踊れるパーティー”を貪り続けた夏はすでに過ぎ去り、美しい季節がやってきた。そんな秋の訪れと共に開催されたのが<Berlin Art Week 2021>だ。

9月15日~19日の5日間をオフィシャル期間に設けて開催された今年は、第10回目という節目に相応しく、豪華でフィジカルなプログラムが多数。最も話題を呼んでいた鉄工所跡地「Wilhelm Hallen」で開催された<YES TO ALL>を筆頭に、数え切れないほど多くのエキシビジョンやイベントが街中のミュージアムやギャラリーで開催され、昨年以上に世界的アーティストが名を連ねている。そんな<Berlin Art Week 2021>をコマーシャルな視点からではなく、自分的観点から見たハイライトをお届けする。

1. Sasha Waltz & Guests, Terry Riley『In C』

巨匠ルートヴィヒ・ミース・ファン・デル・ローエが設計した全面ガラス張りのモダンな「Neue Nationalgalerie(新ナショナル・ギャラリー)」は、ベルリン・フィルハーモニーや近隣の景観と共鳴しながら、ため息が出るほど美しい存在感を放っている。2015年から改装工事のため休館していたが、8月22日にリニューアルオープンし、現在は<Alexander Calder展>が開催されている。

同館のオープンテラスを会場に、アートウィークのオープニングパフォーマンスとして披露されたのが“Sasha Waltz & Guests”による『In C』だ。『In C』とは、サシャ・ヴァルツの新しいプロジェクトであり、9月24、25、26日にはradialsystemにて本番公演が予定されており、そのプレイベントとして一部が無料公開された。

現代音楽のパイオニア、テリー・ライリーが1964年にリリースした同名タイトル“In C”からインスパイアされ、53の音符で構成された楽譜を元に考案されたという振付けは、即興のようで完璧なフォーメーションが組まれているのだと思った。小雨の降る中、カラフルな衣装に身を包んだダンサーたちは、ダイナミックにリズミカルに、時にコミカルに舞う姿が本当に美しかった。

『Berlin Art Week』現地レポート|進化し変化し続けるベルリンのアートカルチャー column210929kana-miyazawa-01
Sasha Waltz & Guests, Terry Riley『In C』
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Sasha Waltz & Guests, Terry Riley『In C』

実は、ずっと”Sasha Waltz & Guests”のプロジェクトを観たいと思っていた。サシャ・ヴァルツは、誰もが知ってる世界的コンテンポラリーダンサーで振付師であり、”ポスト・ピナ・バウシュ”と呼ばれているほどだ。友人であり、プロジェクトの一員でもある日本人ダンサーのYuya Fujinamiからも公演の度に声を掛けてもらっていたのに、ことごとくタイミングが合わず、ようやく今回のパフォーマンスで念願が叶った。アートウィークのオープニングを飾るには充分過ぎる贅沢な時間となった。ダンサーたちの後ろで圧巻の佇まいの「Neue Nationalgalerie」の中には入ることは出来なかったが、ここは絶対に観に来る価値がある。また、別日に取材で訪れたい。

»In C« (Pop Up Neue Nationalgalerie) – Sasha Waltz & Guests – Terry Riley

2. Matthew Barney『After Ruby Ridge』

続いて向かったのが「Galerie Max Hetzler」にて、現在も開催中のMatthew Barneyの個展<After Ruby Ridge>だ。意外にも今回がベルリン初の個展とあって、2007年にグッゲンハイムで開催された<Barney/Beuys>以来の展示となる。同展は、バーニーの長編映画『Redoubt』に基いており、アイダホ州の人里離れたソー・トゥース山脈を舞台に、宇宙論、アメリカの辺境神話、芸術的創造の役割などの幅広いテーマを扱った映画の視覚的言語からインスピレーションを得ているとのこと。1990年代にアイダホ州北部の山中で分離独立派の一家と連邦捜査官が死闘を繰り広げた場所、「ルビー・リッジ」にちなんで付けられたタイトル「After Ruby Ridge」は、19点の新作ドローイング、2点の彫刻、1点のブロンズ彫刻といった構成で展示されている。

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Matthew Barney『After Ruby Ridge』
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Matthew Barney『After Ruby Ridge』

残念ながら、オープニングや映画上映日に足を運ぶことは出来なかったが、奇怪で美しいバーニーワールドを堪能することができた。彫刻は木や金といった自然界にあるものを素材としているのに対し、ドローイングはポップカラーのプラスチック製の額縁に入れて展示している。繊細で曖昧な線画には、自然、動物、人間の残酷さや剥き出しの欲望が描かれており、ポップさとは対極にあるシュールな描写が脳裏に焼き付いた。同展は、11月6日までの開催となっている。行ける人は是非行って欲しい。

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Matthew Barney『After Ruby Ridge』
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Matthew Barney『After Ruby Ridge』
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Matthew Barney『After Ruby Ridge』

3. David Shrigley x Ruinart『Unconventional Bubbles Tour』

今年のアートウィークで最も興味深かったのは、イギリス人アーティストのDavid Shrigleyによるベルリンの街をジャックした型破りな展示『Unconventional Bubbles Tour』だ。ミッテ地区にある24時間営業のシュペーティー(小売店)やカリーブルストの店内、クーダムのキオスクの外壁など、通常ではあまり考えられないような全6ヶ所にシュリグリーの作品が展示された。9月16日~19日までの期間限定で観ることができ、スタンプラリーのように、もしくは、“ウォーリーを探せ”のように“作品を発見しに行く”というユニークなアイデアがソーシャルメディア上でも話題となっていた。

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David Shrigley x Ruinart『Unconventional Bubbles Tour』
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David Shrigley x Ruinart『Unconventional Bubbles Tour』
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David Shrigley x Ruinart『Unconventional Bubbles Tour』

同展を主催したのは、世界最古のシャンパンメーカーのRuinartであり、長年に渡り行っているアーティストコラボレーションプロジェクトの一環として、イベントと併せて開催された。これまでに11組のアーティストが起用されており、2020年よりシュリグリーとのプロジェクトが始まった。子供心まで一瞬で掴めそうなキャッチーで愛らしいドローイングながら、シュリグリー作品には必ずブラックユーモアが含まれている。そこに不快さはなく、現代社会に対してニヤッとしながら皮肉を言うといった感じだ。今回はドローイングのパブリックアートとなったが、彫刻やオリジナルグッズも観れる個展を是非とも観に行きたいと思った。

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David Shrigley x Ruinart『Unconventional Bubbles Tour』
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David Shrigley x Ruinart『Unconventional Bubbles Tour』

David Shrigley x Ruinart | Artistic collaboration “Carte Blanche” | Maison Ruinart

長期展示に関しては、現在もギャラリーやミュージアムで引き続き観覧可能となっており、戻ってきたツーリストとともにベルリンの街を盛り上げている。ジェントリフィケーションによって、ベルリンはすでに貧しくて若いアーティストにとって住みやすい街ではなくなってしまった。しかしここ数年、世界基準のアートシーンと肩を並べながら、ベルリンらしいオリジナリティーを融合させたアートカルチャーが深く根付いてきているのを感じている。今後ますますおもしろくなっていくことだろう。

Text by 宮沢香奈

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