5年に1度の<ドクメンタ>、6月から9月にかけては<ベルリン・ビエンナーレ>、そのすぐあとを追うように、9月14日から18日の5日間に渡り<ベルリン・アート・ウィーク>が開催された。アートの年となった今年だが、ドクメンタにおいては、アジア初となるインドネシアのアート・コレクティブ「ルアンルパ」が抜擢され、ビエンナーレはアルジェリア系フランス人アーティストのカデル・アッティアがキュレーションを務めた。多様性の時代、人種問題をテーマとした展示は少なくないが、賛否両論が巻き起こるのもお決まりのパターンだ。
どちらの展覧会も見れていないため言及は避けるが、それよりもハグや握手を交わす多くの人々の中、自主的にマスクをする人が入り混じるそんな不思議な光景さえも日常となった今、アートに触れたいと思う人がこれほど多くいること、議論できるほどコンテンツが豊富にあることを幸せだと思う。
事実、ベルリンの街中のミュージアムやギャラリーでエキシビジョンや関連イベントが行われ、エンターテイメントと笑顔で溢れた。そんな<ベルリン・アート・ウィーク>の現地レポートをお届けする。
「The Feuerle Collection」が初の企画展<SILK ROOM>を開催
これまでも幾度となく紹介してきた防空壕跡地をリノベーションしたギャラリー「The Feuerle Collection / フォイエルレ・コレクション」では、初となる企画展<SILK ROOM>が開催された。記念すべき第一回目にフォイエルレがキュレートするのは、イギリス人陶芸家であり、作家としても知られるエドマンド・ドゥ・ヴァールだ。400平方メートルという広大な展示スペースには、エドマンド作品と貴重な未公開作品とが並ぶ。
エドマンド・ドゥ・ヴァールの代表的な作品である白い陶器とオブジェ。フォイエルレ独自のライティングによって繊細さと美しさが際立つ。後ろに見えるのは、6世紀に作られたモン・ブロンズの器たち。
それぞれの作品には計算しつくされた一定の距離が保たれており、何もない空間を作ることによって目の前の作品と遠くに配置された作品との対比をじっくりと鑑賞することができる。この独自の展示方法こそフォイエルレの特徴であり、魅力である。自由な角度や距離から作品を観ることによって、自分だけの世界に浸れるのもまた良い。
<SILK ROOM>は、来年の4月9日まで一般公開されている。ベルリンを訪れた際には是非とも訪れて欲しいギャラリーの1つ。
26名のアーティストが集結、人種の多様性にフォーカスした<YOYI!Care, Repair, Heal>
「Gropius Bau/ グロピウス・バウ」で開催されたのは世界各地から集結した26名のアーティストによるグループ展<YOYI!Care, Repair, Heal>。「YOYI」とは、オーストラリア北部のティウィ文化の中心である儀式用の歌、踊り、団結の名前であり、同展のタイトルである「YOYI! Care, Repair, Heal(ケア、リペア、ヒール)」という呼び掛けは、祝賀と追悼のために集うことへの招待を表しているという。
サーメ人の伝統的な手芸工芸や民族衣装を取り入れた作品は、自分のファッションにも取り入れたくなるカラフルなカラーやグラフィックパターンが愛らしかった。
同展は、健康における政治学、先住民に対する知識システムの回復、脱植民地主義、人間以外の動植物における権利などを問題視し、ケア、修復、癒しをテーマに各アーティストがそれぞれの観点から作品を発表しており、ビデオ、インスタレーション、ペインティング、パフォーマンスといった様々な表現方法で観ることができた。しかし、無料で一般に公開されるオープニングデーは、人が多過ぎて作品に集中できないのが難点だ。やはりガイドのいるプレスプレビューに来るべきだったと後悔した。
オープニングイベントで披露されたAaron Reeder率いるパフォーマンス集団によるショー。残念ながらパフォーマンスが始まっていたことに気付かず、館内に響き渡る歌声に釣られて観に行った時にはすでに終わる直前だった。
「Gropius Bau」は、1881年に装飾芸術の美術館として建てられた建築でルネッサンス様式を用いている。1966年には歴史的建造物に認定されており、宮殿のように美しく、リュクスな館内や装飾は見るだけでも価値がある。
<YOYI!Care, Repair, Heal>は来年1月15日まで開催中。
ビビッドなピンクとイエローが創造するパラレルワールド
アートウィーク初日に訪れたのは「Direktorenhaus」で開催されていたロンドンのARTUNERがキュレートする企画展。サンパウロ拠点のアーティストAna Elisa Egreja(アナ・エリサ・エグレージャ)は、メキシコ人建築家ルイス・バラガンのインテリアを考案した作品で、ビビッドなピンクの中に動物と家具が描かれた幻想的な世界が印象的だった。
ピンクの世界から一転、ドイツ人アーティストPia Krajewski(ピア・クラジェフスキー)の作品は、神々しいイエローの世界を見せてくれた。装飾品、果物、髪の毛などを彼女のフィルターから捉え、抽象的に描かれた作品はパラレルワールドに実在しそうだった。
「Direktorenhaus」はハンドクラフトのギャラリーとして知られており、アーティストやクリエイターがスタジオを構えていることもあり、一般開放されるのは展覧会が開催されている時のみ。現在開催されているオーナメント展にも足を運びたいと思う。
同ギャラリーのロケーションも素晴らしく、すぐ隣には植物とアンティーク家具に囲まれたセンスの良いカフェがある。
最近では、環境活動家がゴッホやモネの絵画にトマトスープやマッシュポテトを投げつけたニュースが話題となったが、その抗議活動は彼らに何かをもたらしたのだろうか? 電気、ガス、水道を節約し、プラスチックボトルの飲料は買わない、着なくなった洋服は廃棄せずにリサイクル、これらが当たり前の生活でも気候変動は深刻化するばかりだ。
そういった中で、アートや芸術を楽しむことは本当に贅沢なのだろうか。環境問題や社会情勢にフォーカスしたアーティストや展示も多い昨今、興味あることから知らなかったことを知り、そこから関心を持つことこそ大切なのではないだろうか。何より、この世に娯楽がなければ世界が滅びる前に自分が滅びてしまう。水のないところでは生きられない地球上の生き物同様に、エンターテイメントがない世界には生きられないのだ。
Text by 宮沢香奈