東京とベルリンを繋ぐ
アフリカンルーツを持つDJ、
Katimi Aiの素顔に迫る

ロンドンとイビサを拠点とするグローバルPRからコンタクトをもらって知ったのが、Katimi Ai(カティーミ・アイ)だった。ナイジェリア人と日本人の両親を持つ彼女は、東京生まれ東京育ち、WOMBをはじめとする都内のクラブでDJとして活動している。2020年にカルト的人気を誇るベルリンのレーベル〈Keinemusik〉からミックスをリリースし、ベルリンのコミュニティラジオ「Refuge Worldwide」へもミックスを提供。そして、今年9月、ベルリン拠点のFloyd Lavine主宰レーベル〈Afrikan Tales〉からデビュー曲がリリースされたばかりだ。
ベルリンのアンダーグラウンドカルチャーが今最も支持するアップカミングアーティストの1人と言える。

そんな飛躍の姿とは裏腹に、ハーフブラックという外見だけで幼少期から理不尽な差別を受けてきたという。世界中に旋風を巻き起こしたBLM運動が彼女の人生の転機となり、自ら先頭に立ち、声をあげ、行動に移した。多様性”と言う言葉を頻繁に聞くようになったのは、BLM運動以降のことだ。BLM、LGBTQ+、MeToo、これらは、決してトレンドなどではない。その渦中にいる人にとっては人生そのものなのだ。

東京での活動、ベルリンからのリリース、そして、人種差別への抗議運動を行う活動家としての顔も持つKatimi AiにQetic独占でインタビューを行った。

interview & text
by Kana Miyazawa

INTERVIEW:
DJ Katimi Ai

アフリカンハウスとの出会いから、ベルリンでのリリースに至るまで

━━南アフリカで生まれ育ち、現在はベルリンを拠点に活動するFloyd Lavineのレーベル〈Afrikan Tales〉からデビュー曲“Take Me Back to 2019”をリリースすることになった経緯を教えて下さい。フロイドは多種多様な人種が特徴のベルリンでも希少なアーティストですよね。

渋谷の道玄坂にあるバー「しぶや花魁」を根城に音楽活動しているSakiko Osawaさんという先輩DJから、2019年当時VISIONで開催されていたアフロハウスのパーティーに呼んでもらったことがきっかけです。その時のゲストがフロイドと同じくアフロハウスのDJ Hyenahでした。

当時は、アフロハウスではなく、テックハウスのイベントによく出演していたんですが、サキコさんから「Katimiはアフリカンルーツを持っているし、アフロハウスが合う」と、勧めてくれたんですよね。そのパーティーをきっかけに、フロイドと仲良くなって連絡を取り合うようになりました。自分のスタイルにもアフロハウスを入れるようになったのはその頃からですね。そこから、コロナが落ち着いてきた2021年9月に単独でベルリンへ行き「Refuge Worldwide」でフロイドと共演した時に、楽曲を提供して欲しいという話をもらったんですよね。

Katimi Ai|Mix for Refuge Worldwide
Guest Mix|Oct 01,2021
Guest Mix|Oct 12,2021

━━先輩DJであるサキコさんあっての今があるということですね?Katimiさんの才能を見抜く先見の明があったんですね。

そうですね。全てはそこから繋がったのでお礼を言いたいんですが、実はまだ言えてないんですよ。コロナ禍で人に会う機会も減ってしまっていたし。でも、当時はまだ今ほどアフロハウスが浸透していなかったので、2019年にフロイドやHyenahを呼んでいることは貴重ですし、先見の明があったと思います。

━━デビュー曲“Take Me Back to 2019”はどのように誕生したんですか?

フロイドと初めて会った時から楽曲は作ってないのか、作った方がいいと言われていたんですよね。実は、密かに作っていたんですが、リリースができるまでの完成度があるのか自信がなくて(笑)。 でも、ベルリンから戻ってから思い切って楽曲を送ってみたら、フロイドが気に入ってくれて自分のレーベルからリリースしたいって言ってくれました。

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━━それは嬉しいですね! ベルリンで何か自信がついた出来事とか、きっかけがあったんですか?

ベルリンにはずっと行きたかったんですよね。ちょうどBerghain(ベルグハイン)が営業を再開するタイミングだったので遊びに行って、衝撃を受けました。テクノのカッコよさやオーディエンスの音に対して求めるパッションが日本と全然違いますよね。もっと早く知りたかったし、もっとズブズブいっていいんだ! って思いました。

━━確かに日本のクラブとは違うし、かなりのカルチャーショックを受ける場所ではあると思いますが、具体的にはどんなことを感じたんですか?

日本にいると遊び方とかもリミットを感じてしまうことがあります。私は、音があったら思いっきり遊びたいタイプですが、それについてこれる友達がいないんですよね(笑)。だから、自分もちょっと抑えてしまうんです。それに、日本だと30歳になったらクラブ遊びは引退するとか、遊びに行かなくなる人も多いです。でも、ベルリンはそんなこと誰も気にせずにとことん遊んでますよね。ベルグハインで知り合った40代の女性が10代からクラブで遊んでるけど、まだまだ足りない! と、言っていて、そういったことも衝撃的でした。

━━ベルグハインに限らず、ベルリンのクラブは誰も年齢も性別も人種も気にしないですね。Katimiさんがベルリンに来た時はちょうどクラブ営業が再開したばかりだったから、待ってました!と言わんばかりに人が押し寄せてたし、踊らせて!!という熱量がすごかった時なので、余計にそう感じたと思います。私もコロナの鬱憤を晴らすために毎週末パーティーに行ってました(笑)。

自分の気持ちもフリーダムになれたし、トップレベルのアーティストが多く住む街だし、ベルリンに住みたくなりました。もう、ベルグハインだけでどこまでも語れちゃいます!

━━ベルリンと東京では没入感が違う気がします。ベルリンを知ってからの東京を見返るとやっぱり大人しいと感じますね。東京でも場所やイベント、その時の盛り上がりによってアフターパーティーまで開催されたりすることがあるとは聞きました。ベルリンといえば、2020年に〈Keinemusik〉からもミックスをリリースしていますよね?

WOMBで開催されている「Bamp」というアフロハウスのパーティーがあって、その時のゲストが&MEとRampaで、私はサブフロアーで回す予定でした。でも、2020年の3月というまさにパンデミックの時期で来日が出来なくなってしまいました。事前に自分のストーリーでパーティーの宣伝をした時にRampa本人からメッセージをもらったんです。最初は、日本に行ったら美味しいラーメンが食べたい! とか、そんな会話だったんですけど(笑)。私がハーフブラックだからなのかすごく気にかけてくれて、来日出来なくなったあともやり取りを続けていたんです。そこから、〈Keinemusik〉のミックスに参加しない?と誘われて、私自身もすごく驚きました。

Keinemusik Radio Show
by Katimi Ai 23.10.2020

━━すごい抜擢! 彼らはベルリンでもカルト的な人気を誇るので、レーベルナイトがすでにフェス規模になっているし、チケットがソールドアウトや高額になっています。

サキコさんのこともそうですが、人との出会いに恵まれていると思っています。東京にいながら海外のアーティストやレーベルの方から突然ポンっと連絡がきたりするんですよ。ベルリンにいた時も「今ベルリンにいるよ!」と、インスタグラムに投稿しただけで、DJ Stingrayが連絡をくれたこともあります。好きなアーティストだからすごく嬉しかったですね!

━━そうやって人を惹き付ける魅力がKatimiさんにはあるんだと思いますし、ベルリンのシーンがフィットするんだと思います。音楽活動をする傍ら、BLM運動にも積極的に参加していますが、他国に比べて保守的な印象を受ける日本でフロントに立ち、声を上げることにかなりの勇気がいりませんでしたか?

勇気を出して行動に移したというよりは、自分にとっては当たり前の行動だと思いました。日本で生まれて日本の文化の中でずっと育ってきたのに、ハーフブラッ

クという見た目だけで幼少期から当たり前のように差別を受けてきました。そのことにずっと違和感を感じていたんですよね。8歳ぐらいの時に両親が離婚して、ごく一般的な家庭だったのでインターナショナルスクールとかには通えず、公立の学校に通っていたこともありますが、周りにハーフブラックやブラックの同級生はいませんでした。だから、「黒いよねー」とか「黒人!!」とか、叫ばれたりするのが日常で、自分だけ違う、自分のことを恥ずかしいとさえ思うようになってしまっていました。学生時代は人前に出ることにも消極的だったし、自分に自信がありませんでした。でも、ずっと差別されることへの違和感を感じていたので、BLM運動の時は「やっと言える!!」という気持ちの方が大きかったですね。

━━幼少期から私たちには想像も出来ないような辛い思いをされてきたんですね。BLMをきっかけに公共の場で声をあげる行動に出たわけですが、それによって何か変わったことはありますか?

まず、BLMの前に見た目は外国人なのに英語が話せないことはどうなんだろう? と思って、英語の専門学校に通い始めました。そこでようやく日本で暮らすハーフの人たちと出会って、自分を受け入れてもらえたんですよね。その後、BLM運動が起きて世界中に同じ苦労や辛い思いをしている人たちが沢山いることを知りました。少数ですが、ハーフブラックの友人たちとも話し合いをして、差別用語を言われることが当たり前になってはいけないと強く思いました。友人の中には、石を投げられた人もいましたから。肌が黒いというだけで自由を奪われるのはおかしな話ですよね。少人数の友人から輪が広がっていって、最終的にBLM運動のデモに参加することになりました。

デモに参加したり、公共のメディアで発言することによって、周りの友人からは「“ブラック”って言うことが失礼なの?」と聞かれたり、気を使ってくれる人が増えたのは事実ですね。

━━日本はアジアの極東にあって日本語しか話さないし、他国の文化を取り入れているようで内向きな部分がものすごいありますよね。特にオープンマインドではない人種だなと思います。でも、私自身もベルリンに移住するまではやっぱり分からなかったですよね。人種差別とはなんなのかって。

そうなんですよ! みんな知らずに無意識で差別をしてしまっているんだと思います。そこに悪気はないんですよね。知らないだけで。だからこそ知って欲しいと思って行動しています。

━━でも、表に出るのが苦手だったところから、今ではDJとして活躍するようになったわけですよね。そういった辛い経験は音楽活動に影響を与えていますか?

幼少期から音楽がすごく好きで、歌手になりたいと言う夢がありました。でも、歌手は無理だなと気付いて、DJは下を向いて、プレイに没頭できるから自分にもあってると思ったんです。DJならメッセージ性の強い曲を流せるし、曲が勝手に主張してくれるところも気に入っています。
DJを始めた当初は、純粋に音楽が好きだからDJをやっていましたが、アフロハウスの存在を知ってからやっぱり意識するようになりましたよね。BLMについて語っている曲も増えたし、自分でも意識してかけるようになりました。

━━BLMについて歌っている曲って具体的にどんな曲ですか?

よくかけるのはこの2曲ですね。

“THE PSA” – Karen Nyame KG

“Afrolatina” – Daved Montoya

━━ボーカルがしっかり入った曲ですが、オーディエンスから曲についての反応があったりしますか?

説得したい! という思いはありますね。これを聴いて! って思いながらいつもかけています。DJってすごく個性が大事だと思っているのと、昔から人と被りたくないというのは根本的にありました。友人からも選曲について、今の曲はKatimiにしか流せない曲だよね、カッコ良かった!って言われるようになったのは嬉しいです。

でも、同時にいろいろと頭にきていたことがあった時期でもありました。ブラックアーティストかっこいい! と公言しながらミックスをよくかけているDJでもBLMに関しては何も行動しなかったり……保守的な音楽業界に嫌気が差したこともありました。BLMに対して上辺だけの人が多いかなということも実感しました。

━━BLMだけに限らず、LGBTQ+とか、今であればウクライナ情勢だったり、今この瞬間に起きている世界の出来事に対して自分で調べて知ろうとするのが当然だと思っていますが、こんなことを言ったら反感を買うんじゃないか、干されてしまうんじゃないか、そういったことを気にする人がすごく多い気がします。当事者が言っても変わらない、周りが気付いて変わらないといけない問題でもあると思います。日本の音楽業界でも声を挙げている人は多い印象を受けましたし、クラブシーンでも20代、30代の若い世代の方がソーシャルメディアで発信して、行動に移していると思いましたが、その辺はどうですか?

世代関係なく、敏感な人は敏感だし、行動している人はしていますよね。自分が出演した小さい規模のフェスでもDVから守るためのセーフハウスがあったり、セクハラ問題に対して精力的に動いている人たちがいます。それは、きちんと発言する人がいるからこそ実現されているし、日本も変わってきているとは思います。

━━それは心強いし、海外にいるとなかなか知り得ない貴重な情報ですね。今後についてお聞きしたいんですが、現在は東京を活動拠点としていますが、今後、海外での活動が増えていきそうですか?将来的に活動拠点を海外へ移したいなど希望はありますか?

海外には行きたいですよね。ギグやツアーでいけるのが一番理想的ですし、今回のリリースがきっかけでバリ島からオファーをもらいました。でも、今は楽曲制作に力を入れたり、東京でもっと頑張って実績を作りたいです。ベルリンは人生を楽しむためにまた行きたいですね(笑)。

━━次にベルリンに来る時は是非一緒にハングアウトしましょう!!本日はありがとうございました!!

Interview & Text by Kana Miyazawa

宮沢香奈さんのコラムはこちら

Katimi Ai(カティーミ・アイ)
東京出身のDJ/プロデューサー。日本人とナイジェリア人の血を引くカティミは、学業に励む一方、バーを経営する父とラジオ番組を担当する母の影響から、常に音楽と向き合ってきた。学業を終えた後、彼女はプロとして音楽への情熱を追求することを決意。

2015年、そのユニークなルックスとカリスマ的な魅力で、東京で瞬く間に話題となる。彼女のアクティベーション/レジデンシーは、WOMB、Ageha、Circus、Vision、Vent Tokyoなど。

2017年、新しい領域に踏み出すためにニューヨークに渡り、マンハッタンとブルックリンの様々な会場でアクティベーションを始めるためにプレイし、2018年8月にブルックリンを拠点とする会場Kinfolk 90とのアクティベーションのために再度渡米。

2019年1月、ブルックリンを拠点とするラジオ局HALFMOON BKから、日本から初めてとなるレジデントDJとして起用される。

「YY project K」に参加し、琴奏者のAsukaとビートメイカーとしてコラボレーションを行う。
2022年5月、ファーストシングルをリリース。

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