倒的な美声、反復のグルーヴ。今年〈ブルーノート〉より『ノー・ビギニング・ノー・エンド』を発売し、大ヒットを記録したホセ・ジェイムズ。彼の大傑作デビューアルバム『ザ・ドリーマー』(08年)の豪華リミックス&コラボレーションアルバムがこの度満を持して発表された。参加アーティストはフライング・ロータス、シンバッド、ベン・ウェストビーチなど豪華な面々が集っていることでも注目である。

ホセ・ジェイムズのクラブ盤? と思わず首をひねってしまいそうだが、そうではない。彼の甘い美声とクラシカルなジャズピアノを邪魔することなく太いビートが刻まれ、そしてそこかしこに散りばめられた甲高い電子音が遠のく意識を呼び覚ます。クラブミュージック特有の高揚感と共にどこか懐かしさと抒情性を感じる。僅かな温度差のその隙間に意識が入りこんで何度も何度も聴きたくなる。なんともクセになる1枚である。

ホセ・ジェイムズの登場は実に華々しいものだった。ボーカルジャズの歴史を塗り替えたとまで言われ、その美声は日本国内においても大絶賛され、発売と同時に国内のジャズアルバムチャート、クラブチャートを総なめにしたことでも話題となった。また、海外でも各国大型フェスティバルからオファーの集中砲火を浴びるようになり、そしてその精悍なルックスと個性的なキャラクターがファッション業界からも注目されるなど、ジャズ界のライジングスターとしてワールドワイドな地位を築いた。そんな彼がこのタイミングでリミックス盤を出すというニュースに、思い出す言葉がある。本サイトの1月7日(木)掲載、サードアルバム『ノー・ビギニング・ノー・エンド』を発表した際のこのサイトのインタビューにてこんな発言をしている。

「境界線を一切作らない。表現方法でカテゴリー分けをしない。」ということ。表現を自由にしてみたんだ。とにかく、アルバムを作りたいという気持ちが大きかったんだけれど、ジャズ、ソウル、ヒップホップなど、ジャンルの観点からは考えなかったんだ。とにかく曲を、良い曲を、良いミュージシャンと作りたかった。自由な感じであったり、開放感を感じとってくれたら嬉しいね。

ジャズ界のヒーローでありながら、ジャズというカテゴリにはまるだけでは甘んじない、表現の更なる自由を追求するのが彼である。ジャズという一手法を用いたジャズとは全く違うフィールドへの挑戦であり、自らにカウンターしこれまで形成してきたホセ・ジェイムズという存在の大いなる打破だ。ホセ・ジェイムズのクラブ盤? この裏切りに気付いたはずだ。我々は、ホセ・ジェイムズの何も知らなかったのだ。今後の彼に更なる期待をかけ、ホセ・ジェイムズという大きな存在に永遠を感じずにはいられない。

(text by asako fujieda)

Release Information

2013.03.27 on sale!
Artist:Jose James(ホセ・ジェイムズ)
Title:the dreamer club night mix(ザ・ドリーマー・クラブ・ナイト・ミックス)
Traffic
TRCP-117
¥1,575(tax incl.)

Track List
01. Spirits Up Above(Simbad’s Deep Remix)
02. Love(Ben Westbeech Remix)
03. blackeyedsusan(IG Culture 4 Beat Refit)
04. Spirits Up Above(Simbad’s Cosmic Boogie Remix)
05. Desire(Moodymann Remix)
06. blackeyedsusan(IG Culture Bruk 4 Love Remix)
07. Spirits Up Above(Yam Who Remix)
08. Visions Of Violet with Flying Lotus