ロックダウンが解除されてからすでに3ヶ月が過ぎたベルリン。街は日常を取り戻したかのように見えるが、週末の熱気もエンターテイメントもないままである。多くのローカルクラブは”ガーデン”と呼ばれるオープンエアーだけを解放し、ビアガーデンとして営業を再開したが、DJがプレイしていても踊ることは堅く禁じられている。これが日本のような風営法問題だったら立ち向かう相手は人間と法になるが、目に見えない謎多きウイルスというのがまた厄介である。

ベルリナーの多くが待ち望んでいる本当の意味での“クラブ”は一体いつ戻ってくるのか?
ベルリンの有数のローカルクラブやレコードショップ、アーティストなどにフォーカスし、クラブカルチャーの今をシリーズにてお伝えしていきしたい。

新型コロナウィルスという存在を頭の片隅で気にしながらも、友人のアーティストOpal Sunnのリリースパーティーで“Zur Klappe”へ向かったのが3月頭のことだった。ここは公衆トイレの跡地を改装したバーサイズの小さなクラブで、Mehringdamm駅からすぐの道路の中央分離帯の地下にあるという聞いただけでも気になるロケーション。ベルリンはここ数年、ディープで質の高いパーティーが多い小箱が人気を博しており、“Zur Klappe”もその1つ。週末は常にパンパンの状態で、他の人気クラブ同様に外に列ができることもしばしば。

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「Zur Klappe」の外観、内観は撮影禁止。

翌週には、久しぶりにBerghainabout://blankへ行こうと友人と話していた矢先、ローカルクラブの全てがシャットダウンとなった。あまりの驚きにもう何のパーティーに行こうと思っていたのかも思い出せない。グラフィティーだらけのシャッターが閉じられたままのクラブは、重く暗い影とともに絶望感に満ちていた。

ロックダウン解除後からの各クラブの状況は以下の通りである。

まず、ビアガーデンとして営業再開の先手を打ったのが、“Sisyphos”、“Salon Zur wilden Renate”といったトップクラブである。早速、友人たちとRenateへ向かい、たとえ、ビアガーデンであってもクラブが営業を再開したという喜びと期待、そして「Stayhome」から解き放たれたことを祝うかのように人が集まり、行列を成していた。

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「Sisyphus」の外観、通常営業時は内観、ガーデン共に撮影禁止。

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「Salon Zur wilden Renate」のビアガーデンの様子。通常営業時は撮影禁止。

そこからabout://blankKaterblauといった有数クラブがあとに続き、“Berghain”は元から敷地内にあるビアガーデンと、8月2日まで“Halle am Bargain”にてサウンドインスタレーション<eleven songs>が開催されている。

ガーデンのなかったGolden Gateは、急遽オープンエアーを設置し、DJありのビアガーデンとしてオープンさせた。早々にパーティーを再開させたのが、海外アーティストからも絶大な人気を誇るClub der Visionareだ。しかし、あくまでもバー営業の延長でフロアーで密になって踊ることは許可されていない。夏の風物詩として毎年8月に開催され、ずっと取材してきた実験音楽の祭典<Berlin Atonal>も従来の形では開催しないことを発表した。

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「Katerblau」のあるHolzmarkt敷地内
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「Club der Visionare」名物スポットと呼ばれる橋の上から撮影したもの。右側の人集りになっているのが通称“CDV”と呼ばれている「Club der Visionare」である。
(*以前に撮影した写真で最近のものではありません。)
「Berlin Atonal 2019」Shapednoise + Pedro Maia present Aesthesis at Kraftwerk
Directed by: Hiroo Tanaka
Edit by: Pedro Maia

全てではないが、これが今のベルリンのローカルクラブの現状であり、コロナ禍における日常になりつつある。野外フェス会場のような広さと設備が整っているELSEのように、3月のロックダウン以降一度もシャッターを開けていないクラブもある。今のところ知る限りでは、新型コロナウイルスによって閉店に追い込まれたクラブの名前は聞いていないが、今後は分からない。他の業種と同じように連邦政府からの助成金制度が設定されていたが、従業員の人数が規定に達していない、コロナ以前にローンがすでに承認されているなどの理由から承認されず、平均でわずか19,015ユーロしか得ることが出来なかったという。

ベルリンのクラブに関しては、政府よりも業界団体「Clubcommission」の活動にメディアの注目が集まっている。「Clubcomission」は、ベルリンのクラブやフェスを文化資産として守るために発足された団体で、これまでにも賃金の値上げによる立退き問題や騒音問題などに対応してきた。コロナ禍においては、まず、ロックダウン直後の3月18日に“ARTE concert”と共同してストリーミングプログラム「United We Stream」を立ち上げ、クラブやあらゆる施設を利用し、DJ、ライブ、ディスカッションなどの動画配信を行いながら寄付を集った。さらには、ベルリンだけでなく、世界の70都市とパートナーを組み、1650組以上のアーティストが約370カ所でプレイし、3,500万以上ものビューを獲得した。その結果、ベルリンだけでも7月3日の時点で50万ユーロ以上を集めることに成功したという。

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惜しくも2月末で閉店してしまった人気クラブ「Griessmuehle」のガーデン。「Clubcommission」の活動によって、もっと早期の立退き辞令から延長することができた。
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7月25、26日に開催された豪華ラインナップによるオンラインフェス

私が勝手に“ホワイトナイト”と呼んでいる「Clubcommission」の活動には頭の下がることばかりだが、それほどまでにベルリンのクラブカルチャーは“守るべき価値のあるもの”という証拠である。感染者は減少傾向になり、再びロックダウンの可能性は今のところ低いベルリンだが、経済への大打撃はまだ序章に過ぎない。とはいえ、泣き言ばかりは言っていられない。ビアガーデンは一時的なものと割り切りながら、すでに新たな試みを行っているクラブもある。また、ヨーロッパ諸国ではすでにクラブの再営業やフェスが開催されている都市もあり、アーティストたちも動き始めている。

遊び場を失った若者たちが公園で行っている違法レイヴは感心できないが、公式ではないが、限定人数のパーティーが開催されているという話もある。そういった水面下から伝わってくるパーティーへの情熱こそがベルリンらしさであり、希望を持たせてくれる。

次回は、「Salon Zur wilden Renate」にて開催中の“Overmorrow Berlin”主催によるパフォーマンスショー「The Peepshow」のレポートをお届けする。お楽しみに!!