シカゴ出身のシンガーソングライター/ギタリストのライリー・ウォーカー(Ryley Walker)が昨年リリースした最新アルバム『Deafman Glance』を携えて、2年ぶりの来日公演を開催する。
12歳のときパンクバンドで音楽を始め、シカゴのノイズ、エクスペリメンタルシーンを肌で感じて育ち、アーティストとしての成長のプロセスでブリティッシュフォークなどを吸収してきた彼。その音楽性は一聴したところ、ナチュラルで繊細、忙しない日常から一人の人間、ひいては生き物としての自分を取り戻させてくれる穏やかさを持つ。だが、聴き込むほどにジャズやエクスペリメンタルな理論が感性をダイレクトに表現することを可能にしていることに気づかされるのだ。彼自身がシカゴの街は「惨めで美しい」と自覚しているように、そのアンビバレンツがライリー・ウォーカーという音楽家の旋律やグルーヴを特別なものにしている。
Ryley Walker – 22 Days(Live at Sonic City 2018)
アメリカンプリミティヴギター・シーンというシーンがあることを彼を通じて知ったが、1939年生まれのジョン・フェイヒー(John Fahey)が60年代中盤以降のブルース・リバイバルの核に存在し、後にジム・オルーク(Jim O’Rourke)やグレン・ジョーンズ(Glenn Jones)のサポートにより作品を世に送り出している。ライリー・ウォーカーはジム・オルーク経由でジョン・フェイヒーにたどり着いたと想像するが、ある種、素朴なフォークミュージックから、実験音楽まで包摂するアメリカン・ミュージック、それもどちらかと言えばトラッドな道のりを歩んできたアメリカン・ミュージックの地層の厚さに圧倒される。
一音に込められた嘘のない個人としての思いと瞬発力。そして暖かいようで侘しいような、ドライなようでウエットなような二面性にたまらなく魅力を感じる新作『Deafman Glance』。この作品を軸に、即興のジャムも行うとコメントをくれた彼。東京は渋谷の7th Floor、京都はUrBANGUILDと、いずれも親密なムードが醸し出されそうな予感。忙しない季節にぽっかり空いた空間にハマってみるのもきっと悪くない。
以下、来日前の彼のメール・インタビューを紹介しよう。
Interview:Ryley Walker
改めて音楽的なルーツとその融合のオリジナリティについて
──10代の頃はパンクバンドをやっていたこともあるというあなたがフォーク・ミュージックに惹かれるようになったきっかけのアーティストを教えてください。
インディ・ロックの限りない可能性を楽しんでいるよ。例えば、シックス・オルガンズ・オブ・アドミッタンス(Six Organs of Admittance)やウッデン・ワンド(WOODEN WAND)、エスパーズ(Espers)、ハッシュ・アーバーズ(Hush Arbors)、ザ・サンバーンド・ハンド・オブ・ザ・マン(Sunburned Hand of the Man)などのバンドはみなパンクロッカーだし、それでいてフォークを演奏しているんだ。
──彼らの音楽のどんな部分に影響を受けたのか教えてください。
いつも様々なジャンルの音楽を楽しんでる。10年ほど前はジム・オルークのスタイルに没頭していたし、ジョン・フェイヒーもよく聴いていたよ。
──ニック・ドレイク(Nick Drake)やジョン・マーティン(ohn Martin)はあなたの音楽にどのような作用を及ぼしましたか?
彼らの作品はとてもサイケデリックで、よく響くんだ。
──プロデューサーである元ウィルコ(Wilco)のリロイ・バックからの影響は?
彼は素晴らしい音楽センスを持っている良き友人だね。彼はFREEも大好きなんだ。
※FREE 1969年結成のイギリスのブルースとソウルを指向したバンド。一般的には“オール・ライト・ナウ”のヒットがよく知られる。
Free – All Right Now
──シカゴという都市はあなたにとってどんな存在ですか?
素晴らしいアーティストたちで溢れている穴かな。冷たくて地獄のような穴。
──トータス(Tortoise)やシー・アンド・ケイク(The Sea and Cake) などの音響派があなたの音楽に与えた影響とは?
シカゴの音は常に僕の一部にある。それは惨めで美しいんだ。
近作『Deafman Glance』(2018)について
──アコースティックギター主体のシンプルな歌ものという以上のアヴァンギャルド性を感じる作品になった理由は?
コーラスを減らした作曲のアプローチがそうしているのかもしれないね。あとはアンギュラーコード。
※アンギュラー angularには「ぎこちない」「尖った」などの意味がある。
──今作のインスピレーション源になった最も古い音楽と新しい音楽を教えてください。
最も古い音楽:ジェネシス
最も新しい音楽:2000年代のRed Krayola
──今作についてあるコメントで「よりシカゴっぽいサウンドになっている」と話していますが、ここでの「シカゴっぽい」とはどんな時代の音楽のことを指すのでしょうか。それともシカゴという都市の性質を指しているのでしょうか。
「とても自己を意識していて、感傷的」ってことかな。
Ryley Walker – Telluride Speed(Official Audio)
──コード進行や和声にジャズのニュアンスも感じるのですが、外的な影響があったのでしょうか。それともそもそもあなたの中にあるものなのでしょうか。
基本的に僕のバンドはジャズミュージシャン達で構成されているんだ。彼らの演奏が音楽に素晴らしいジャズのニュアンスをもたらしてくれている。
──今作ではないですが、今年リリースしたジャズ・ドラマー、チャールズ・ラムバックと『Little Common Twist』を制作しています。インストアルバムを作ることで得られるフィードバックはどういったものでしょう。
この作品は2年前に録音していて、ようやくリリースすることができた。ほとんどは即興だね。インストゥルメンタル・ミュージックは僕の原点なんだ。あと、僕の作品について、誰も同じような作風を期待しないことを願うよ。
来日公演について
──前回2017年5月の来日公演で記憶に残っていることはありますか?
食べ物がとても美味しいよね。これまでで食べてきたものの中でもベストだよ。みんなとても優しいし、戻ってくることできて光栄だよ。
──今回の日本でのライブセットは『Deafman Glance』をメインに据えるのでしょうか。
その通り。あと昔の曲と、たくさんのジャム。
Ryley Walker – Spoil With The Rest(Live at Sonic City 2018)
──ところであなたも興味をもってらっしゃるという細野晴臣はミュージシャンデビュー50周年で、国内外で評価が再燃しています。彼をはじめ、日本のアーティストから影響を受けることはありますか?また、あるとしたらどんな部分でしょう。
彼の音楽は大好きだよ。特にシンセ中心の『COCHIN MOON』。彼は神のようなものさ。
──最後に2020年を目前に、あなたの音楽はどう変化しつつありますか? これまで通りたった一人の個性を内省的に突き詰めてきたイメージのあるあなたの音楽のスタンスは変わらないのでしょうか。
よりタイトなアレンジメントとより良い響きを追求していきたい。あと、ジェネシスを聴くのをやめられないんだ。
発言からも、親しみやすいシンガーソングライター/ギタリストという枠を超えたライブが期待できそうな今回の来日。貴重な2公演は見逃せない。
EVENT INFORMATION
INDIE ASIA presents Ryley Walker Japan Tour 2019
2019.12.12(木)
OPEN 19:00 / START 19:30
東京・Shibuya 7th FLOOR
Support Act:betcover!!(弾き語り)
2019.12.13(金)
OPEN 19:00 / START 19:30
京都・UrBANGUILD
Support Act:betcover!!(弾き語り)