ベルリンにはありとあらゆる音楽ジャンルが存在する。世界のスターアーティストを魅了し、惹きつけてやまないこの街の音楽シーンは多種多様な人種と同じく、様々なスタイルが入り混じり、ベルリンらしい化学反応を起こしている。
イタリアとベルリンを拠点とするレーベル〈Jazz-o-Tech〉もそのひとつだ。名の通りテクノとジャズを融合させたレーベルであり、クラブシーンの王者であるテクノに、ジャズには欠かせない生楽器を取り入れたスタイルは、エレクトロニックミュージックながら、インプロヴィゼーションによるライブ感、オーガニックなサウンドを堪能できる。ダンスフロアーでは激しいビートを求め、自宅では大人にジャズを気取りたい。そんな人には是非とも知って欲しいワンランク上の音楽が楽しめるレーベルだ。
今回〈Jazz-o-Tech〉のレーベルマネージャーであり、ベルリンを拠点にDJ、プロデューサーとして活躍するマッティア・プレーテ(Mattia Prete)にインタビューを行った。昨年11月に、SAGE BEACHで開催されたコンピレーションアルバム『This is Techno Vol.2』のリリースパーティーのレポートと共にお届けする。
──〈Jazz-o-Tech〉を設立した理由を教えて下さい。
マッティア・プレーテ(以下、M) 2017年に、ローマからベルリンに活動拠点を移しましたが、そこから全てが始まりました。今でも昨日のことのように覚えています。ギグから帰ってくる電車の中で、ローマで「LRS Factory」というスタジオを経営している友人であり、オーディオエンジニアのルイジから電話がかかってきたんです。彼の友人のアレッサンドロ(〈Jazz-o-Tech〉オーナー)が、テクノとジャズを融合させたレコードレーベルを立ち上げるという話を教えてもらい、興味を持ちました。当時の自分はテクノに夢中でしたが、ジャズに対しても常に情熱を持っていたのです。それから、アレッサンドロと様々なアイデアとレーベルを実現するための方法について何度も話し合いました。音質、戦略、チーム編成はレーベルを運営するにあたり、最も重要なポイントです。これらのすべてに合意したのち〈Jazz-o-Tech〉をスタートさせました。
──テクノの街とも言われるベルリンへの移住をきっかけにジャズシーンにも進出したわけですね。イタリアではテクノDJとしてキャリアを積まれてきたと思いますが、主にどのような活動をされていたのですか?
M 私がDJのミキシングを始めたのは10代の頃でしたが、最初はヒップホップやレゲエからでした。そこから、いつの間にか電子音楽が自分にとって情熱を注げるものだと気づき、その時点ですでに自分の人生において、永遠に続くものだと確信したのです。当時の2006年頃はクラブシーンでミニマルが流行り始めており、友人たちと一緒に、ミニマルテクノやハウスといったオルタナティブな音楽を使ったスクールパーティーを開催するようになりました。
19歳の時、DJを本業にしようという野望と情熱のもとローマに拠点を移し、そこから自分のスタイルであるテクノを確立させました。DJとしてパーティーでプレイし始め、のちに、ローマで最も人気のテクノパーティーの1つであるAmigdalaのレジデントとなり、イタリアをはじめとするヨーロッパツアーに回るようになりました。
bandcamp
DZ’OB Ft. Mattia Prete – Zamovliannia
──ジャズには生楽器による即興演奏が欠かせないと思いますが、そこにテクノを融合させることによって生まれる効果はどんなものですか?
M テクノに生楽器を取り入れたスタイルやサウンドは、クラブシーンにおける進化を象徴していると確信しています。私たちは今〈Jazz-o-Tech〉を通して、従来のサウンドとオーディエンスを拡大し、多様化させることができると思っています。なぜなら、テクノのグルーヴが身体を動かす一方で、アコースティックな楽器の音がその上を滑るように動くことによって単調なループではなく、もっとオーガニックなサウンドが生まれる役割を果たしているからです。
テクノ・ジャズは決して新しいジャンルではありません。1970年代にすでにこの2つのジャンルをミックスした実験が行われています。ピエロ・ウミリアーニ(Piero Umiliani)の“Produzione”を是非聴いてみて下さい。すでに前例があり、確立されているジャンルであるにも関わらず、未だにこの2つのジャンルの間に壁を見つけ、融合はあり得ないと考える人々から批判を受けることがあります。彼らは私たちがやっていることは違法であるとさえ言いました(笑)。
Zalla(Piero Umiliani) – “Produzione” Original Version
──昨年11月にコンピレーションアルバムの第二弾である『This is Techno Vol.2』がリリースされましたが、前作の『This is Techno Vol.1』との違いはありますか?
M 前作と今作の2作品に違いはありません。どちらも同じクオリティーで補完しあうものであり、今後も制作されるコレクションの一部であるため、アートワークも同じデザインを使い続けています。4/4ビートからドラムンベース、フュージョン、瞑想、ロックなど、さまざまな形のテクノ・ジャズを見つけることができます。どちらのレコードも一緒にミックスすると素晴らしいものになりますよ!
──今作には、ヨーロッパで活躍するアーティストが多数参加していますが、どのように選んでいますか?
M まず、どんなテクノ・ジャズを作りたいかというアイデアから始まりますが、その前に言っておきたいのは、バックグラウンドの異なるミュージシャンの音を組み合わせるというのは、非常に複雑な作業です。時間、感性、そして、適切なビジョンが必要となります。この中のひとつでも欠けてしまうと満足のいく結果は得られません。
例えば、もっとパンチの効いたものをつくろうと思えば、ピュアテクノのプロデューサーとその音に合うミュージシャンを繋ぎ、その逆もあります。もちろん、新しいスタイルに挑戦するプロのミュージシャンを選ぶことも良いことだと思っています。
──ベルリンのSage BeachとOYE Recordsでリリースパーティーを開催されましたが、来場者の反応はいかがでしたか?また、ベルリンの音楽シーンについてどう思われますか?
M 今日の音楽シーン全体が循環するジャンルや疑問のあるトレンドによって動かされているにも関わらず、ベルリンのパーティーにはいつも適切なオーディエンスがいます。この街は競争が激しく、ローカルシーンで信用を得るには時間が掛かりますが、努力と情熱があればどんなことでも可能です。リリースパーティーはまさにそれをリアルに示すもので、多くのベルリナーが私たちのパーティに参加し、踊り、叫び、レコードを買ってくれるのを見て、自分たちはよくやった!と思いました。ベルリンでもっと多くのイベントを開催する準備ができているし、もっと多くのファンに見せたいと思っています。
Interview & Text by Kana Miyazawa