ませてきたんです。対して今回は今の環境、今の歳、今いる場所、それらと今使えるものを使って、今までやってこなかったプロセスややり方で、これまでの自分の音楽の伝え方とはまた違ったことをしてみたら、どう伝わるんだろう的な実験をしてみたんです。いわゆる、これまで自分がやってこなかったやり方、新しいやり方を用い、今できるものを出してみようって。

——でも、そこに踏み込むには相当の勇気や怖さもあったのでは?

とてつもなくありました。というのも自分がこれまで作ってきたものに関しては自分の中ではだいぶ一貫性を持っていると自負していて。それはこれまで作るプロセスが同じだったからというのも大きいんですが、今後の環境等によって自分の感情や好みも変わっていく懸念もあり、今ならできる、逆を言うと今しかできないんじゃないかと。それもありチャレンジしてみたんです。「やるなら今しかない!!」って。

——その「今しか出来ない」というのは?

歳を重ねれば重ねるほど自分が確立し、その殻を破ったりすることへの躊躇や、周りからの自分のイメージもより固まっていくでしょうから。

——それにしてもこの“MUIMI”でのサウンドの激変には驚きました。これまで比較的ウェービーな路線とは打って変わりEDMでしかもガシガシなエレクトロサウンドじゃないですか。

僕もこれまで色々な音楽をやってきましたが、実はこのジャンルはこれまで表したことがなくて。自分の中の一面を広げる意味も含め今回このようなアプローチにしました。これまで披露することはありませんでしたが、聴いている音楽性でもありましたから。

Sasanomaly 『MUIMI』Music Video

——ちなみにどうして今回この辺りをチャレンジしてみようと?

これまではどうしても、「これは僕の表現すべきものではない」的な壁を作っていたんです。頑固な性質なもので(笑)。それを意図的に抜いてみて、自分的な音楽的なセオリーを壊してみたんです。こういった音楽を作る自分も置いてみたくなったというか。

——でも表層は変わっても本質は基本変わっていませんよね?

そこには自信がありました。これまで様々なタイプの音楽性を送り出してきましたが、都度けして人格を変えて作ってきたわけではないので。これは変えようがない。このような音楽を作ったからと言って以前の自分が消えるわけではけしてないですから。それと今より以前に作っていたら、この完成度には至ってなかったでしょうし。

——確かに。

ちょうど僕の混沌とした感情、ある種まとまり切らない心の行き先、その訳わからなさを形にしたのが今回の楽曲なのかもしれません。今まで無かった自分の要素と自分の中でこびりついていた自分をくっつけた結果、今回の音楽性になったんです。

——対照的にリリックや歌ではこれまでの自身をあえて保持している感もあります。

結果そうなりましたね。正直、最初はそこまでの意識はありませんでした。気づいたらなっていたというか。その「なっていた」というのが、その拭い切れない部分なんでしょう。それは僕が音楽と歌詞を書く上で別のプロセス上にあるのも関係しているのかなって。いわゆる自然と出来上がってしまうものが歌詞で。けっこう自分がコントロールできない部分。意図してこういったことを歌ってみるよというのが難しいのが歌詞の部分ですから。

——分かります。

自然と湧いてくるのが音楽だとしたら、言葉は自分の中から出していくしかないですから。それを毎度精一杯やってます。これまでもそうなんですけど、音楽が言葉を食べている状態。音楽の中に沈み込んでいくように言葉を入り込ませていったんですが、それに対して今回は、あえて沈ませずにそのままにしてみたんです。それによって、何か新しいものが生まれるんじゃないかって。なので、無理して自分の中に無い言葉を使って、且つ今回作った音楽に溶け込ませることはあえて避けました。その方がいいものが出来る確信もあったし。

——このサウンドなので、仮にこれまでのようにそれに合わせて「うぇーい!!」的な歌詞や歌だったら、ことでした(笑)。

パリピに向けて、とか(笑)? やっぱそれって違うじゃないですか(笑)。それは元々自分の中に無い要素だったので助かりました(笑)。

——逆にそれも聴いてみたかったかも(笑)。ところで今回はJoe Cruzのアートとのコラボ楽曲ですね。

元々彼のことは知っていたんですが、ありがたいことに今回描いていただけることになって。元々作っていた楽曲ではあったんですが、彼との世界観に若干寄せていきました。

——正直、対照的なアーティストなので、その融合も今回の楽曲のコンセプトとの合致を感じました。

確かに。このコラボに関しても、全くなかったものを生み出したというよりかは、元々は持っていたんだけど、今まで出してこなかった分や面を出したって感じですからね。その引き出しの中で最もいい形で出せるのがこの融合だったんです。

——MVも驚きました。全編に渡りササノマリイさんがフィーチャーされていて。歴代のMVも所々で自身も映ってはいましたか、ここまでガッツリ終始映っていたのにも何か「このタイミングならでは」さを感じます。

元々僕はそう出たがりなタイプではないので。今回のテーマとして、「今まで出してこなかったものを出してみる」があったので、それに則るとありかなと。

——こちらもかなり勇気が要ったのでは?

もう要ったなんてもんじゃないです(笑)。色々と新しいことをやって心が折れないタイミングだからこそ出来ました。「これまでやったことがない」といった意味では「カッコ良さ」もこれまでやってこなかった要素だったりもしたので、それを引き出していただけました。今回は都会でいわゆる無機質なシチュエーションであえて撮ったんです。

——ここでも対称性……。

ありますね。僕の中で言うと、このような場所はいわゆる敵なんです。僕はもの凄く自然が好きなタイプなので。基本、音楽を風景として捉えているのもそれに関連してるんでしょう。今までは自分の佇んでいる場所を音にしているものが多かったのに対して、今回はあえて人気のない色々な場所に自分を徘徊させてみたんです。その辺りに僕の心情が出ているなって。

——それは?

僕の中ではあれらの場所では自分の存在こそがミスマッチなんです。生身で有機的な物体があそこにいるというのが。僕自身、自分を自分で認められない性格で。それがこんな綺麗に整っているものの中にいていいんだろうか?との疑問。ある種の気持ち悪さやアンバランスさが僕の中では生じてたんです。例えばMV中、僕が歩道橋の階段に座り込んでいるシーンがあるじゃないですか、あれなんて普段の自分からしたら絶対にあり得ないことで。だって歩道橋の階段と言えば人ひとり通れればやっとの場所ですよ。ある種、存在してない人間なのかなって(笑)。いわば死んでいる存在や透明人間的存在。なので、その辺りの孤独感は上手く表せたかなと。歌に関してもあえてだいぶそうなるようにはしました。

——たしかにどこか所在なさげにも聴こえました。でも、これを突破口に更に自由になったぶん、今後は枠や概念にとらわれず更に色々なことが出来るんじゃないですか?

だと思います。

——タイトルの“MUIMI”、これも先ほどの透明人間の話の件(くだり)と近いのでは?

そうなんです。僕の中では無意味という意味というか。無意味=無じゃないですか。意味は無いけど、意味という存在はある。歌詞で言うと《透明とダンス》=いない存在と踊るといことで。まさにそこに集約されてるんです。今回はそんな「孤独」さをあからさまに表してみようと。無意味って……と本当の意味や真意を考えちゃうじゃないですか。

——言われてみると確かに。

逆を言うと存在しているものには何かしら意味があると思われがちだけど、それだけでもないと言えるわけで。傍ら「果たして自分に意味はあるのか?」といった問答が常に自分の中にはあって。そんな中、その無意味だと思っている自分の存在に意味を添えるものが外部にあると僕は信じていて。何かしらにすがっているものが僕自身にもあって。それが僕の場合は音楽だったりもするんです。

でも、それをあからさまに、「君には音楽があるよ」とか「君には絵があるよ」とか「君には僕が居るじゃないか」とか「ほら守るものがあるじゃないか」といった表現では絶対に表したくなくて。むしろ排除したいぐらい。そんな僕なりの無意味との接し方、それを自分なりに表してみたのが、このタイトルであり、今回の曲だったりするんです。

text by 池田スカオ和宏

RELEASE INFORMATION

MUIMI

ササノマリイ、Joe Cruzとのコラボで生まれた「MUIMI」に込められた意味とは?絵画的な音楽の魅力を紐解くインタビュー interview181119-sasanomaly-2-1200x792

2018.11.14(水)
ササノマリイ

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