数こそ少ないもののクラブのガーデンや野外会場でパーティーが毎週末開催されるようになったベルリンサマーシーズン。前売りチケットは常に完売、当日にエントランス前に長蛇の列が出来る「ベルリン名物」な光景も一部のクラブでは再び見ることができた。しかし、活気を取り戻したかのように見えたのも束の間、感染者数の爆発的な増加により11月2日から再びロックダウンとなった。12月16日からは更なる厳しい制限が敷かれ、3月同様にベルリンの街は再びゴーストタウンと化した。

ドイツ連邦政府のグリュッタース文化大臣が表明した「アーティストは今、生きるために必要不可欠な存在なのだ」という言葉はどこへ消えたのだろうか? 私たちはこのままカルチャーの存続を信じ続けるべきなのか、それとも“ニューノーマル”といわれる新たな生活のために根本的に変わらなければならないのか? 

2020年も終わりを迎える今、シャッターが閉じたままのローカルクラブの写真とともに現地から最新情報をお伝えしたい。

2020年とは一体なんだったのか?ベルリンのクラブカルチャーとともに振り返る column201216_kana-miyazawa-01-1440x960
Berghain

アーティストは今、生きるために必要不可欠な存在なのだ」今年の3月末、新型コロナウイルスのパンデミックにより世界が陰鬱な空気に包まれている中、ドイツ連邦政府のグリュッタース文化大臣が言い放った言葉だ。演説の場であればきっとドイツ中のアーティストから拍手喝采が起きただろう。

事実、ドイツは助成金に対する迅速な対応が世界から絶賛され、アンゲラ・メルケル首相の凛とした発言と態度によって国民は安堵に包まれた。日本人の自分でさえ“ドイツに住んでいて良かった”と思ったほどだ。

しかし、そこから9ヶ月経った今、自分たちのことを“必要不可欠な存在”であると信じて疑わないアーティストが一体どれぐらいいるのだろうか? 11月2日からのロックダウンは延長に延長を重ね、ついには、年明けの1月10日までと決定が下された。もはやそれさえも延長されることになるかもしれない。ドイツ人が最も大切にしているクリスマスなどこの世に存在しなかったかのように、あっさりと決定が下されていく中、違法レイブ反コロナデモも何の影響力も持っていないことを痛感した。

TRESOR

テクノの聖地として歴史と人気を誇る。2階にはハウスを中心とした“Globus”があり、並びには、ローカルのコアなファンが多い“OHM”、エクスペリメンタルフェスの<atonal>のメイン会場でもある“Kraftwerk”が続く。ガーデンを持たないこのエリアのクラブは3月のロックダウンから営業再開を果たしていない。

ベルリンでは通常、10月末でクラブのガーデンが閉まり、室内のみのパーティーへ移行する。今年は室内でのパーティーが開催できないことから、例外に11月も野外パーティーのスケジュールが発表された。私自身も参加した10月の野外パーティーでは、騒音問題のない会場に防寒対策にヒーターが設置され、熱気に満ちたフロアーではアウターが必要ないほどだった。

何より、オーガナイザーの本気度と寒くてもいいから踊りたいというベルリナーの気持ちが痛いほど伝わってきた。しかし、そんな切実な思いも再びのロックダウンによりいとも簡単に打ち砕かれ、唯一の楽しみとも言えるバーさえも営業停止となった。

ELSE

Wilde Renate”の系列店であり、フェス会場のような広いガーデンとテクノ、ハウス、ディスコにおける第一線で活躍する世界的アーティストのブッキング、客層の良さなどで高い評価を得ているトップクラブ。コロナ禍でも営業を再開していたが、ロックダウンにより営業休止となった。

そんな中、10月29日、ドイツ連邦税務裁判所はクラブイベントもコンサートと同等の付加価値税の恩恵を受けるべきとの判決を下した。

簡単に説明すると、これまで、テクノやハウスといったDJやライブアクトがメインで出演するダンスミュージックイベントでは、チケット販売において付加価値税19%払わないといけなかった。それに対して、クラシックやジャズといった楽器を演奏するいわゆるコンサート減税対象とされており、付加価値税はわずか7%となっている。

完全なるダンスミュージック差別だと思ってしまうが、Berghainとザクセン州のパーティーがそれぞれ地方裁判所で勝訴し、その後最終判決へと至った。ちなみに、ドイツでは付加価値税の標準は19%であるが、食品、書籍、ホテル、コンサート会場などの文化サービスを提供する企業には7%が適用されている。

Berghain

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Berghain/Panoramabar(https://www.berghain.berlin/en/)

世界最高峰と呼び名の高いベルリン随一のクラブ。コロナ禍では、ガーデンのみ営業を行い、室内は、“Boros Collection”とタッグを組み、「Studio Berlin」と題したコンテンポラリーミュージアムとして営業を再開。ロックダウンにより閉鎖中。

ロックダウン直前に舞い込んだ朗報であり、2009年から不平等とも言える高い税金を支払い続けてきたローカルクラブにとっては歴史的瞬間となったことだろう。毎週末フェスのような豪華ラインナップで24時間から36時間ぶっ通しで遊べて、チケットはわずか10ユーロ~18ユーロ。それでも年々値上がりしていったことに不平不満を言ってしまったことを深く反省した。

ベルリンのローカルクラブは世界から称賛される裏側で、不当な税金、高騰する家賃、立退き問題などといった様々な困難に立ち向かってきたのだ。そこには、90年代から築いてきた唯一無二のアンダーグラウンドカルチャーを守り続けてきた先駆者たちの努力と情熱がある。

しかし、このニュースを素直に喜べないのは私だけだろうか? もちろんローカルクラブが通常営業できているとしたら非常に素晴らしいニュースであるけれど、すでにパンデミックとなった3月から9ヶ月以上も通常営業が出来ていない現実があるのだ。ドアが開いていない状態で、19%から7%に引き下げられたと聞いても営業が出来なければ1円の売り上げにもならないということである。

同時に不可解なニュースも舞い込んできた。ロックダウンとなる直前の週末、それはパーティーが出来る最後の週末を意味するのだが、なんと人気ローカルクラブ“Wilde Renate”が警察から不当な摘発を受ける事件が起きた。

Wilde Renate”では、以前に取材させてもらったアートパフォーマンスショー<OVERMORROW>などが開催されており、この週末もいわゆる踊れるパーティーではなく、フェティッシュ系のパフォーマンスイベントが予定されていた。そこへいきなり警察が押し寄せ、イベントを中止にさせたのだ。

しかも、原因は不明、騒音による近隣からのクレームもなく、薬物や危険物なども何も発覚しなかったのに中止となり、再開の許可も下りなかった理不尽さに憤りを感じた。

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不当な摘発にあった“Wilde Renate”の様子

本当にここはベルリンなのだろうか? “自由”という言葉が世界一ピッタリな刺激に満ち溢れた街なのだろうか? 一体、ベルリンの本当の姿はどこへいってしまったのだろうか? これまでが異常だったのだろうか? いろんな思いが込み上げてはやり切れない気持ちが募っていく。

厳しい規制を設けたロックダウン、ワクチン接種、冬の終わり、きっとそういった理由から私たちはまた少しずつ自由を取り戻していくのだと思う。しかし、もうそこにこれまでと同じ価値観は見出せないのではないだろうか? 

コロナ禍における苦肉の策ではなく、充実感や刺激を得れる新たな形でのカルチャーを今すぐにでも発信する必要性を感じている。

Text & Photo by Kana Miyazawa

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