──マニア向けの制服の図鑑と思っていたら、進学するときの参考として活用されたり、いろんなところでいろんな扱い方をされて、大ヒットとなりましたね。
森 大人の男の人も読んでくれたし、女子高生も買ってくれたし、という感じでしたね。
──もともとのターゲットはどこに置いていたのですか?
森 大学生の男の子が買ってくれればいいな~というのがありました。けれど、そこを狙って作るといやらしい感じになっちゃう(笑)。嘘でも図鑑ということで、学問的なパッケージングをして出したんです。それが結果、良かったみたい。いろんな人が読んでくれました。
──今回、数多くの原画が展示されていて楽しいですね。
森 『東京女子高制服図鑑』を出した後にもさまざまなところで連載をやりました。そこで描いたイラストを展示しています。今も『東京女子高制服図鑑』を作っているときと同じように、街の中で女子高生を見て、制服のデザイン、着こなしなど、流行を含めた制服情報を記録しています。
あと、みくに出版から発行されている『進学レーダー』という雑誌でも連載を続けています。この『進学レーダー』という雑誌は、中学受験をする小学生とお母さんが読む雑誌なんです。なので、私は学校に正式に取材を申し込んで、それまでの取材方法とは逆に、学校の中に入って正式に話を聞いて描くということをやってます。そのイラストも展示しています。
──『東京女子高制服図鑑』などはゲリラ取材だったですよね。
森 そうですね。無許可で勝手に描いてる(笑)。
武井 その視点が面白かったですよね。
──そうですよね。いかにも的じゃないところ、学校のフィルターが入らないところが。
森 ただ、外から見るだけでは限界がある。情報的にも。なので一回、中に入ってちゃんと制服のことを聞いてみたい、というのがありました。その仕事を『進学レーダー』でやらせてもらっています。学校行事などもいろいろ取材しました。仏教系の花祭りとか、ミッションスクールの聖母行列とか。学校ごとにいろんな行事があっていろんな特色があるんです。日本の私立高校というのはいろいろ個性的。そういうところをピックアップするようにしています。
──制服って、不変というか、武井裕之さんと前にお話しさせていただいた時に武井さんが「制服は最強」というようなことをおっしゃっていました。今回、改めて展示を見て、本当に制服は最強だなと感じました(笑)。お二人は制服の魅力について、どんなふうに思っていますか?
森 制服って、基本、中学生、高校生が着るもので3年間か、長くて6年間という枠が基本的に決まっている。あと、デザインもほぼ共通のフォーマットがありますよね。スカートがあって、上着があってという。そういう限られた年代の女の子たちが限られたフォーマットを着る。そんなガッチリとした枠があるのに、実はその中にはいろんなバリエーションがある。そういうところが面白いなと思っています。それが『東京女子高制服図鑑』を作った動機のひとつでもあるし、今でも続けているモチベーションでもあります。『東京女子高制服図鑑』から30年続けてきましたが、この30年で制服のバリエーションがものすごく広がってきました。それを見続ける面白さもある。それに、たとえば山脇学園などは1919年に日本で初めて洋装の制服を採用して以来、現在まで基本的なデザインを変えていない。そんな大正時代に生まれた制服もあれば、今年生まれたデザインの制服もある。制服だけで考えると、普通の服では考えられない時差が制服にはあります。そんなところが面白いですね。
武井 森さんは学術的な視点なんだけど、私は服にフェチズム的な魅力を感じる部分がありますね。そこに私が写真を撮るというモチベーションがあるんです。セーラー服は丈が短いですよね。手を伸ばした時に、そこからちょっと見えるお腹の部分だったりとか、プリーツスカートから伸びる白い足だったり。
──絶対領域の部分ですよね。それにブラが透けていたり(笑)。
武井 そうそう(笑)。あとソックスとか……。別にそういうところばかり見ているわけではないですけど!(笑)。初恋は誰もが初めて異性を意識する甘酸っぱい体験ですよね。学校はそんな想いが詰まった場所だったという人も多いと思いますし、制服はそんな切ない感覚とリンクする普遍的な存在でもあります。どこかそういう切ない感覚とフェティッシュな部分とをシンクロさせて、青春時代の気持ちにつながる作品ができたらいいなとは思っています。制服は男の子も女の子も一緒に共感できるひとつのモチーフじゃないかなと思っています。
──ありがとうございました。
今また、セーラー服が女の子の間で盛り上がっているようだ。デザインもオーソドックスなスタイルが注目されている。森伸之も「セーラー服を採用する学校は増えている」という。セーラー服が女の子に人気の理由を森は「セーラー服を着れないまま学校生活が終わっちゃった女の子も多い。だから憧れもあるんでしょう」と分析する。森は最後に「女の子はそれぞれに理想の女子高生像というのを持っているんですよ。チャンスがあればそこに近づきたい、と思っているんです」と語った
どうせなら、セーラー服の女の子と付き合いたかった! という残照の後悔が甦った展示会だった。いや、まだチャンスはあるか?(笑)
EVENT INFORMATION
森伸之・武井裕之二人展 イラストと写真で綴る制服図鑑
2015.10.23(金)- 11.08(日)
OPEN 12:00/CLOSE 18:00(金曜日は19:00まで)
神保町画廊