「若けりゃ良いってもんじゃない」

27歳を超えたくらいから、何度頭をよぎったかしら。人間は皆平等に歳を取るもの。若さや可愛さだけでは、やっていけなくなるのがアラサー女子。若さと可愛さの代わりに何が必要かしら…

磯崎愛生/zaqi 第三回

しかし寒いついこのごろである。寒くて寒くて仕方がない。しかし、真冬なのだから寒くて当たり前だ。休みになったら行こうと思ってメモしておいた本屋は二軒あるけれど、こんな日は家に居るのがいい。
2年ほど前に飲んだドライアップルが入ったホットワインの味を、また飲みたいなぁなんて思いながら、コンビニで買った赤ワインにざく切りにした林檎と砂糖を少し入れて煮てみた。シナモンを入れたかったけどコンビニには無かった。

熱すぎて飲めないホットワインに息を吹きかける。外の寒さを物語る結露した窓を、毛布に包まりながら眺めて居ると、ある実験映画のワンシーンを思い出した。
マヤ・デレンの「午後の網目(Meshes of the Afternoon)」(1943)という作品だ。
映画の中で彼女は窓ガラスに手を合わせ家の外の通りを見下ろす。それも何度も。
この作品の窓ガラス越しの彼女の姿は、彼女の姿を残すポートレートの中でも最も有名なワンショットだろう。

 

まず、道に置かれる花(ひなげしの様な)、鍵、ナイフ、受話器の外れた電話機、窓辺に置かれたソファー、階段、顔が鏡の黒装束…同じモチーフと同じシチュエーションが何度も繰り返し登場しながら少しづつズレていく。そして、階段を駆け上がるスローモーションにエクスタシーを感じる。

白黒の映像に映された暖かそうな窓の外の景色から、寒そうな自宅の窓にもう一度目線を移す。ぬるく冷めてしまったホットワインを飲み干すと、少し酔いが回って、ふわふわと甘い眠気がやってくる。私までも昼下がりの網目に引き込まれてしまいそうだ。
マヤの作品は、夢に似ている。
そういえば、今年の初夢はなんとも奇妙なものだった。
 

〜アラサーのひとり遊戯〜 第三回「昼下がりの快楽」 zaqi_maya2-700x394

眠りに落ちるが落ちないかの間際、誰かにとっての安心が、私にとっては恐怖だったりすることを、そしてまたその逆のことを、うすらぼんやりと思う。
そんな真冬の午後の一幕。

ザキ