スペインのバレアレス諸島に位置するイビサ島は、世界一のパーティーアイランドとして知られており、毎年5月から10月にかけて毎日開催されるパーティー目当てに訪れた観光客で溢れかえっている。しかし、有数クラブが点在し、ナイトスポットが集中しているのはイビサ島のイビサタウンだ。

イビサ島は島全体が世界遺産に登録されるほど美しいビーチやアクティビティ、中世ヨーロッパを彷彿させる旧市街など、パーティー以外にも様々な魅力がある。それについては、現地レポート第二弾で深掘りするとするが、イビサはなぜカルト的人気を誇るパーティーアイランドとなったのか?

今年で生誕50周年を迎えたイビサを代表する老舗クラブ「PACHA(パチャ)」の記念すべきアニバーサリーパーティーの模様とともに、その歴史を紐解いていきたい。

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農地に建てた質素なクラブ、それが始まりだった。

1973年、創設者のリカルド・ウルジェイによってイビサタウンに「PACHA」がオープン。設立当初は、のちにブランドアイコンにもなっているシンボルマークのチェリーは存在していなかった。それどころか、当時近隣にナイトクラブはなく、農村地に突如できたのが「PACHA」だ。白い石とモルタルの壁、そして、木造の内装というイビサの伝統的なフィンカ(農家)を思わせる地味な外観は、現在のゴージャスなイメージからは程遠い。

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イビサの伝統的な建築である白い石で作られたオープン当初の「PACHA」

それでも、「PACHA」は自由と快楽を求め、多くの人々が毎夜訪れる人気スポットとして認知されていった。70年代のイビサは、ベトナム戦争からの徴兵忌避者やフランコ独裁政権から逃れてきたアーティスト、ミュージシャン、作家などの平和主義者や快楽主義者で溢れており、彼らは抑圧された社会から離れた自分たちの居場所を求めていたのだ。

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年代によってファッションも大きく変化している

特に興味を抱いたのは、イビサにはクラブが浸透する前からヒッピーによる音楽カルチャーが根付いていたことだ。バーのレコードプレーヤーからは、テクノやハウスではなく、サイケデリック、ロック、ジャズ、フュージョンが流れ、のちにディスコが脈打ち始め出した。そんなイビサのヒッピーカルチャーを代表するのが「Flower Power」だ。もともとビーチで開催されていたヒッピーフェスはのちに「PACHA」のレギュラーパーティーとして毎週開催されるようになり、現在も続いている。

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現在は毎週月曜日に開催されている伝説のパーティー「Flower Power」
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「Love and Peace」な雰囲気溢れる80年代の「PACHA」

世界の至るところからやってきたヒッピーたちによる自由な音楽カルチャーを取り入れつつも新しいクラブカルチャーを構築していった「PACHA」。その人気とともにイビサタウンには至るところに新しいクラブが誕生していった。76年には「Amnesia」、86年には惜しくも閉店してしまった「Space」、99年にはスヴェン・ヴァスが創設者の「Cocoon」や「DC10」がオープンし、イビサのクラブカルチャーは瞬く間に近隣諸国から世界へと広がった。ヒッピーたちと同様に自由を求めてやってきたボブ・マーリーをはじめ、グレイス・ジョーンズ、ジェイド・ジャガー、ヒルトン姉妹、ケイト・モスなど、多くのセレブリティーも訪れるようになった。

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「PACHA」35周年パーティー

全てが規格外で驚きの連続だった「PACHA」の50周年アニバーサリー

クロージングに近づき始めた9月末の週末のパーティーに招待してもらったが、金曜日はRobin Schulz、土曜日はMarco CarolaとSeth TroxlerによるB2B、やはり長年に渡り、親交の深いアーティストたちがお祝いに駆け付けていた。週末のパーティーは前売りの時点でSOLD OUT、オープン前からエントランス付近には長蛇の列ができていた。店内は迷子になるほど広々していて、メインフロアー、セカンドフロアー、VIPエリア、ガーデン、そして、レストランが併設されている。

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「PACHA」は道を挟んで反対側に4つ星ホテル、少し離れたビーチ沿いにはラグジュアリーなリゾートホテル「Destino」を所持しており、豪華なサウンドシステムを備えた「Destino」でもアニバーサリーイベントが盛大に行われていた。

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「Destino」

「PACHA」の店内は、VIPエリア以外は座る場所はほとんどなく、フロアーは踊ることに夢中なオーディエンスで埋め尽くされ、ものすごい熱気に包まれている。爆音でありながら音がクリアーで驚くほど心地が良い。金曜はカラフルでポップなライティングやデコレーションが印象的だったのに対し、土曜はチェリーのマークは消え、天井に設置されているミニマルなLEDレーザーでダークな雰囲気。パーティーに合わせて内装やライティングを変えるこだわりにも驚いたが、店内とは全く雰囲気の違うジャングルのようなデザインのガーデン(テラス)も素晴らしかった。「PACHA」はどこにいても現実離れした異世界を楽しむことができる。

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DJだけでなく、本格的なダンスパフォーマンスやライブパフォーマンスが披露されるのも「PACHA」の特徴。
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Solomon

10月15日には、Solomonをゲストに迎えたシーズン最後のクロージングパーティーが開催され、Marco Carolaをゲストに迎えた12月31日のニューイヤーイベントを除いて来年5月までクローズとなっている。

イビサのクラブのエントランスは格段に高いことでも有名だ。確かに週末のパーティーともなれば、50ユーロ〜60ユーロが相場となり、そこに決して安くないドリンク代も加算される。さらに、ドレスコードにも気を使わなければならない。まさに、”富裕層のための遊び場”だったが、ラグジュアリーでありながらぶっ飛んだ演出はここでしか味わえない希少な体験だ。世界各地のクラブを見てきた私にとってもそこは”全く知らない世界”であり、NYの伝説のクラブ「Studio54」に迷い込んだような不思議な感覚に陥った。

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Text:宮沢香奈

INFORMATION

PACHA

Av. 8 d’Agost, 07800 Eivissa, Illes Balears,Spain

PACHA

宮沢香奈 コラム