コロナパンデミックとなった2020年3月、それは“世界の終わりの始まり”の序章に過ぎなかった。ウイルス感染の不安や心配はやがて疑念へと変わり、今では怒りとなって真っ黒い感情に支配されてしまうことさえある。すでにロックダウンがノーマルライフとなりつつあるドイツは、夜間外出禁止などの新ルールを追加し、国全体でルールを統一するための法改正へと踏み切った。感染者数が減っていないのなら、ロックダウン自体が意味をなさないというエビデンスを示しただけなのではないだろうか? より混沌とした時代へと突入した2021年、1年の終わりに私たちは一体どんな世界を見ることになるのだろうか?新たな不安が募っていく。

その一方で、この状況下でたくましく暮らすタフな日本人たちと出会う機会が増えている。ワーキングホリデー制度を使い、自由なベルリン生活を夢見て移住してきた直後に、コロナパンデミックという数奇な運命に直面した人たちだ。彼らと出会って真っ先に思ったことは、“どうやってサバイブしてるの?”である。

そこで今回は、2019年6月に移住してきたイラストレーターのナガタニサキさんと、2020年2月に移住してきたライターの冨手公嘉(Hiroyoshi Tomite)さんの2人にスポットを当て、今の心境を語ってもらった。

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Photo : Hinata Ishizawa

INTERVIEW:
ナガタニサキ/冨手公嘉

──コロナパンデミックの直前にベルリンに移住してきたアーティストやクリエイターに、その時の心情や今の状況を語ってもらうという企画なんですが、(ナガタニ)サキさんは2019年6月に移住されたんですよね? その時はまだコロナの影響はなかったですよね?

ナガタニサキ(以下、サキ) はい、そうですね。私が移住してきたばかりの時はまだコロナは関係なかったです。トミーさん(冨手公嘉さん)はまさに! のタイミングでしたよね?

冨手公嘉(以下、トミー) 僕は2020年の2月だったので、ギリギリ!? ですかね。コロナのパンデミックはアジアから始まったので、日本でも感染者が出て深刻になりつつありました。

──本当にギリギリですね! よくそのタイミングで移住を決意されましたね??

トミー 2019年11月の時点ですでにワーホリ(ワーキングホリデー)ビザを取っていたんですよ。12月が誕生日なんですが、2019年がワーホリの最後のチャンスだったんですよね。本当はずっとイギリスに行きたくて、26歳ぐらいからワーホリ申請を何度かしていたんですが、抽選にあたらなくて。ヨーロッパには仕事でもプライベートでも一度も来たことがなかったんですが、住むなら漠然とヨーロッパがいいなと思っていたんです。

僕にとってはカルチャー、特に音楽文化がきちんと根付いている場所っていうのが重要だったので。ベルリンを都市に選んだのは、偶然ですけど昔から花代さんの写真集『ベルリン』を持っていたり、旅行に行ったことのある友人から話を聞いていたりして、何となくおもしろそうって言うのが頭のどこかに蓄積されていたんだと思います。

──ワーホリきっかけでコロナきっかけではないにしろ、一番すごい時に来ちゃいましたよね?

トミー “来ちゃったなあー……。”って感じですよね(笑)。でも、とにかく自分の人生を変えたかったんです。このまま日本にいても自分の30代が見えてしまう気がしてつまらなかった。大学が外語大だったから語学の問題はなかったし、とりあえず行っちゃえ~くらいのスタンスでしたね。ワーホリで1年いて、おもしろかったら延長すればいいと思っていました。それに、コロナによって違う好奇心が湧いたんですよ。

ドイツは政府の対応がめちゃくちゃ早かったし、国全体としても州政府としても社会福祉や市民からの声を吸い上げる文化が整ってるのだなと思いました。多分ですけど、僕はコロナじゃなかったら、毎週末パーティーに行って、遊びまくって、そういった生活に1年で飽きて帰国していた気がするんです。もちろん、もっとパーティーに行きたいし、ライブにも行きたいですが、エンターテイメントが皆無な状況で、ベルリンの街やアーティスト団体が粘ってなにかやろうとしている動きに興味が湧いたんですよね。そういう風にすぐに連帯できる背景に、何があるのかを知っておきたいって気持ちがうずいてWIRED.jpでも記事にもしました。日本の音楽シーンや芸術シーンよりそういった動きが活発でしたから新鮮な驚きがありましたね。

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*冨手さん提供
「Rolling Stone Japan」
特集扉絵の写真撮影と1度目のロックダウン後の夏に行われたAlice Phoebe Louの路上ライブについてのエッセイを寄稿

──なるほど。私はコロナ前のベルリンにどっぷり浸かってる側なので、トミーさんのような発想は全然できませんでしたが、確かに、コロナの対策一つとっても日本とは全く違うし、私たち外国人に対しても助成金制度がしっかりしている点においては驚きました。サキさんもトミーさんと同様に日本でワーホリを取って来てるんですよね? 当然ながらコロナを予想して移住しないと思いますが、ベルリンを選んだのはなぜですか?

サキ 20歳と21歳の時にドイツに旅行に来たことがあったんです。ベルリンからスタートして、2回に分けてドイツを一周したんですが、美術館も興味深かったし、ドイツの街の雰囲気が良くて好きだなあと思ったんですよね。あと、犬が……

全員 犬(笑)??

サキ あ(笑)。犬がすごい幸せそうだなーって思ったんです。犬が幸せそうな国っていいじゃないですか! 本当は2回も来る予定ではなかったんですが、友人に誘われて再度ドイツへ来た時に、シュトゥットガルトの美術大学で開催されていた展示を観ることができて、武蔵美(武蔵野美術大学)を卒業したらドイツの美術大学に入ってもいいかなと思いました。

結局それは目指さずに、卒業後は女子美で助手として働き始めたんですが、在籍中に女子美が教員者向けにベルリンのエキシビジョンスペース“Bethanien”での1ヶ月滞在の募集を行っているのを発見したんです。それに応募したら補欠でダメだったんですが、そこからドイツへの思いが復活して、助手の任期を終えたことを期に渡独を決意しました。だから、私の場合はベルリンというよりドイツに住みたいという気持ちの方が大きかったんだと思います。助手を辞めてから、フリーでイラストの仕事を受けつつ、ある程度ドイツ語を取得してからベルリンへ来ました。

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*ナガタニさん提供
「渋谷ヒカリエ カフェ&レストラン」リニューアルビジュアルを担当
Client:東急株式会社 
CD・C:堀内有為子
AD:佐藤茉央里
D:原田里矢子

─偉い!! そんな人初めて聞いたかも(笑)。ここ最近ワーホリでベルリンへ来る人たちはみんなしっかりしてますね。昔なんてとんでもない人だらけでしたから(笑)。でも、お2人とも移住してきて、まだ落ち着かないうちにコロナパンデミックとなってしまったと思うんですが、その時の状況というか、どうしてました?

トミー 住民登録とか銀行口座とか生活に必要な手続きを一通り終えて、クラブも2~3回行って、ようやく少し街に慣れてきて。キング・クルール(king krule)のライブに行けた! と思ったらすぐにロックダウンになりました(笑)。そのライブも2020年の3月9日で、コロナで諸々中止の議論がされていた雰囲気だったので、何となくこれが最後になるんじゃないかと頭の片隅で思ってましたけどね。でも、正直言うと僕はまだその当初って語学学校で知り合った友達ぐらいしかいなくて、パンデミックのヤバさが分からなかったんですよ。

もし、これが自分が長く住んでいた東京だったらいろんな状況がいろんな人から自然に入ってきて、イヤでも分かると思うんですが、そうじゃないからあんまり危機感がなかったと思いますね。ただ、フラットメイトのポーランド人がものすごくパニックになってて、毎日僕に感染者数を報告してくるんですよ。正直、あの当時をどう振り返っていいのか分からないんですよね。街にも慣れてない、知り合いも少ない、そんな状況でのロックダウンだったので。毎日落ち着かないから、とにかく毎晩リビングに集まってフラットメイトみんなで飲んで話してました(笑)。

──まさかのベルリンナイトライフが数回で“はい、終了!!”は勘弁して欲しいですよね(笑)。でも、2020年3月の1回目のロックダウンの時は誰も状況を理解出来てなかったと思います。サキさんもトミーさんも、もともとやりたいことがあってベルリンへ移住してきたのに、1年も経たないうちにパンデミックからのロックダウンとなってしまったわけですよね? “こんなはずじゃなかった!”って、途方に暮れたり、逆に憤りを感じたりしませんでしたか?

トミー もうそんなどころじゃなかったですよね。まず、慌ててるフラットメイトを元気つけてあげなきゃ! とか、違う使命感に駆られていたし(笑)。あ、でも、“ロックダウンプロジェクト”というのをフラットメイトとやってましたよ。“Quarantine Diary”と題して。花屋で働く日本人女性がフラワーアレンジメントして、それをポーランド人が写真撮って、僕が日記代わりの詩を英語で書くというプロジェクトを。今思えばそういうことをやって、どうにか気持ちをなだめていたのかもしれないですよね。

サキ 私は絵描きで、絵描きって基本室内で仕事するじゃないですか? だから、ロックダウンになって人とあんまり会えなくて寂しいとかはありましたけど、私これからどうなっちゃうんだろう!? という不安にはあまりならなかったですね。日本からの仕事があったし、明日から生活に困るという状況ではなかったです。このことに関しては、日本のクライアントさんには本当に感謝しています。日本には素敵なイラストレーターさんが大勢いるのに、海外在住で他のイラストレーターの方より手間のかかる私に依頼してくださったことは本当に嬉しく思っていますし、とても励みになりました。

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*ナガタニさん提供
リアル化学 サロン専売ヘアカラー剤「メイリー セゼ クロス」パッケージデザイン
現在第二弾制作中。

この街でサバイブできるのか

──ベルリンはフリーランサーが多くて、もとからリモートで仕事してる人も多いから、生活が大きく変わらない人も多いかもしれないですよね。

トミー そうですね。僕も日本から仕事を受けていたので、ロックダウンになっても仕事の状況は変わらなかったです。

──あ、やっぱりそこですよ! コロナ禍でもきちんと仕事があって、ベルリンでサバイブできる人たちへのインタビューになってしまいました(笑)。ロックダウンになって何も出来ない! ってパニックになってる人も多い中、ちゃんとやっている人たち代表ですよね。

トミー&サキ いや、そんなことないですよ!

──やっぱりコロナ禍で一番打撃を受けているのが、ミュージシャンやパフォーマー、プロモーター、クラブなどの音楽関係者なんですよね。ギグもない、ギャラもない状態がずっと続いているわけです。当然ながら、それは日本人に限った話ではなく、ドイツ人でさえそうですから。だから、そんな中で移住してきたばかりの人たちはどうやってサバイブしてるんだろう? って、すごく気になったんですよね。

サキ そういう点では、日本から頂いている仕事があったから、突然路頭に迷うようなことはなかったですね。貯金もある程度してきていましたから。ただ、やっぱりドイツでの仕事を探すことは困難になりましたね。ワーホリからフリーランスビザに切り替えてから、アーティスト活動を外に向けてやろうと思っていたんです。

ベルリンのギャラリー等でエキシビジョンをやりたいとも思っていました。コロナが関係ない時に通っていた語学学校で一度だけ展示をやらせてもらったんですが、それ以降は出来ていないのが現状です。私、ビザの更新時期がちょうど、1回目のロックダウンの時だったんです。もう移民局はパニックになってるし、対面でのインタビューの予約を取っていたんですが、強制キャンセルになりました。移民局に必要な書類だけ出しに行って、1週間後ぐらいに、”はい、3年ね!”って、あっさりもらえましたけど(笑)。

──多くの人が受けたというコロナ恩恵を受けることが出来たんですね! それはラッキーだし、羨ましい(笑)! そうでなくても当然取れたと思いますが、いろんなことがカオスの時期に初のビザ更新だったんですね。それもヘビーですね……。

サキ そうですね。無事に3年のビザが取れたはいいけど、今度はアプローチするのに尻込みしてしまいました。ロックダウンでいろんなアーティストのエキシビジョンが延期になってる中で、自分が入る隙間なんてあるのか? って、マイナスに考えてしまうこともありました。でも、これって、絵描きあるあるだと思うんですが、絵が描ける環境があればいいじゃん! って、すぐに思い直したんですよね。私は、もっとガツガツ仕事したい! というのがないのかもしれないです。なので、ロックダウンになっても割と穏やかに過ごせてたと思います。

トミー 僕もサキもたまたまサバイブできているけど、そうじゃない人が世界規模でいるってことは事実だと思います。コロナ禍に移住している時点で運が良かったとは思わないですけど、今もずっとロックダウンが続いている状況で、雑誌を創刊号から編集したり、エッセイの執筆依頼があったり。前向きに取り組める仕事があったお陰で、ありがたいことにどうにか生き延びてこれたっていう感覚ですかね。

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*ナガタニさん提供
自室の一角を制作スペースに。
お気に入りのドローイングを貼ったり、好きな物や花を飾ったりして、自分の世界に集中できるようにしている。
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*冨手さん提供
『new-mondo magazine』2020年12月創刊
日常の延長線上にあるロマンを拾い上げ、カルチャーへの感度が高い人々が反応するようなコンテンツを展開する文芸誌。企画編集及び執筆を担当。

サキ そう!! まさにそう! どうにかなるんだなと思いました。あと、ちょっとしたことに幸せを感じれるようになりました。

──え、例えばなんですか??

サキ 今日は天気がいいなーとか。ワンちゃん、かわいいなーとか。幸せだと思う基準が下がったんですかね(笑)? スーパーのレジの人が、心から挨拶してくれると素直に嬉しいんですよ。日本にいたときは当たり前でなんとも思っていなかったことが、ベルリンに来てから小さな幸せに変わりましたよね。

トミー 分かる、分かる。

──自分の心がいかに荒んでいるかじわじわと分かってきました(笑)。でも、そういう小さな幸せって、コロナに関係なく、海外生活で気付くことですよね。

トミー よりこちらの人は、人間っぽい感じがしますよね。よくも悪くも自分の感情に素直というか。去年、夏の間だけ一瞬クラブが開いたじゃないですか? ビアガーデンとして営業していた“Kater Blau”に行ったんですけど、その日虹が出ていてすごい良い景色だったんです。それで、本当は撮影しちゃダメなんだけど、スマホ取り出したら、セキュリティーも同じように“オレも撮っちゃおう”ってニヤっとしたんです。

そうゆう些細なことが良い思い出として残ってます。あとは今までよりアンビエントテクノを好んで聴くようになりました。そもそもテクノよりバンド音楽のほうが普段よく聴くというのもありますが、今家で聴きたいのは、クラブで流れるような硬~いビートの音じゃないなぁと思って。

──確かに、最近やたらとアンビエントのリリースが多いなとは思いました。それってコロナの影響なんですかね? みんな癒しを求めているのか、ホームリスニング向きなサウンドが多いです。話変わりますが、コロナ禍でもそれほど切実ではない時点で、今回の企画の主旨からすでにズレてしまってるんですが(笑)。ロックダウンじゃなかったらやりたかったこと、やれたなーと思うことはありますか?

トミー 僕はライブやパーティーにも行きたかったんで、どこにも行けないことへのフラストレーションはありますよね。ただ、来たばかりで、毎日必死に生きるのが精一杯で、落ち込まないようにモチベーションを保っていたのはあると思います。必死過ぎて覚えてないかも(笑)。なんとかして楽しむ方法を考えていたんだと思います。

サキ ギャラリーや美術館に行けないのは残念だと思いますし、やっぱり展示はしたいですよね。ただ、ロックダウン前にいろんなギャラリーを回っていて思ったんですが、場所にもよりますけど、敷居が高いイメージがあります。例えば、アンドレアス・グルスキー(Andreas Gursky)のような著名な写真家がギャラリーで個展をしていることに驚きました。

日本や他都市でもそうですが、国立美術館や近代美術館で大々的に展示をやっているイメージですし、私自身もそこでしか見たことがなかったんですよね。
あと、これはコロナ関係ないんですけど、ベルリンはアーティストに優しい街って聞いてはいましたが、あまり実感が湧かないなというのが正直なところです。

──どういった点において優しくないと感じましたか?

サキ こっちのアーティストは実家やWG(フラット)暮らしで、芸術で生計立てることが難しい人も多いじゃないですか? アーティストに対して、寛大だなと思う点もありますが、だからと言って、手厚い支援があったり、成功を約束してくれるわけじゃないし、狭き門であることに変わらないんですよね。バイトしながら自分のアート活動をしている人が多くいますし、それは日本も同じなんですよ。だから、どこにいても結局は自分次第なんだと思っています。

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Photo : Hinata Ishizawa

──確かに、生活保護を受けながら、アーティスト活動しているのが普通で、それが恥ずかしいという風潮もないし、生計立てれてなくても“自分はアーティストです”って自信を持っていう人が多いですよね。

サキ その考え方は素敵だな、と思います。ですが“アーティストに優しい街”っていう意味は、一体何なんだろう? って考えちゃいましたね。ベルリンに来て一年と経たずにロックダウンになってしまったので、まだ私がベルリンの本来の姿を把握しきれてないからかもしれません。  

トミー あ、あった! 大変な話あった!

──お! 是非、“全ベルリンが泣いた!”みたいな話をお願いします(笑)。

トミー ドイツ人コミュニティであったり、移民たちでもアーティストのコミュニティに入るのには厳格な壁がありますよね。ものすごく入りずらいと思いました。差別とかではないですが、アジア人として違う文化圏に来ているのだな、というのは毎日実感しています。ベルリンは比較的どの人種の人も混ざっている街なので、普段生活をしていて居心地の悪さはまったく感じないです。

でも、だからといってアジア人でも何もかもが受け入れられて、っていう場所ではないなと思いました。そのなかで、次はいかにその壁をぶち壊して中に入っていくか、隙間を見つけて潜り込めるかが自分の課題というか。それができたらもっとベルリン生活が楽しくなると思っています。それができなかったらこの街にいる意味がないとも思いますし。ずっとこのままアウトサイダーの目線でロックダウンの街を観察してるだけでは終わりたくないですね。どうにか、中の人として地に足をつけた活動をしたいけど、今はそれが簡単にはできないし、きっかけを見つけにくいのがもどかしいです。コロナ関係なく、移民としての普通の悩みかもですが(笑)。

──今はコミュニケーションを取る場所もないから余計に難しいですよね。以前なら、クラブに行けば誰かと知り合えるし、毎日のようにどこかしらでパーティーやってるし、出会いの場だらけでしたから。

トミー 思っていた以上に壁は高いですね~。この状況下でコミュニティにアプローチしていくのは大変だなと思います。けど、極端な話、今ベルリンに残って活動している日本人はある意味もう全員仲間だと思っていますし、素直に尊敬できるなぁと。いろんな葛藤はありますが、このタイミングで来たのも運命だなと思ってるんですよね。なかなか経験できることじゃないし、この街でサバイブできるのか、できないのか、一個人として試してみたいんだと思います。どっちに転んでもこの経験が自分の人生に絶対プラスになる気がしているので。

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Photo : Hinata Ishizawa

──どこでもサバイブできると思いますよ(笑)。

サキ 日本だったら、映画館に行く、居酒屋に行くとか、そういういろんな楽しめるエンターテイメントがあったと思うんですけど、ベルリンって晴れたら湖に行こう! とか、すごくシンプルだし、特にエンタメがなくても楽しめちゃうんですよね。

だから、今のこのロックダウンの状況が苦痛とは思わないのかもしれないです。凹まないようにしようとポジティブな思考は保っていますが、とにかく、ベルリンに来たばかりの頃は全てが新しくて、感覚がフレッシュだったんですよね。あと、私は一時帰国できたのも良かったと思っています。東京は東京で良いし、ベルリンはベルリンでいいなって気付けましたから。

トミー 確かに! 僕も一時帰国できたので、それがよかったかもしれません。でも、やっぱり冬はきついですね……。

──一時帰国できたの羨ましいです。今はさらに面倒なことになってますからね。チャンスを逃しました。お2人の話はもう“目から鱗”ですね。私のように長く住んでいて、コロナ前のクレイジーな日常が当たり前だと思っている人間にとっては、今のこの“去勢されちゃった”みたいなベルリンにいるのが耐えられないんですよね。仕事がなくて苦労しているアーティストも周りに多いし、そういうのを見ているのも辛いです。

サキ 私はそれほど頻繁にはクラブに行ったりしないので、ロックダウン受入側かもしれないですね。恋しくなることはもちろんありますが、あまり外に刺激を求めてないのかもしれません。

トミー 僕はめちゃくちゃクラブに行きたいです(笑)!

──ロックダウンが明けて、みんなでベルリンのクレイジーサマーを堪能できることを切に願っています! 本日は貴重なお話をありがとうございました!

世界がパンデミックに堕ちる寸前まで、大袈裟でなく、私はベルリンという街で息をしているだけでも楽しかった。“フリーダム”という言葉は、紛れもなくこの街とそこに生きる人たちのために存在していた。コロナ禍という世界の終わりは一体いつ終息し、新しい世界へと生まれ変わるのだろうか?絶望にも近い心情で日々を送る中で出会ったのが、サキさんとトミーさんの2人だった。インタビューをさせてもらいながら、コロナ前のベルリンをあまり知らないというのは、幸か不幸か?と、考えた。それよりも、Z世代やミレニアル世代と呼ばれる未来ある若者たちの方がドラスティックな世の中を生き延びる術を身につけているのかもしれない。

Text by 宮沢香奈
Photo by Hinata Ishizawa

PROFILE

ナガタニサキ/SAKI NAGATANI

イラストレーター
1991年生まれ。2014年武蔵野美術大学造形学部油絵専攻卒業。
2019年6月よりベルリンを拠点に活動中。
女性の持つ曲線に惹かれ、日々女性をモチーフとした絵を描いている。

「焦らず小さな喜びを忘れず、いま自分ができることを大切にしていきたいと思っています。」
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冨手公嘉/HIROYOSHI TOMITE

編集者/ライター|1988年生まれ。2015年からフリーランスで、企画・編集ディレクションや文筆業に従事。the future magazineというプロジェクトを立ち上げ、2019年10月に相澤有紀写真集『Walkabout』の企画・編集を手掛けた。2020年2月よりドイツ・ベルリン在住。WIRED JAPANでベルリンのアートコレクティブを取材する連載「ベルリンへの誘惑」を担当。2020年末より文芸誌を標榜する『New Mondo』を創刊から携わるほか、ミュージシャン・DJの長坂太志と毎週土曜日に『Spotify』ポッドキャストで『ベルリンドキドキ文化放送局』をスタートさせた。

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