2022年こそは“コロナ”というワードを払拭できると思っていた。しかし、ドイツでは、まだまだ遠い先の話のように思えてならない。コロナルールを撤廃し始めた国があるのに対し、ワクチン接種をしていない人たちへの厳しい制限を続行したままだ。一瞬だけ営業再開が許されたローカルクラブが再び営業できるのは4月以降だろうと言われている。慣れと諦めが入り混じる中、ベルリンの現地状況をお伝えする。

コロナ規制を撤廃したイギリス、デンマーク、独自の規制を徹底するドイツ

1月19日、オミクロンの存在をいち早く消し去ったイギリスは、マスク着用義務などのレギュレーションも撤廃した。それに続くように、EUでは初となるデンマークがコロナ規制の全てを撤廃すると発表した。ドイツも続いて欲しいと願ったが、それを打ち砕くかのように他国より厳しい規制が敷かれたままだ。”2Gプラス”と呼ばれるワクチンパスポートもしくは回復証明書の提示に、さらに24時間以内に受けた抗原検査による陰性証明書を併せて提示しなくてはレストランやバーを利用することが出来ない。当然ながらローカルクラブは再び営業停止を命じられている。近隣のコロナテストセンターは連日行列を成しているが、反して週末にも関わらず飲食店にはお客さんが数名しかいないといった悲惨な営業状況を目の当たりにする。

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ショッピングモール内に設置されたコロナテストセンター。無料の抗体検査と有料のPCR検査を行なっている。

国によって対応が大きく異なるのはワクチンにおいても同様のことが言える。ドイツでは、ワクチンの効果を信じ、率先して接種している人も多いが、接種しなければ仕事を失ってしまうから、自由を奪われてしまうから、という理由で仕方なく接種する人が多いのも事実だ。他ならぬ私もその1人である。重度のアレルギー体質だったため、小学校高学年から一切のワクチン接種を行っておらず、インフルエンザのワクチンもやったことがなければ、一度しか掛かったことがない。それなのに、コロナに対してだけワクチンを接種しないと日常を送れないなんておかしな話ではないだろうか。

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ワクチンセンターで渡される15ページにも及ぶワクチンについての説明書やアンケート。英語版も用意されており、英語の話せるスタッフも常駐している。

ベルリンでは、ワクチン接種者であってもオミクロンに感染した人が多数いることや副反応の辛さからブースターを打ちたくない、軽症で済むならいっそ感染して、リカバリー証明書をもらいたいという人が一気に増えた。それを問題視したのかまでは不明だが、感染から回復した人に発行されていたリカバリー証明書の有効期間がこれまで半年だったのに、いきなり3ヶ月に短縮された。

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同じくショッピングモール内に設置されたワクチンセンターへの経路。混雑もしていないのに、入り口には多数のセキュリティーが立っており、撮影禁止の張り紙があったため、中の様子は撮影できなかった。

こういった状況下においても、どんなに自由を奪われようが、事実上のロックダウンになろうが、「絶対に打ちたくない!!」という人たちも一定数いる。そして、毎週コロナ対策に対する反対デモが開催されている事実も知って欲しい。そんな様々な疑念や懸念が浮かび上がるドイツ政府の対応だが、コロナ関連のニュースで一番の衝撃を受けたことは、DJミュージシャンクラブ関係者がワクチンセンターで働いているということだ。

仕事を失ったDJたちがワクチンセンターで働いている前代未聞の事態

世界規模でクラブの営業がストップし、パーティーもフェスも中止となったパンデミックの最中に仕事を失ったアーティストの数は計り知れない。バースタッフ、セキュリティー、PA、オーガナイザーなども同様である。毎週末ぎっしり詰まっていたギグの予定が全てキャンセルとなり、その状況が数ヶ月続けば、ギグが主な収入だったアーティストたちが困窮しないわけがない。そんな彼らを救うためにワクチンセンターで雇用したという話だが、イベントホールとして利用されてきた「Arena Berlin」がワクチンセンターに、フェティッシュクラブの「KitKat club」がコロナテストセンターへと様変わりしたことから、どこかきな臭さを感じてしまう。

念のため、名誉のために実名は挙げないが、フェスのヘッドライナーに抜擢されるような人気DJや日本でも人気のディスコDJから、有数クラブのマネージャーやバウンサーに至るまで、約5000人が起用されたと聞く。日本語でもいくつかの記事を目にしたが、ワクチンセンターについては、ナショナルジオグラフィックの記事を参考にして欲しい。

ナショナルジオグラフィック記事はこちら

パーティーのないベルリンなんて、もはやベルリンではない、ただの汚いだけの街に成り下がってしまう。当たり前のことだが、アーティストはワクチンセンターで働くためにこの街にいるわけではない。コロナ禍における末期症状のような現状には心底落胆してしまうが、こんな状況下でも営業可能なバーでは、著名DJを招いたパーティーを開催している。あくまでもバー営業の延長にDJがミュージックセレクターとして入っているといった形だが、音とパーティーに飢えているベルリナーにとっては救いの場となっているのだ。

パーティーを開催し続けるバーに押し寄せるベルリナーたち

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Jus-Ed at repeat bar
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Jus-Ed at repeat bar

私自身も何度も足を運んでいる「repeat bar」では、不定期ではあるが、ベルリン拠点のハウスDJ、Jus-Edが土曜日にオールドスクールなパーティーを開催しており、SNSで直前の告知ながら毎回大盛況となっている。最近では、Jus-Edとは別の土曜日にpanorama barのレジデントとしても活躍しているSoundstreamがDJ仲間とともに出演するようになり、同じく直前の告知にも関わらず毎回大盛況のようだ。

入店するには2Gプラスをクリアしなければならないが、どんなに厳しい規制を敷かれても良い音で踊れるならどこへでも行く、これがベルリナーの姿である。

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近未来な内装と良質なサウンドシステムに定評のある”Kwia”の店内 Photography:Musashi

他にも、最近最も人気スポットとなっているのが、コロナ禍にオープンさせて大成功を果たしている「Kwia」だ。その強気の姿勢にも感銘を受けたが、オーナーカップルの2人はベルリンにおけるLGBTQカルチャーに精通している人物で、オープン当初から話題となっていた。それほど広くない店内は靴を脱いで入るユニークなスタイルで、基本的に座って音楽を聴きながらチルアウトするための空間といったコンセプトだが、あまりに人気で人が押し寄せてしまうため、自動的にスタンディングになってしまう場合もある。

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Golden Gateのレジデント兼オーガナイザーであり、海外フェスやパーティーにも多数出演しているNeco。日本人DJが多数出演しているのも”Kwia”の特徴の一つ。 Photography:Musashi

「Kwia」に関しては、別途取材をしたいと考えているが、バードリンクのクオリティーが低いベルリンにおいて、クラフトビール、ナチュールワイン、本格的なカクテルをきちんと扱っている希少なバーであり、そういった拘りにも一目置いている。

暗い、寒い、長いの三拍子揃ったベルリンの冬を生き抜くには、娯楽がなければメンタルがやられてしまう。厳しい規制の中でもアンダーグラウンドカルチャーの大切さを理解し、提供し続けてくれるバーやアーティストへのリスペクトとともに春の訪れを心から待ち望んでいる。

追記:同コラムを執筆中に、ベルリンは小売店への2Gルールを撤廃するなど、一部の規制緩和を発表した。

Text by 宮沢香奈

宮沢香奈さんの記事はこちら