年9月に開催された、J-WAVE Gilles Peterson’s <WORLDWIDE SHOWCASE 2012>でも素晴らしいパフォーマンスを見せてくれたことが記憶に新しいホセ・ジェイムズ。ジャイルス・ピーターソンのレーベル〈Brownswood Recordings〉からデビューし、2008年の『ザ・ドリーマー』、2010年の『ブラックマジック』でも高い評価を獲得。今や世界中から注目を集める彼であるが、待望の最新作は何と〈ブルーノート・レーベル〉からのリリース。近年では、ノラ・ジョーンズやロバート・グラスパーといった、これからの時代を担うアーティストの作品も積極的に発表している〈ブルーノート・レーベル〉。『ノー・ビギニング・ノー・エンド』は、まさに〈ブルーノート・レーベル〉新時代を象徴する1枚となるだろう。

今作に対して彼は、「この作品は、僕がいま音楽について感じていることの集大成。どんな特定のスタイルにも限定されたくない。ジャズを歌うことで、ジャンルの垣根なく書けるアーティストとして自由になれたんだ」と語っている。ロバート・グラスパーやリチャード・スペイヴン、クリス・デイヴ、黒田卓也 等がセッションに参加しているのもとても興味深いし、ピノ・パラディーノとの共作では、あの歴史的名盤『Voodoo』を思い出させるようなブラックネスが感じられる。また、エミリー・キングが関わった作品では、ギターの暖かな音色が印象深い素晴らしいバラードが聴けるし、インディ・ザーラとのコラボレーションは、モロッコ音楽のフレイバーも取り入れた新しいチャレンジでもある。ジャズをルーツに持ちながらも、自由な精神で音楽に向き合う彼でしか作り得ないこの作品は、間違いなく2013年を代表するアルバムとなるはず。2月には、エミリー・キングを迎えての待望の来日公演も控えているので、そちらにも是非足を運んでみて欲しい。

ホセ・ジェイムズ待望の最新作『ノー・ビギニング・ノー・エンド』が遂に到着。〈ブルーノート・レーベル〉新時代を象徴する最高傑作の魅力に迫る! feature130107_josejames_076-1

Interview : Jose James

――世界中の音楽ファンが待ち望んでいたあなたの最新作『ノー・ビギニング・ノー・エンド』が、日本ではいよいよ1月16日にリリースされます。今作は、〈ブルーノート・レーベル〉移籍後初のアルバムになるわけですが、〈ブルーノート〉というレーベルからリリース出来ることを、どう感じていますか?

とても楽しみだったよ。〈ブルーノート・レーベル〉にとっては、今、本当に良い時代が来ていると思う。昨年以降リリースされた作品は新しい方向性のもので、ノラ・ジョーンズとデンジャー・マウスの新しい作品も本当にクールだね。例えば、ロバート・グラスパーのアルバム『Black Radio』もまさに今〈ブルーノート〉が向かっている方向性を示すような作品だし、僕にとってもこのレーベルからリリース出来るこのタイミングは完璧だと思っているよ。そして、レーベルの歴史そのものも、素晴らしいと感じている。

――今作のコンセプト、そして『ノー・ビギニング・ノー・エンド』というタイトルの意味や由来などを教えて頂けますか?

コンセプトは、「境界線を一切作らない。表現方法でカテゴリー分けをしない。」ということ。表現を自由にしてみたんだ。とにかく、アルバムを作りたいという気持ちが大きかったんだけれど、ジャズ、ソウル、ヒップホップなど、ジャンルの観点からは考えなかったんだ。とにかく曲を、良い曲を、良いミュージシャンと作りたかった。自由な感じであったり、開放感を感じとってくれたら嬉しいね。

――2008年の『ザ・ドリーマー』、2010年の『ブラックマジック』、これらの過去の作品から今作に至るまで、心の変化や表現したいことの移り変わりなどはあったのでしょうか?

確かに変化はあったかもしれないね。なぜ心の変化があったのかと考えると、昔よりも旅をすることが多くなって、世界中どこにいても、心地よく安心できるようになったからだと思う。世界中を旅しすぎて、時々ニューヨークに住んでいることを忘れてしまうほどさ。だから、今回のアルバムは、今までのなかで最もグローバルなアルバムに仕上がったと思うよ。たとえば、ピノ・パラディーノ、リチャード・スぺイヴンはロンドン、インディ・ザーラはモロッコとパリ、またニューヨークのミュージシャンたちもアルバムにかなり起用したし、黒田卓也もホーンのアレンジをしてくれた。とにかく壮大で、スタイルも多様だし、レコーディングもイギリス、フランス、アメリカの3カ国で行ったんだ。僕は、僕自身が住んでいる世界を表現したかったんだ。

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ホセ・ジェイムズ待望の最新作『ノー・ビギニング・ノー・エンド』が遂に到着。〈ブルーノート・レーベル〉新時代を象徴する最高傑作の魅力に迫る! feature130107_josejames_008-1

――個人的に最も印象に残ったトラックは、“イッツ・オール・オーヴァー・ユア・ボディ”、“メイク・イット・ライト”、そして、“ノー・ビギニング・ノー・エンド”。この辺りの曲は、かつてのディアンジェロの『Voodoo』の世界観にも繋がるし、かつそこに、あなた自身の洗練された音の質感が加わり、とてもアーバンでディープな、素晴らしい作品だと感じたのですが、これらは、ピノ・パラディーノがプロデュースで深く関わっています。まず、彼との出会いを詳しく教えて頂けますか?

ありがとう! 前作『ブラックマジック』のツアーで一年間ロンドンに住んでいた時、友人がツアーの合間に彼を紹介してくれたんだ。実際に出会ってみて、やはりピノは素晴らしい人だと分かったよ。すぐに友達になって、一緒に作った最初の曲“メイク・イット・ライト”は、一気に20分ほどで仕上がったんだ。ピノはこの作品の出来にとても興奮して、このアルバムのプロジェクトにプロデューサーとして関わってくれることになった。信じられなかったよ。だってピノは全世界でも有数のベーシストなんだからね。それをきっかけとして、彼は高いレベルの音楽的なクオリティを整えてくれたんだ。まさにあの『Voodoo』のように。『Voodoo』は曲や歌に限らず、音楽的なクオリティが本当に最高で、僕らはそれを出発地点として参考にしたかった。実は、『Voodoo』と同じメンバーが何人も関わってくれているんだ。ピノに始まって、ディアンジェロのバンドで活躍しているドラマーのクリス・デイヴ。また、ラッセル・エレヴァドは“イッツ・オール・オーヴァー・ユア・ボディ”、“ヴァンガード”、“ソード+ガン”でエンジニアをしてくれているし、マスタリングは『Voodoo』も担当したトム・コイン。まさに、『Voodoo』とはたくさんの共通点があるね。そして、黒田卓也と僕が用いたホーン・セクションのコンセプトは、ロイ・ハーグローヴからインスピレーションを得ている。彼も『Voodoo』に参加したミュージシャンだね。だから、『Voodoo』の音楽的クオリティは、今回のアルバムに本当に大きな影響を与えていると思う。

――“メイク・イット・ライト”でドラムを叩いているのはリチャード・スぺイヴン。彼は、フライング・ロータスやシネマティック・オーケストラ等とも関わり、今とても注目されているアーティストです。彼についてどう思われますか? また、出会いについて教えて下さい。

彼は世界でも屈指のドラマーだと思う。ヒップホップ、ジャズ、ドラムンベース、本当に何でもやれて、こんなに多くのスタイルでプレイ出来るドラマーは他にいないよ。彼は僕のバンド・メンバーで、もう4年くらい一緒にセッションしているよ。

――そして今作では、ロバート・グラスパーとの共作“ヴァンガード”も大変注目されています。この曲が出来上がるまでの経緯を教えていただけますか?

僕らが曲を作りたいねと話していた頃、ちょうどグラスパーがニューヨークのヴィレッジ・ヴァンガードでトリオでブッキングされていたんだ。ショーがオープンする前に行って、ヴァンガードのあの有名なピアノの前で曲を作ったのさ。ビル・エヴァンスやマッコイ・タイナーらも演奏したあの歴史的な場所で曲を作れたことは、ものすごく光栄だよ。そこでデモを録って、ロバートがくれたコードを録ったんだ。本当に奮起するような出来事だった。彼とヴィレッジ・ヴァンガードで作った曲だし、グラスパー自身、音楽が進んでいく新しい方向性の象徴でもあると思ったから、「先駆け、前衛」という意味合いもある“ヴァンガード”という曲名を僕が付けたんだ。

――エミリー・キングは、今回のアルバムに2曲で参加していますね。あなたのために書き下ろした曲に加え、自分のデビューアルバムのために書いたけれども未収録だったものも、今回のアルバムに提供していると伺いました。エミリーの世界観も合わさり、これまでのあなたの作品には無かった印象もあってとても新鮮に感じたのですが、彼女との制作でのエピソード等があれば是非教えて下さい。

キャロル・キングの曲をずっと聴いてきた僕は、本当に素晴らしいアメリカのシンガーソングライターとして、彼女のことをとても尊敬している。今回、そういった感じを出してみたくて、僕らの年代、もしくは若い年代でいったら誰だろう? と、ずっと考えていたんだ。こんな曲を書いている人はなかなかいないからね。そこで、2009年にニューヨークでパフォーマンスを観たことがあるエミリー・キングを思い出したんだ。彼女に電話して、「僕のために曲を書いてくれないかい?」 ってお願いしたんだ。そうしたら、次の日に彼女はもう“ヘヴン・オン・ザ・グラウンド”を書き上げていた。素晴らしい曲だよ、信じられなかった。彼女はものすごい早さでこんなに良い曲を書いてしまうんだ。僕はどちらかと言うと、書くのが遅いからね(笑)。そう、“ヘヴン・オン・ザ・グラウンド”は彼女が僕のために書き下ろしてくれた曲。そして“カム・トゥ・マイ・ドア”は僕も大好きな曲だけど、彼女が自身のアルバム『East Side Story』のために書いた曲さ。だけど結局そのアルバムには収録されなかった。本当に美しい曲で、どちらもまさに僕が探し求めていた曲なんだ。彼女はギターも披露してくれていているし、“ヘヴン・オン・ザ・グラウンド”では歌ってくれている。彼女は素晴らしいヴォーカリストでもあるんだ。

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――音楽を製作するうえで、今、最も大切に考えていることを教えて下さい。

スタジオでの音楽制作の場合は、事前に行う準備が最も大切だと思う。スタジオでは、実は時間を無駄にしてしまいがちで、そうするとものすごく高くついてしまうんだ。例えば、スタジオでは、創造力が溢れてくるしとても楽しい時間だけど、準備が出来ていなかったらその態勢をまず整えなければいけない。例えば、ブルックリンでの最後のレコーディング・セッション。ピノ・パラディーノはディアンジェロと夕方からリハーサルが入っていて、彼は一日に4時間ほどしか僕らのレコーディングに時間を割けなかった。だから僕はプロデューサーとして、スケジュールを綿密に練って、その限られた4時間を上手く使おうとした。セットアップは完了、全て準備は出来ていて、ピノをいつでも受け入れられる状態。そして演奏、トラック、それからリラックス。準備が出来ていなかったら、その4時間全部をムダにしてしまうことだって考えられる。ライヴでは、そうだね…一つに絞るのは難しいけれど、素晴らしいミュージシャンと素晴らしいトラックが必要だね。以前、ラップトップPCを多く使って展開するライヴがあったんだけど、ライヴ前にそのラップトップがクラッシュしてしまったんだ、当然ライヴは行えないよね。だから、ライヴにおいてもスタジオにおいても、事前準備が最も大切だと思う、音楽制作のうえでコントロール出来ないことはたくさんあるけど、準備というものは自分でコントロール出来るから。

――最後に、あなたの作品を楽しみにしている沢山のファンへ、メッセージをお願いします。

また日本へ戻って来て、新しいアルバムを皆にライヴで聴いてもらえることをとても楽しみにしているよ。2月のライヴでは、エミリー・キングをスペシャルゲストに迎えるんだ。

――長い時間のインタビュー、ありがとうございました!

ありがとう。僕からもひとつ質問していい? アルバムの中で一番気に入った曲はどれかな?

――“voodoo”の世界観もイメージされて、かつ、あなたの洗練された音楽性がとても素晴らしく表現されている“イッツ・オール・オーヴァー・ユア・ボディ”が、個人的には最も気に入っています。

そうなんだ! みんなそれぞれ、違う曲を選んでくれるんだ。面白いね(笑)!。

interview & text by Yasumasa Okada[DESTINATION MAGAZINE]
text & translation by Keiko Yasuda
all photo by Hideyuki Seta

★次号のDESTINATION MAGAZINEにてQeticでは載せきれなかったホセ・ジェイムズのインタビュー全文を掲載! さらに深い部分を知れるインタビューとなっています。発刊情報はDESTINATION MAGAZINEをチェック!

Event Information

José James “No Beginning No End”
with special guest Emily King

ホセ・ジェイムズ『ノー・ビギニング・ノー・エンド』
with special guest エミリー・キング

●大阪公演
2013.02.12(火)@Billboard Live大阪
サービスエリア ¥6,500/カジュアルエリア¥5,000

●東京公演
2013.02.14(木)15(金)@Billboard Live東京
サービスエリア ¥6,500/カジュアルエリア¥5,000

Release Information

2013.01.16 on sale!
Artist:Jose James(ホセ・ジェイムズ)
Title:No Beginning No End(ノー・ビギニング・ノー・エンド)
EMIミュージック・ジャパン
TOCP-71459
¥2,300(tax incl.)

Track List
01. イッツ・オール・オーヴァー・ユア・ボディ
02. ソード+ガン(feat.インディ・ザーラ)
03. トラブル
04. ヴァンガード
05. カム・トゥ・マイ・ドア
06. ヘヴン・オン・ザ・グラウンド(feat.エミリー・キング)
07. ドゥ・ユー・フィール
08. メイク・イット・ライト
09. バード・オブ・スペース
10. ノー・ビギニング・ノー・エンド
11. トゥモロー
12. カム・トゥ・マイ・ドア(Acoustic Version)
13. コール・アワ・ネーム(feat.ジェシカ・ケア・ムーア)