スマートフォンが普及し、Apple MusicやSpotifyなど、サブスク音楽配信が大きく台頭したことによって、いつでもどこでも聴きたい曲を気軽に聴けるようになり、音楽はより身近な存在になった。それに伴い、ここ数年でイヤホンのクオリティは驚くほど上がっている。
ちょっと前までイヤホンというと、ヘッドホンに比べて音質も劣り、音にこだわりを持つリスナーからは軽く見られる傾向にあったが、今や本格的なヘッドホンにも引けを取らないハイクオリティのイヤホンが、次々と登場しているのだ。そんな中でも、特にプロのミュージシャンから絶大な信頼を得ているのがSHUREのイヤホンである。
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「Shure」開発総責任者に聞く、世界のトップ・ミュージシャンから選ばれ続ける確かな品質と魅力
自分で音楽をやっている人はもちろん、熱心な音楽リスナーなら、SHUREがマイクのトップメーカーの一つとして君臨していることをご存知だろう。とりわけ有名なのが「SM57」「SM58」と呼ばれるモデルだ(「SM」は「スタジオマイクロホン」の略)。優れた耐久性と、特に中低域の収音性に定評があり、ボーカルやエレキギター、サックス、スネアドラムなどをレコーディングするときによく使われている。
アメリカ大統領の就任演説に使われるマイクがSM57だというのは有名な話だ。また、特徴的な形状のマイクグリルを持つSM58は、ライブでボーカリストが使用しているのを、誰しも一度は見たことがあるはず。それほどまでに「マイクのスタンダード」として、長年にわたり愛用され続けているのである。
そんなSHUREの歴史は、シドニー・シュア(Sidney N. Shure)がShure Radio Companyという無線機部品の小さな卸売業者を、1925年にアメリカ・イリノイ州シカゴで創業したことから始まった。1939年、シングルエレメントを採用した業界初の単一指向性マイクロホン「モデル55 Unidyne」を発売。後に日本では「ガイコツマイク」と呼ばれるようになったその特徴的なフォルムと、高品質な性能により、「世界で最も認められたマイクロホン」としての評価を獲得する(エルヴィス・プレスリーが愛用したことから、「エルヴィス・マイク」とも言われている)。
Shure Classic Microphones I Super55
先に挙げた「SM57」「SM58」は1960年代に発売され、以降もマイケル・ジャクソンが名盤『スリラー』のボーカル録音に用いたことで有名なSM7(現在では後継機のSM7Bと知られている)など革新的かつ普遍的なマイクを次々と発表してきた。モデル55 Unidyneのエルヴィス・プレスリーやSM7のマイケル・ジャクソン以外にもフランクリン・D・ルーズベルト、ジョン・F・ケネディー、マーティン・ルーサー・キング、ローマ法王などの歴史的人物が、演説用にSHUREのマイクを使用するなど音楽業界の外にも広く普及していった。
そんな「マイクのSHURE」が、イヤホンのメーカーとしても知られるようになったのは、90年代後半に開発されたプロ用のインイヤーモニターシステムPSM600に付属していたイヤホン「E1」を、多くのミュージシャンがオフでも装着し、リスニングイヤホンとして使用しているのが口コミで広がったことがキッカケと言われている。それを見たファンや一般ユーザーが、SHUREのEシリーズをタウンユースとして使いはじめたのだ。
「SE215 Special Edition」の音質を検証
筆者が使用しているSHURE SE215 Special Editionは、同社が力を入れている「SE高遮音性イヤホンシリーズ」の、エントリーモデルとして人気の製品である。今回、その使い心地を改めて確かめるためプレイリストを組んでみた。
1:Rei Harakami “long time”
Rei Harakamiの“long time”は、たった1台のシンセのみで構成された短い小曲。エレピ系の音色の、立ち上がる瞬間の粒立ちや、揺らぎながら減衰していく様子、和音を弾いた時の音の濁り方などが、非常によく再現されている。揺らぎの周期のせいか、29秒あたりのアタック音が他と大きく違っているところなどもSE215 Special Editionでははっきりと聴き取れた。
Rei Harakami – long time
2:Bing & Ruth “Starwood Choker”
ビング&ルース(Bing & Ruth)の“Starwood Choker”は、ピアノとチェロで構成されたインスト曲だが、吸い込まれるようなリヴァーブの靄と、その中で流麗に動き回るピアノ、そして地の底から湧き上がってくるようなチェロの侍読音が、点や線、面となって幾重にもレイヤーされていく様子が、SE215 Special Editionでは手に取るように伝わってくる。
Bing & Ruth – Starwood Choker(Official Video)
3:Sampha “(No One Knows Me)Like The Piano”
サンファの“(No One Knows Me)Like the Piano”は、ピアノとサンファの歌声から始まるが、ピアノにかかったショートディレイの粒立ちや、ペダルを踏む音などが臨場感たっぷりに聴こえ、まるで耳元で歌っているようなサンファの声は、ブレスや視察音もしっかりと再現されている。途中のゴスペル風のコーラスは、定位感もクリアだ。曲のエンディングで、ボーカルマイクが偶然拾ったのか鳥の囀りが微かに聞こえるのも、遮音性の高いSE215 Special Editionではならでは。
Sampha – (No One Knows Me)Like The Piano(Official Music Video)
4:Predawn “Don’t Break My Heart”
Predawnの“Don’t Break My Heart”は、曲のアタマと終わりで聞こえる逆回転サウンドと、曲後半に出てくるエフェクト加工されたピアノ(?)以外は、清水美和子の歌とアコギのみで構成された楽曲。弦が擦れる音や、ピックが弦に当たる角度による音の違いなど、SE215 Special Editionでは細かいニュアンスもよく聞こえる。コンプ加工を最小限に抑えたボーカルは、高域から低域までナチュラルに再現されていた(また偶然だが、この曲も鳥のさえずりで終わる)。
Don’t Break My Heart
5:The Beatles “Dear Prudence”
昨年、ステレオ・リミックスでリイシューされたビートルズ(The Beatles)の“Dear Prudence”は、ポールのベースが聞きどころの一つだが、このイヤホンで聴くとスラーやスタッカート、グリッサンドのスピードなどを、巧みに使い分けながら弾いている様子が目に浮かぶ。
Dear Prudence(Remastered 2009)
6:Thundercat “Show You The Way”
サンダーキャット(Thundercat)の“Show You The Way”では、キックの低音と、そのさらに下を這うようにうごめくベース音をSE215 Special Editionが忠実に再現、その上を動くエレピの揺らぎや、複雑に絡み合うコーラスワークなど周波数帯域の近いパートもマスキングされることなくクリアに分離されていた。
Thundercat – ‘Show You The Way(feat. Michael McDonald & Kenny Loggins)’(Official Video)
7:Janelle Monáe “Make Me Feel”
ジャネール・モネイ(Janelle Monáe)の“Make Me Feel”は、舌を鳴らした音をパーカッションとして効果的に使っているのがユニークな曲だが、このイヤホンで聴くとそれがこめかみの裏側で鳴っているかと思うくらい生々しい。
Janelle Monáe – Make Me Feel [Official Music Video]
8:Drake “Nice For What”
ドレイクの“Nice For What”は、極端にローをカットした女性コーラスと、地鳴りのようなサブベース、鳩尾を蹴り上げるような太いキックという質感の違いがSE215 Special Editionではよく聴き取れる。特に2分30秒あたりからの展開は圧巻だ。
Drake – Nice For What
9:James Blake “If The Car Beside You Moves Ahead”
ジェイムス・ブレイクの“If The Car Beside You Moves Ahead”は、細かく加工されたボーカルや、重なり合うシンセの質感がどう再生されるかを確認したが、細かいディティールやニュアンス、音像の奥行きや広がりなどもこのイヤホンでは申し分なかった。
James Blake – If The Car Beside You Moves Ahead(Official video)
10:Carleen Anderson “Let it Last”
最後は、筆者が最も好きな曲であるカーリン・アンダーソンの“Let It Last”で、各楽器の質感や定位感、空間処理などを確認したが、SE215 Special Editionではこれも満足のいくものだった(特に左右で鳴っているアコギのカッティング)。
Carleen Anderson – Let it Last(live)
「SE215 Special Edition」構造の秘密
極端に音を加工せず、原音をなるべく忠実に、かつ低域から高域までバランスよく再現しているのが、SE215 Special Editionの特徴だ。こうしたサウンドの秘密は細部まで再現するシングルダイナミック型のMicroDriverと、屋外でも周囲の雑音を遮断する高遮音性デザインにある。耳の中にぴったりと密着するイヤパッドは、わりと騒がしい場所にいたとしても、その遮音性の高さから「静寂」を作り出し、その上で小型ながらクオリティの高いMicroDriverが高域から低域までをバランスよく再現するので、音の立ち上がりから減衰、そして消える瞬間までクリアに聴き取ることができるのだ。
▲イヤパッドを外したところ。イヤパッドは耳の形やサイズに合わせて付け替え可能
画像元:http://www.shureblog.jp/shure-notes/seven-ways-to-make-your-earphones-last/
しかも、ワイヤレスイヤホンにしては珍しく、ケーブルが着脱式になっている。これはプロのミュージシャンが使うステージで万が一ケーブルの断線が起きた場合でも即座に交換対応できるように考えられた構造なのだが、今ではプロのみならず、一般のユーザーにとってもイヤホンの故障で最も多い「断線」が起きても、本体ごと買い換えることなくケーブル交換のみで安く済むというメリットになっている。
シーンに合わせて交換できるケーブル
Bluetooth(RMCE-BT1)だけでなく、より高音質でワイヤレスリスニングを楽しめるプレミアムBluetoothケーブル(BT2)をはじめ、様々な規格のケーブル(USB-C対応・リモート+マイクケーブルRMCE-USB、ライトニング端子対応・リモート+マイクケーブルRMCE-LTG)のラインナップが揃っているので、再生デバイスや再生環境に合わせて組み合わせを楽しむこともできるのだ。
Bluetooth® 5.0高解像度オーディオ プレミアムワイヤレスイヤホンケーブル(RMCE-BT2)
USB-C対応・リモート+マイクケーブル(RMCE-USB)
ライトニング端子対応・リモート+マイクケーブル(RMCE‐LTG)
「SE215」多彩な製品バリエーション
なおSHUREのSE215と一口に言っても、今回紹介した、より音楽リスニングに合わせたチューニングの「SE215 Special Edition」の他に、原音を忠実に再現することにフォーカスしたSE215がある。どちらも、Bluetoothケーブル、iOS/Android対応ユニバーサルケーブル、ストレートケーブルから自分に合うタイプを選べるラインナップになっている。
SE215
SE215 ワイヤードイヤホン:クリア(SE215-CL-A)
SE215 iOS/Android対応イヤホン:トランスルーセントブラック(SE215-K-UNI-A)
SE215 Special Edition
SE215 Special Edition iOS/Android対応イヤホン
トランスルーセントブルー(SE215SPE-B-UNI-A)
SE215 Special Edition ワイヤレスイヤホン:ホワイト(SE215SPE-W-BT1-A)
イヤパッドはソフト・フォームとソフト・フレックスの2種類、S・M・Lの3サイズがが付属されているので、自分にあったサイズでカスタマイズも可能だ。
パッケージ内容の一例(SE215 ワイヤードイヤホン:クリア/SE215-CL-A)
画像元:https://www.shure.co.jp/products/earphones/se215cl
街中でも移動中の電車でも、大自然の中でも「高音質なサウンド」を気軽に持ち運ぶことのできるSHURE SE215は、日々の生活を彩ってくれることだろう。
Text by Takanori Kuroda