ベルリンの閑静な住宅街にある一軒家、それぞれにアトリエスペースを構え活動する画家の齋藤研佑と森下アリス。彼らは中国に太いパイプを持ち、各地で開催される展示は全て盛況だ。絵では食べていけないと言われるシビアな世界で順風満帆なアーティスト人生を送っているように見えるだろう。しかし、研佑さんは生まれつき難聴の障害を持ち、読唇術やアプリを利用して会話をしている。アリスさんは台湾人の父親を持ち、インターナショナルスクールに通いながらも日本文化に馴染めずに苦労した。

パリでの極貧暮らし、ベルリンでの新たな暮らし、中国からのビッグオファー、本インタビューの直後には待望の第一子が誕生し、アートに対する考えや方向性に大きな影響を与えているという。トライ&エラーを繰り返しながらも邁進し続ける2人にスポットを当て、現在と過去、そして、未来について語ってもらった。

INTERVIEW:
画家
齋藤研佑、森下アリス

パリから車で作品とともにベルリンへ移住。ゼロからできることはなんでもやった。

━━東京からパリ、そして、2015年にベルリンへ移住されたとのことですが、もともと研佑さんは映像カメラマン、アリスさんはデザイナーとして活動されてたんですよね?

齋藤研佑(以下、研佑) そうですね。東京で映像カメラマンとして仕事をしていて、パリでも日本から受けた仕事をフリーランスとして続けていました。東京でアリスと出会った頃の僕は人生のどん底にいて、日本を離れてもいいかなと思い始めていたこともあって、すでにワーキングホリデーでパリに行くことを決めていたアリスと一緒に移住することに決めました。

森下アリス(以下、アリス) 私も東京にいた頃はアパレル会社でデザイナーとして働いていました。もともと絵は描いてはいましたが、画家で食べていくのは厳しいですよね。でも、やっぱり作品制作に没頭したいと思い、日本でお金を貯めてから2012年にパリへ移住しました。

━━パリからベルリンへ移住したのはなぜですか?

アリス まず、パリは物価が高いし、当時の私たちのスキルでは自分たちの作品を売ってパリで生活していくことが難しかったんです。フランス語は話せますが、それだけではダメなんですよね。どこかに就職してフルタイムジョブで働きながらアーティスト活動を続けることもできましたが、それでは何のためにパリに来たか分からなくなってしまいます。パリでも展示はやっていましたが、私にとっては東京で働いていた時の膿を出し切っている状態でした。だから、それが作品に反映されてしまって良い作品ではありませんでした。でも、自分にとってそれは必要なことで、その膿を出し切ってからでないと本格的に制作に入り込めなかったんです。

研佑 それで、パリ以外で住みやすい場所を探すことにして、周りからいろいろ情報を集めた結果、アーティストにとってベルリンが住みやすいということを知りました。

アリス 当時は今より物価が安くて、アトリエも構えることができるという点が理想的だと思いました。ベルリンはアーティストに対する支援やKSK(芸術家社会保障)があるから、保険制度や医療がきちんとしている点も決め手になりましたね。
そこからレンタカーを借りてパリからベルリンに引っ越しました。

━━え、パリから車ですか!?

アリス 一番安く引っ越せる方法が車だったんです。しかも、1月末の雪の日でアウトバーンを200キロ超えのスピードで走る大型トラックに飛ばされそうになりながらのドライブです(笑)。車に積んだ大きな作品を15時間ずっと支えながら乗ってました。途中ドイツのアーヘンの友人宅で一泊させてもらいましたが、それでももう本当に大変で……

研佑 パリの時点で荷物も多くなってたから車の方が良かったけど、本当に大変でしたね。街中ではなく、ずっと森の中を走っていくからいつどこでベルリン市内に入ったかも分からないし、ベルリンのテレビ塔の灯が見えた時に本当にホッとしたのを覚えています。それまで生きた心地がしなかったですから(笑)。

━━壮絶……でも、無事に着いてよかったですね!

研佑 はい、でも実はそれで終わりではないんですよ。当時住んでいたシェーネベルクのアパートメントに着いて、荷物を下ろしてから今度はパリにレンタカーを返しに行きました。

━━ええ? なぜ!?

研佑 ベルリンでレンタカーを乗り捨てるとその分のお金が掛かってしまうから、パリまで返しに行った方が安いんです。でも、今だったらもっと賢いやり方がありますよね、きっと(笑)

アリス 飛行機代も全部含めて2人で500ユーロで済みました。お金はないけど時間はあったから出来たことだし、もうその当時は破れかぶれだったんです(笑)。

━━スタートからものすごいドラマですね(笑)。そこからのベルリン生活はどうでしたか?

アリス ベルリンへ移住したばかりの頃は、お金がないから作品が売れることを見越してクレジットカードでフレームを買って展示をしていました。だから、意地でも売らないと赤字のままになってしまいます。最初は売れるマーケットなんて分からないし、コネクションもない。でも、とにかく自分たちがやれることをやる! という意気込みでやってましたね。

研佑 僕はパリで受けていた撮影の仕事が徐々に減ってきてしまったんです。ドイツ語も出来ないし、英語力もそこまでレベルが高いわけではない。その状態でフリーのカメラマンとして仕事を取るなんて難しい。そこで、自分に何ができるかを考えた時に趣味で描いていた絵が目に入ったんです。そこから、アリスに絵の知識を教えてもらい、画家としての活動をスタートさせました。当時は紙に適当にペンで描いていただけで、ファインアートの意味もアブストラクトが何かも分かっていませんでした。そんな状態から絵を始めたんですよね。

━━2人にとってベルリンが本格的な活動の場となったわけですが、実際住んでみてどうですか? アーティストとして住みやすい街だと思いますか?

アリス ベルリンの人って良くも悪くも人に興味がないというか、他人のことは気にしない人という人が多いじゃないですか? 干渉してこないのが良い面でもありますが、関わりたかったら自分から積極的にいかないと何もハプニングしないという面もあります。あと、ベルリナーは新しいものに対してそこまで抵抗がなく、なんでも受け入れるといった懐の深さもあると思います。アートシーン自体もイノベーティブなアートを探しているから、自分たちのやりたいことに挑戦しやすい環境もありますよね。ただ、けっこう荒削りだなと思うし、洗練はされてないです。でも、私は洗練されているところにいたいわけではないので、作り手として実験的なことができる自由さがあるところも魅力だと思っています。

研佑 ベルリンは自分次第なところがあって、孤独になる自由もあるけど、人と出会うことにも自由がある街だと思います。日本は作品の細かいところのクオリティーが高くてダイナミックだけど、すごく丁寧、対して、ベルリンは表面的な美しさよりも何を伝えたいとか、コンセプトに重きを置いていると思います。

━━アーティストが自由に活動できる土俵はあるけれど、作品を売るのは難しい、絵が売れない、という話はよく聞きます。アートシーンにおいても世界基準には満たしてないとも言われますが、個人的にはファッションよりアートの方が断然おもしろいし、クオリティーも高いと思いますが、その辺はどうですか?

研佑 今のベルリンはすごく良いバランスだと思います。資本主義的な考えがまだそこまで強くない。ただ、これから変わっていくと思います。物価の上昇とともにアートシーンももっとビジネスライクになっていくだろうし、求められると思います。お金のない若いアーティストはすでにライプツィヒとかベルリンより物価の安い街に移っているし、ベルリンに踏み止まるならこれまで以上に努力が必要になってくると思います。

アリス その一方で、ドイツはアートをビジネスにするのがよくないみたいなソーシャリズム的な考えもあると思います。だけど、世界を相手にやっていくにはある程度の資金力がないと出来ないし、ドイツも含めてですが、ヨーロッパのアートシーンの弱いところは国がサポートしてくれるから別に売れなくていい、好きなことだけできればいいといったアーティストも多い点です。アーティスト自身がみんなビジネスマンでセールスも出来るアメリカとは全然違います。個人的にはお金の作り方もアートだと思うから、スタイリッシュにやればいいと思いますが。

━━2018年から中国で毎年エキシビジョンを開催していますが、そこに至った経緯は何ですか?

アリス 昔、ウェディング地区にある台湾料理店でバイトしていたんですが、ギャラリーに搬入するために作品を持っていってた日があったんです。たまたまその日に現在の私たちのキュレータである中国人の方が食べに来ていて、作品を見せる機会に恵まれました。その人は、ベルリンでギャラリー運営をしていたんですが、家族の事情で四川の成都に帰ってしまっていて、ベルリンに遊びに来ていたタイミングで知り合うことができましたが、ベルリン拠点のアーティストの個展を中国で開催したいと考えていたらしく。それで、作品を見せたらすごく気に入ってくれて、その時ちょうど開催していた個展にも観にきてくれて、作品もいくつか買ってくれました。それが全ての始まりですね。

研佑 アリスきっかけで僕の作品も観てもらい、同じように気に入ってもらいました。費用も全部出すから作品を持って中国に来て欲しい! 2人を売り出したい! と熱望されて。僕は最初その状況についていけませんでした。ベルリンでアーティストとして頑張ってやっていこう! と覚悟を決めたばかりでしたからね。そこからいきなり、中国? え? 何? ってなりました(笑)。

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2021年8月に中国・成都で開催されたエキシビジョン『BECOMING』

━━何が起きるか分からないのがこの街ですね!成都での初個展はどうでしたか?

アリス 2018年に成都で開催した『Duality』という展示が最初の個展でしたが、成都は文化の街で京都のような雰囲気があって、『Art Chengdu』のような国際的な現代美術のフェアもあります。私たちも深センの『SHENZHEN INTERNATIONAL ART FAIR』に出展することができました。ありがたいことに初個展から好評で作品もかなり売れたので、また次もやろうということになり、そこからコロナの時期を抜かしてほぼ毎年開催することになったんです。

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2021年11月25日〜11月28日中国・深センにて開催された『SHENZHEN INTERNATIONAL ART FAIR』

研佑 中国のコレクターは絶対に原画を買います。日本だとシルクスクリーンや作品集が売れたりしますが、中国では複製には価値がないと思われているようです。絵にお金をかける余裕がある人が多いのも確かですが。あるコレクターの1人がお茶のインポーターだったんですが、自宅にゲストを招いてお茶会を開く際にコレクションしている絵を見せながら高級茶の販売を行うんです。しかも、毎回ゲストに合わせて見せる絵を替えているというから、相当の枚数を持ってることになりますよね。アメリカも同じですが、豪邸に人を招いてパーティーするのが好きだから、そういったステイタスの中で絵は商談ツールの1つになっているということを知りました。

━━中国には日本やヨーロッパとはまた違ったアートカルチャーが根付いているんですね。2019年にはチベットで共同制作した作品の展示を行っていますが、そこに至った経緯はなんですか?

研佑 チベットに関しては是非ともYouTubeチャンネルで観て知って欲しいですね。コラボレーションしたバイマは、タンカというカラフルな仏教画を描くアーティストですが、チベットには画材屋がありません。いわゆる一般的な絵具は使わずに岩から取れた顔料を使ったり、筆も動物の毛から作ったり、自然界にあるものしか使わないという手法なんです。

チベットでの21日間 / 言葉を超えて / 21days in Tibet(PART1) / BEYOND WORDS

━━すごい! 元祖サステナビリティーですね。チベットでの制作はかなり過酷だったようですが……

アリス バイマの家があるチベット自治区のガンゼという街に1ヶ月滞在しながら制作した作品を成都で展示するというプロジェクトでした。ガンゼに行くには成都から車で行くしか方法がなくて、おまけに15時間も掛かるし、獣道を車で通るからキュレーターは吐くし、ケンちゃんは高山病になるというとんでもない状況でした。標高が3800メートルもあって、歩くのも話すのも少なくしないと危険な場所なんです。

研佑 高山病で倒れて2日間動けなかったから、その間制作ができなくてすごく焦ったし、プレッシャーでしたね。このプロジェクト自体がなくなってしまったらどうしようと不安で仕方ありませんでした。でも、言葉が通じない中で、身振り手振りと筆を交わしながら描いていき、淡々とした作業だったけれどすごく楽しかったです。その制作過程で色の感覚を覚えることができて、今の自分の作品に色数が多いのもバイマの影響が大きいですね。バイマのおかげでカラーバランスを覚えることができたんです。

━━パリからベルリンでの道中以上に大変そうですね(笑)。でも、過酷なチベットでの経験からまた絵の作風に変化があったわけですよね。昨年ベルリンで開催された個展もかなり好評でしたよね? やはりグッとくる作品は全て売れていたという印象を受けました。

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2022年9月29日〜10月3日ベルリンにて開催された『PEOPLE, EVOLVE, TRANSFORM』

アリス これまでやってこなかった新しい試みとして、ARを取り入れて3Dで作品が見れたり、ARで実際にはないものを作って、それを見に来た人に体験してもらえるインスタレーションにしました。もし、これをARではなくVRでやってしまったら仮想現実だから現実がいらなくなってしまいます。だから、それはやりたくなかった。リアルな世界ありきのその延長線上にある究極のものがARの世界であり、子供にも見せたいと思って制作しました。ケンちゃんをキャラクターに仕立てて、ベルリンのアートシーンを案内するというコンセプトになっています。

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AR+3Dインスタレーションの作品 “MOMORI TREE”

研佑 生まれてきた子供たちは自分たちより確実にデジタル社会に生きるじゃないですか? 手で描く絵というのは古いメディアであって、ARは現代における新しいメディアの形ですよね。それを融合したものをやりたかったし、子供たちも楽しめるアート作品を見せたかったんですよね。

━━今後やっていきたいことはありますか?

アリス もっといろんなアーティストとコラボしたいですね。すでに企画はあるんですが、絵というより、もっとインタラクティブなアートをやりたいです。子供の目線でも楽しめて、頭で考えるアートではなく、感覚的に楽しめるものがいいと思っています。言葉を超えたところでアートだけで繋がれることが大事だと思います。それと、絵画とか彫刻とかカテゴライズせずにもっと垣根を超えていくようなアートをやりたいです。例えば、クリエイションで部屋を埋めてみるとか。分野の違う3、4人のアーティストで1つの部屋を作品として見せるようなイメージですかね。

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アリスさんの作品は、花、動物、人間の手や足をファンタジーに描く。一部は刺繍で表現したコラージュのように見えるのが特徴。2Dでありながら3Dのように思わず触りたくなる。

研佑 僕はもっといろんなものを短時間でたくさん描いていきたいです。これまでは1つの作品を仕上げるのにものすごく時間がかかるタイプだったからそれを変えていきたい。今はそれができる自信があるし、絵に対して確信を持って描けるようになりました。僕もアリスと同じ考えですが、絵だけではなく、映像もデジタルも取り入れて各ジャンルが溶け合うような作品の見せ方をやりたいですね。絵だけが飾ってあるエキシビジョンから、もっと踏み込んで3Dとか体感型のアートが未来を担うデジタル社会に生まれた子供たちのためになると思っています。3歳や5歳の子供が絵を見ても分からないと思うけど、3Dだったら子供でも感じるものがあると思うんです。

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コロナ禍の大変な時期に「BACKLASH」が送ってくれた革ジャン。ファッションと絡めた作品を作りたいと思った時に浮かんだアイデアが革の上に描くということだったそう。

研佑 アリスがいつもきっかけを作ってくれています。中国もチベットもそうですし。だから、僕にとって彼女はペリーの黒船なんですよね。お互いアーティストだから意見が食い違うこともあるし、ライバルだと思っていた時期もありました。でも、今はお互いを尊重し合って、尊敬しあえる関係性ができているので、今後も支え合っていろんなことに挑戦していきたいです。

Text by 宮沢香奈
Photo by Musashi Shimamura(Kensuke & Alice)

宮沢香奈さんのコラム一覧

齊藤研佑(サイトウケンスケ)
1978年、東京で生まれる。重度の難聴を持って生まれた為、耳から入ってくる情報よりも目から入ってくる情報で物事の多くを判断しながら生きてきた。その為、中学生になる頃には目で見て伝える事のできる絵を学び始める。その後、グラフィックデザインを専門的に学び、伝えたい情報を綺麗に組み立てて見る人に伝える技術を学ぶ。その傍らで絵は独学で描き続けていた。彼の精密な作品は主にインクやアクリルを使って表現されている。
2012年にパリに移住し、2015年にベルリンに移住する。ヨーロッパに拠点を移したのをきっかけに絵を活動のメインに持ってくるようになる。

-STATEMENT
日本の漫画から影響を受けた細密な描写と、多くの情報を綺麗に構築していくグラフィックデザインの考え方を持って描いています。メディアはインクやアクリル絵の具などを中心に色々な技法を使っています。人間の姿や人体部分などモチーフの分かりやすい部分と、模様を積み重ねるような抽象的な部分を織り交ぜる事で、はっきりした部分と曖昧な部分が両方あるような広がりのある絵を描いています。また作品のテーマによって使用するメディアの組み合わせを変えたりして、その都度、新しいビジュアル的な調和を発見して追求していきたいと考えています。

HP

森下晶(モリシタアリス)
東京生まれの日本と台湾のバックグラウンドを持つアーティストで現在はドイツ・ベルリンで拠点を構え制作している。幼少期からインターナショナルスクールで育ちながら色んな国を行き来し、多文化が交わる環境で育ったことが彼女の創作活動に大きい影響を与えている。彼女の作品には東洋と西洋両方の美学が見て取れる。文化、儀式、神話やアンティークなどにも強い関心を持っている彼女が描く自然や人体のモチーフをベースにしたシュールなイメージは独特な世界観を感じさせる。インク、アクリル、コーヒー、刺繍を中心に数々の技法を組み合わせて作品を製作していく。彼女の構造やディテールに対する繊細な表現はよく現れる点描の技法を通して見ることができる。

-STATEMENT
抽象的な表現主義や綿密な点描、テクスチャー遊びや刺繍などの技法を織り交ぜて一つの作品を創っています。異なる技法を重ね合わせていく中で私なりのハーモニーを探していくそのプロセスを通して得られるバランスに魅了されています。色んな事柄を簡単に要約するのではなく私たちの経験や見解の複雑さを視覚的な形で表現することを目指しています。技法として点描をよく使います。一つの点からイメージを構築する感覚がとても好きです。部分的に綿密な描写を取り入れることでそのものが持つ繊細さが引き出されるように感じます。同時に衝動的に色を重ねる部分も取り入れることで私自身の中にあるエネルギーを表現しています。自分自身の中にある相反する部分も視覚的なフォルムとしてキャンバス上に記していきます。平面作品として創り始めますが、私自身が表現したいものの立体的なイメージに向かって製作します。ペインティグが感情的で考えさせられる経験を含むものであると同時に絵画が感覚的な経験を与えれるものとして制作しています。

HP