若きアーティストやクリエイターの才能を発掘し、育成し、グローバルな舞台でチャンスを掴ませる。このようなプロジェクトは「RBMA」(Redbull Music Academy)が最も有名であり、長年に渡り、素晴らしい実績を残してきた。しかし、残念ながら2019年10月末をもって終了してしまった。アーティストが一定期間ある土地に滞在し、常時とは異なる環境で作品制作や発表を行うアーティスト・イン・レジデンスは世界各地で開催されている。しかし、「RBMA」のような世界規模で開催しているプロジェクトはないだろう。
そんな中、ベルリン拠点のPR・PullProxyから興味深い情報が送られてきた。ドイツ、イタリア、ポルトガルの3ヶ国が共同で主催する新しい形のアーティスト育成プロジェクト「7th Extinction」だ。「7th Extinction」とは、ドイツ、もしくはポルトガルに居住する18歳以上35歳以下のミュージシャン、ビジュアルアーティスト(VJ、ビデオ・プロデューサー、ビジュアル・クリエイティブ)、音楽プロデューサーを対象に、英語が堪能であること、環境保護活動へ強い関心を持っていることなどが条件に挙げられている。
何より興味深いのが、ベルリン最大のジャズ・フェスティバル<XJAZZ!>、イタリアのビエラに拠点を構え、ユネスコの世界遺産に登録されているモンフェラートでフェスを開催している「Jazz Re: found」、クリエーターが自由に活動し、表現できる環境を提供しているリスボンの「Arroz Estudios」と、世界の一流アーティストが集結するフェスやイベントスペースが主催となっている点だ。6月23日の時点で応募は終了しており、30日には選抜アーティストが発表されるとのこと。
見事選ばれたアーティストは「7th Extinction」から以下の支援を受けることができる。
– 選ばれたアーティストがプロジェクトを展開するためのスタジオスペースの提供
– アーティストへの助成金
– チッタデラルテ・ピストレット財団(イタリア、ビエラ)、Arroz Estúdios(ポルトガル、リスボン)、XJAZZ!(ベルリン、ドイツ)が、選ばれたアーティスト全員を対象に旅費、宿泊費、日当を負担。
– ミーティング、パネルディスカッション、ワークショップなど、アートの世界で豊富な経験を持つ専任講師によるメンタリング・プログラム。
– 主催3カ国のそれぞれのフェスにてインスタレーションの制作と発表。また、美術館でも紹介される。
ここに記載されているだけでもかなり魅力的で豊富なコンテンツだが、実際にはどんなプログラムが行われるのだろうか? 主催者の一人であり、<Jazz:Re:Found>ファウンダーのDenis Longhi(デニス・ロンギ)がプレスに向けて公表したインタビューから紐解いていきたい。
──「7th Extinction」を始めることになったきっかけは何だったのでしょうか?
<Jazz:Re:Found>は、数年前から芸術的なレジデンス・プロジェクトをキュレーションし、今回の「7th EX」における基本資産として築いてきました。国内での確実な成長を経て、このモデルをより広い地域で展開することが重要だと思いました。特に、私たちがアプローチしているテーマを考慮する上で必要だと思ったのです。そこで、私たちは、EACEAの助成金の中にこれまでのトレーニングだけでなく、国境を越えて経験する新しいモデルを取り入れることにしました。
JZ:RF FESTIVAL 2022 / MONFERRATO UNESCO (Cella Monte)
──共同主催として<XJAZZ!>と「Arroz Estúdios」を選んだ理由はなんですか?
まず、<XJAZZ!>はドイツで長年に渡り、「Jazz:Re:Found」の精神と芸術的アイデアを体現しています。「Arroz Estúdios」は技術革新の面で最も興味深い文化的加速装置の一つだと思っています。ファウンダーであるSebastian Studinsky(XJAZZ!)とSteven McKay(Arroz Estudios)の両者とも私たちの提案を熱意を持って受け入れてくれて、すべての事業体の間に深い繋がりとエネルギーを見つけることができました。
XJAZZ! FESTIVAL 2023 OFFICIAL AFTER MOVIE
──「7th EX」のレジデンス・プロジェクトは、自然、持続可能性、環境危機に関してなど、私たちが世界で抱えている劇的な問題に捧げられています。これらのテーマに取り組み、マルチメディア・プロジェクトを共に開発するために、アーティストの創造性を求めていると認識しています。音楽家やアーティストは、従来の仕事のやり方を変え、社会的、政治的にもっと関与する必要があると思いますか?
重要な問題やテーマを深くて意味のあることに変換させる芸術的な感性は、大衆に分かりやすく伝えるための最も効果的な方法の一つです。マッシブ・アタックのように、音楽的な深みに加え、破壊的な政治的メッセージが込められたオーディオビジュアルショーの制作を期待しているわけではありませんが、新しい世代には臨界点と強い表現欲求があり、特にポスト共産主義時代の若者のような複雑な社会状況の中で、アートを通じてパワフルで意味深いメッセージを伝えることができると信じています。
──選ばれたアーティストたちに何を期待しますか? レジデンス期間中の作品をどのようにイメージしていますか? また、様々な分野の講師を招いての開発プロセスについても教えてください。
「Jazz:Re:Found」は、2018年から若い才能の強化に特化したトレーニングレジデンスのコースを開始し、異なる背景を持つミュージシャン同士の間に真の「チームビルディング」体験を構築してきました。ピストレット財団やモンフェッラートのブドウ畑にあるカーヴェ・ディ・モーレットといったユニークで刺激的な環境に浸った芸術的ワークショップの開発モデルは、輸出可能な新しいフォーマットが定義されたことを意味しています。
重要なのは音楽の文法ではなく、個人的な成長と講師との比較です。この開発モデルをベルリンやリスボンといった魅力的な都市に輸出し、私たちの経験を<XJAZZ!>や「Arroz Estúdios」に提供し、彼らの持つスキルを最大限に活用します。まず、プロジェクトに没頭できるように2日間に渡り、講師と共にトークやレッスン、ワークショップを行う「ディセンション」からスタートします。その後、実験室的な環境に取り組み、リハーサル室で実験を行います。
Garden VII – Arroz Estudios – Cacilhas
──制作した作品はどこで発表されるのですか?
プロジェクトの発表は各パートナー国で行われますが、最初のアウトプットは<XJAZZ!>になるでしょう。その後、「Arroz Estúdios」で夏のセッションが行われ、最後は、ユネスコの世界遺産に登録されているモンフェラートで9月に開催される<Jazz:Re:Found Festival>のステージで発表される予定です。最終的に、それぞれの国のチームが1つのショーに作品をまとめて披露するのか、それとも「7th Extinction」のメッセージを3つの異なる解釈で見ることになるのかは、まだ分かりません。2025年からは、ドイツ、ポルトガルだけでなく、ヨーロッパ全土で展開し、美術館や博物館の展示スペースに設置できるようなインスタレーション媒体を作ることも考えています。
Gilles Peterson x Jazz:Re:Found / 1 May Celebration (Lockdown Session)
Text by 宮沢香奈