from
maco marets

先日、北参道の雑貨屋でちいさな黒板セットを見つけました。愛想のいい店主が「これはポルトガルの工場で作られたものです」と教えてくれて、一昨年の旅行いらいすっかりポルトガルびいきになっているわたしは運命、これも運命よとその場で購入を決めてしまいました。ちょうど、なにかメモ用紙の代わりになるものを探していたところだったのです。

だいたいA5のノートブックくらいのサイズと厚みでしょうか、木枠に黒板塗料を塗った板をはめこんだだけの簡素な作りで、塗料や接着剤のはねた跡がいたるところにあるし、片面に引かれた1cmのグリッド線はよれよれで、一本いっぽん定規をつかって刻み付けられたことが容易にわかります。試し書きもせずに買ったものだから、こりゃ使えるのかしらん、と遅まき不安になりました。

一緒についてきた白亜の鉛筆をそっと当ててみると、きい、と軋むような音がして(爪を立てたかのような、あの!)背筋に気味の悪いものが走りました。やはりというべきか、思いの外というべきか、このざらついたタブレットは筆記されることばを容易には受け入れんとする頑なさをたたえていて、文字ひとつ定着させるのにも慣れが必要そうなのです。

もっとも本来、ことばを記すというのはこうしたなにかしらの慎重さや、おそれを伴う行為であったような気もします。オリーブオイル、水、トイレットペーパー……おっかなびっくり書きつけながら、いやしかし、買い物リストごときでビクついていてはたまらんよな、なんだか呪文のように見えてくるから不思議なことでした。