毎日大量のインフォメーションが届く中、1通のメールに目が留まった。以前から交流のあるベルリン拠点の音楽PRからだった。『No Photos On The Dance Floor! Berlin Techno 1992–Today』と書かれた件名は、まだ記憶に新しいフォトエキシビジョンのタイトルと同じだった。壁崩壊後のベルリンで生まれたテクノシーンとクラブカルチャーを30年間に渡り記録してきた集大成として、フォトギャラリー“c/o Berlin”にて開催された。Wolfgang TillmansやSven Marquardtをはじめとするベルリンのクラブカルチャーと密接な関わりを持つ著名フォトグラファーたちが多数参加し、写真集も発売された。
『No Photos On The Dance Floor! Berlin Techno 1992–Today』とは、一つのプロジェクトであり、新たにコンピレーションアルバムを6月にリリースすること発表した。写真集にも勝るテクノレジェンドが名を連ねる豪華コンピの全貌を、発起人であるHeiko Hoffmannのエクスクルーシブコメントも交えて紹介する。
ベルリンテクノの歴史を集約
このプロジェクトを立ち上げた目的は、ベルリンテクノの歴史を一つにまとめるためです。なぜなら、30年以上もの間この街のテクノシーンを記録する出版や作品集といったフィジカルなものがないと思ったからです。写真展、写真集、そして、今回のコンピレーションアルバムをリリースするまでに至りましたが、私自身の個人的なプロジェクトであるにも関わらず、多くの人がサポートしてくれました。その全ての人にとても感謝しています。
1989年にベルリンの壁が崩壊しましたが、この歴史的な出来事とテクノシーンが結びつくという非常にユニークな時代が始まったとき、私は西ベルリンで育った一人の10代の若者でした。そこから、このテクノシーンとともに人生を歩んできました。多くの友情が発生し、発展し、自分のプライベートとビジネスにおけるほとんどが形成されていったのです。
そう語るHeiko Hoffmannは、GROOVEマガジンの元編集長として19年のキャリアを誇り、BeatportのディレクターやNY大学の講師など様々な肩書きを持ち、ドイツを代表するクラブカルチャーのエキスパートとして多くの功績を残している人物だ。
『No Photos On The Dance Floor! Berlin Techno 1992–Today』は、2枚のヴァイナル、CD、デジタルにてリリースされることになっており、1枚目は、テクノ黎明期の1992年からシーンが確立されていく2006年までに焦点を当てている。
トーマス・フェルマン(Thomas Fehlmann)とモーリッツ・フォン・オズワルド(Moritz von Oswald)による3MBプロジェクトの90年代初期トラック、DJタニス(DJ Tanith)とマイク・ヴァン・ダイク(Mijk van Dijk)によるプロジェクト9-10-Boy、アタリ・ティーンエイジ・ライオット(Atari Teenage Riot)のアレック・エンパイア(Alec Empire)、スリープアーカイヴ(Sleeparchive)、AbletonLiveの開発者であるRobertHenkeの別名義Monolakeなど、ベルリンだけに留まらない世界のテクノ史上に多大なる影響を与えたレジェンドたちが名を連ねている。
2枚目は、2007年から現在までに制作されたトラックから抜粋した構成となっている。Heartthrobによるレーベルメイトのリッチー・ホゥティン(Plastikman)リミックス、Berghainのレジデント、ベン・クロック(Ben Klock)、フィメールテクノDJを代表するエレン・エイリアン(Ellen Allien)やDasha Rush、ベースミュージックを融合させたモードセレクター(Modeselektor)などが参加。
今はなき伝説のクラブ“BAR25”や世界最高峰と呼び名の高い“Berghain”が世界的に認知され、アンダーグラウンドカルチャーの発信地として広がった黄金期であり、世界各地からDJやプロデューサーが拠点を移し、新しいクリエイティブコミュニティの中心地となった時代を象徴している。
さらに、2部構成のヴァイナルに加えて、Rødhad、Efdemin、リカルド・ヴィラロボス(RicardoVillalobos)による追加トラックをフィーチャーしたCDとデジタルも合わせてリリースされる。
ベルリンクラブカルチャーの背景
ベルリンの壁が崩壊したあと、ゴーストタウンと化した街は廃墟で溢れていた。アーティストたちが自分たちの“基地”として占拠し、クラブやバー、ギャラリー、スタジオを作っていったことがシーンの始まりである。そこに音楽が存在しないはずがない。
テクノといえばデトロイトが発祥の地であることは周知の事実だが、80年代にはすでに、Juan Atkins,、Kevin Saunderson、Underground Resistanceといったアフリカ系アメリカ人アーティストたちによって確立されていた。それをいち早くインポートさせたのが、Hardwaxであり、のちにベルリンのテクノシーンに大きな影響を与えている。
ベルリンのクラブカルチャーの歴史はこれまでに多くのメディアで伝えられてきており、私自身も何度も記事にしてきた。しかし、Heiko氏が言う通り、これまでフィジカルなものとしてリリースされた記憶はない。なぜなら、タイトルにある“No Photos On The Dance Floor!”の意味を考えてみて欲しい。
ベルリンのクラブを訪れたことのある人なら知っていると思うが、ほとんどのローカルクラブは撮影を禁止している。プライバシーの保護や他人の目を気にせず、音楽やダンスに集中できる空間を提供しているからだ。それは、訪れた人にしか分からないルールであり、実体験でしか味わえない最高の瞬間を与えてくれるホスピタリティーでもある。
『No Photos On The Dance Floor! Berlin Techno 1992–Today』は、テクノシーンの精鋭たちが凝縮された宝物であり、間違いなく永久保存版である。同コンピレーションを聴くことによって、ベルリンのクラブカルチャーの世界観を少しでも体感し、歴史を知るきっかけになって欲しい。
最後に、Heiko Hoffmannに日本のテクノシーンやクラブカルチャーについてどんな印象を持っているか訪ねた。
日本のテクノカルチャーも私にとってテクノカルチャーの一部となっています。ルーツは、イエロー・マジック・オーケストラとそのメンバーたちが残してきた先駆的なプロジェクトまで遡りますが、菊本忠男(ローランド元社長)が開発したTB-303やTR-909がなければ、音楽自体を知覚することはできませんでした。
90年代後半には、Ken Ishiiの『Jelly Tones』や石野卓球の『Mix-UpVol』(偶然にも、今作のコンピレーションと同様に、Maurizio、Basic Channel、Mijk van Dijkのトラックをフィーチャーしています!)などを通じて、日本のテクノをフォローし続けました。彼のアルバム『Berlin Trax』はベルリンのシーンとの繋がりを示している重要な作品ですし、ベルリンのSpace Teddyからリリースされたススム・ヨコタの別名義Ebiのアンビエントアルバム『Zen』も貴重なクラシックな作品です。跡部進一は、私のお気に入りのプロデューサーの一人ですが、近年の彼の作品はとても独創的で、そのサウンドに迷い込むのが好きです。また、DJ Nobuの『ExtraTools2』やHarukaとSapphireSlowsのサウンドもとても好きです。
最近では、Kuniyukiの別名義Kossのアルバム『Ancient Rain』が13年経った今ヴァイナルとなって再リリースされ、その美しさを再発見しました。今、DJとして注目しているのはPowderです。しかし、日本のテクノカルチャーの全てについて語るには、私の知識はまだまだ足りないと思っています。だから、もっと学びたいですね。まだ行ったことのない<Rainbow Disco Club>や<Labyrinth>といったパーティーを体験してみたいし、mule musiqのToshiya Kawasakiが作った“studio mule”にも行ってみたいです。
Text by 宮沢香奈
INFORMATION
No Photos On The Dance Floor! Berlin Techno 1992–Today
Vol. 1 Vinyl: 1992–2006
A1. 3MB feat Juan Atkins – The 4th Quarter
A2. 9-10-Boy – Robocop
A3. Alec Empire – SuEcide
B1. Futurhythm – Phuture
B2. Vainqueur – Lyot (Maurizio Mix)
C1. MMM – Donna
C2. Kotai + Mo – Black Acid (Pt. 1)
D1. Sleeparchive – Elephant Island
D2. Monolake – Alaska (Substance Remix II)
Vol. 2 Vinyl: 2007–Today
A1. Heartthrob – Baby Kate (Plastikman Remix)
A2. Ellen Allien – Go (Marcel Dettmann Remix)
B1. Klockworks – Sean
B2. Wax – Untitled (Wax No 30003 B)
C1. Ancient Methods – Else
C2. Dasha Rush – Outer Space
C3. Avalon Emerson – The Frontier
D1. Barker – Cascade Effect
D2. Modeselektor – Kalif Storch
D3. FJAAK – Breathe
CD
Disc 1: 1992–2006
01. 3MB ft. Juan Atkins – The 4th Quarter
02. 9-10-Boy – Robocop
03. Alec Empire – SuEcide
04. Futurhythm – Phuture
05. Vainqueur – Lyot (Maurizio Mix)
06. MMM – Donna
07. Kotai + Mo – Black Acid (Pt. 1)
08. Sleeparchive – Elephant Island
09. Ricardo Villalobos – Dexter
10. Monolake – Alaska (Substance Remix II)
Disc 2: 2007–Today
01. Heartthrob – Baby Kate (Plastikman Remix)
02. Ellen Allien – Go (Marcel Dettmann Remix)
03. Klockworks – Sean
04. Efdemin – Acid Bells
05. Wax – Untitled (Wax No 30003 B)
06. Rødhåd – Energomash
07. Ancient Methods- Else
08. Dasha Rush – Outer Space
09. Avalon Emerson – The Frontier
10. Barker – Cascade Effect
11. Modeselektor – Kalif Storch
12. FJAAK – Breathe
Digital
01. 9-10-Boy – Robocop
02. Alec Empire – SuEcide
03. Futurhythm – Phuture
04. Vainqueur – Lyot (Maurizio Remix)
05. MMM – Donna
06. Kotai + Mo – Black Acid (Part 1)
07. Sleeparchive – Elephant Island
08. Monolake – Alaska (Substance Mix II)
09. Heartthrob – Baby Kate (Plastikman Remix)
10. Ellen Allien – Go (Marcel Dettmann Remix) 08:09
11. Klockworks – Sean
12. Efdemin – Acid Bells
13. Wax – Untitled / W30003 B
14. Rødhåd – Energomash
15. Ancient Methods – Else
16. Dasha Rush – Outer Space
17. Avalon Emerson – The Frontier
18. Barker – Cascade Effect
19. Modeselektor – Kalif Storch
20. FJAAK – Breathe