“日本の地方がおもしろい”、海外在住の私でもよく耳にする話だ。常に新しいカルチャーがひしめき合う東京は刺激的だけど、その変化の速さに着いていけず、疲れてしまうこともある。コロナ以降、海外へ移住する人は減り、本帰国する人も増え、地方へ移住する人や二拠点の人、帰省する人が増えたように感じる。そして、そうした人たちは拠点を変えるだけでなく、新たな地で新たなカルチャーを構築し、地域活性化にも繋がっているのだ。
そんな中、一時帰国中に友人から教えてもらって知ったのが、昨年、長野県岡谷市にオープンしたばかりのレコードショップ「CELLAR RECORDS」だ。一目で歴史的建築であることは分かるが、何ともフォトジェニックな外観、一癖も二癖もありそうなセレクトセンス、面識もないまま、ほぼゲリラで1周年イベントにお邪魔し、オーナー・浜 公氣(Kouki Hama)さんに話を聞かせてもらった。
明治時代の繭蔵がレコードショップに生まれ変わる。
歴史と音楽が共存する「CELLAR RECORDS」に密着
オーナーの浜さんは、ドラマーとしての顔も持ち、これまでに、mei ehara、柴田聡子、Summer Eye、思い出野郎Aチーム、片平里菜などのサポートドラマーとしての実績を持ち、現在も活動中とのこと。そんな浜さんが、拠点を東京から地元の長野県岡谷市へと移し、自身のレコードショップを始めたきっかけはなんだったのだろうか?
──地元の長野県岡谷市で、レコードショップを始めようと思ったきっかけはなんですか?
当店は、明治時代から残る貴重な繭蔵をリノベーションしたのですが、設計士である父親が個人的に購入した建物になります。保存したいという思いから購入に至ったんですが、そのあと、僕に「繭蔵で何かやりたいか?」と、聞いてくれたんです。そこで、以前から「いつかやるだろうなぁ」と、漠然と考えていたレコードショップをやりたいと父に伝えて、今に至ります。
僕は昔からレコードを買って聴くのが好きだったので、そのような場所を自分自身で作りたかったというのが一番の理由ですね。
──製糸の歴史がある岡谷市ならではですね! 貴重な繭蔵をリノベーションして店舗にしたとのことですが、風情があってレコードとの相性もとても良いと思いました。特に内装でこだわった点はありますか?
改装に伴うデザインやアイデアは、デザイン事務所「Studio Happ」の大西邦子さんと兄である浜 元氣と僕とで手掛けました。歴史的建築を活用した店舗は、近年あらゆる場所でたくさん見かけるようになりましたが、古い建物を使う方法はダサいと紙一重と言いますか、ちょっとしたことでめちゃくちゃかっこ悪くなってしまう危険性があります。なので、そうならないように一番意識しましたね。
やはり、もともとの建物は古い木やハリが多いので、什器は鉄枠にしたり、カウンターはモルタルにしたりと、古い木には感じない“冷たい”印象のものを選んでいます。とにかく感覚的にダサくならないように注意して選択していきました。
──ジャズ、ファンク、ソウル、シティポップが豊富だと思いましたが、レコードはどのような基準でセレクトしていますか?
セレクトの基準は、自分が好きかどうかに尽きるのですが、ソウル、ジャズ、エクスペリメンタルは昔から好きなので、自然と増えてしまったといった感じですかね。あと、具体的なセレクト視点とヘッポコだったりでクスッと笑っちゃうようなレコードをたくさん置くように心がけてます。
──なるほど、ユニークな視点で良いですね。そんな中で浜さんが今最もおすすめしたい1枚とその理由を教えて下さい。
サン・ラ・カルテット(Sun Ra Quartet)の『The Mystery Of Being』ですね。サン・ラがイタリアのジャズ・レーベル〈HORO〉からQuartet編成で2枚作品をリリースしているのですが、こちらはそのレコーディングでのアウトテイク等も収めたコンピレーションになります。
アーケストラ編成よりも音数が圧倒的に少ないのもあり各人の演奏が聴きとりやすく、そのためアンサンブルや曲をじっくり楽しめるので、聴くたびに発見があります。“Moon People”でおそらくサン・ラがシンセでベース部分を担っているのですが、それがとてもモヤモヤするプレイでとてもかっこいいです。ミステリアスなバラード“When There Is No Sun”も名曲。本当に変なジャズ・アルバムです。
Sun Ra Quartet – Moon People (1978)
──東京などの大都市とは違い、音楽カルチャーがあまり浸透していないと感じてしまう地方の土地でレコードショップを運営するのは大変でしたか? また、一番苦労した点はなんですか?
個人的には浸透していないとは全く思いません。都市部に比べて数自体は違いますが、人口のパーセンテージで見てみたら音楽が好きで買って聴く方々の割合は同じ、もしくは近かったりするのかなあと思っています。
まだオープンして1年しか経っていないので苦労というのもおこがましいですが、平日はやっぱりお客様の入りが少ないので、そこはどうにかしたいですね。都市部のレコード屋さんも例外ではなく、平日はガランとしてしまっているとは思いますが。
──1周年イベントにお邪魔させて頂き、音楽好きでオシャレなお客さんが多いなと思いましたが、普段はどういったお客さんが多いですか?
長年のリスナーの方やDJの方が多い印象です。建物が特徴的なのもあり、建物の見学に来る方もいらっしゃいます。
──デジタル化が進む中で、レコードコレクターやヴァイナルプレイにこだわるDJも多く、需要があります。浜さんにとってレコードとはどんな存在ですか?
デジタルでも音楽はよく聴きますが、やっぱり自分はモノを買って聴くのが好きなので、レコードやCD、カセットはいまだにワクワクできる存在です。やっぱりレコードの出音は特別です。
──今後やっていきたいこと、夢などはありますか?
長野県内で店舗、オンライン問わず、レコード屋さんをやられている方々やコレクターの方々をお呼びしてレコード・フェアをやりたいです。自分がレコードの買い物をしたいだけかもですが。
──いいですね! 長野県内にもレコードショップが増えていますし、個人的にも参加してみたいです。是非実現させて下さい。本日は貴重なお話をありがとうございました!!
Text:宮沢香奈
INFORMATION
CELLAR RECORDS
〒394-0028 長野県岡谷市本町2-5-7
営業時間 12:00-19:00
定休日 火曜、水曜
TEL 070-8555-6642
MAIL info@cellar-records.com