突然、黒いフードを被った一人の男が順番待ちをする人々の間を堂々と割って入り、バンクシーの落書きの前に立ちはだかったのだった。男の片手には黒いペンキの入った缶。そして次の瞬間、男はその落書きの上にペンキを塗りたくったのだ。集まっていた群衆から発せられる怒号の中、男は煙草を吸いながら淡々とペンキを塗りたぐり、暗闇へと消えて行った。
「明日のニュースで報じられるね」その光景を目の当たりにした若い男性は呟いた。筆者が目撃したこの瞬間こそが、ニューヨークのファン達が躍起になってバンクシーの新しい作品を探している理由の一つでもあるのだ。
現代アート市場では常に高値で取引されているバンクシーの作品だが、それだけにアンチも多く、24時間以内には消されるか上書きされてしまうのが現状だ。今回、マンハッタンのロウアーイーストサイドに放置されていた廃車に落書きをした際には、高額で取引されることを知ってか、すぐに車の扉部分などのパーツが盗まれる事態に発展した。