スペイン・バルセロナで発祥し、毎年世界の主要都市で開催されている音楽とテクノロジーの祭典<Sónar>。
今年、初の開催地となったポストガル・リスボンでは、4月8日から10日までの3日間に渡り開催され、大盛況のうちに幕を閉じた。

残念ながら日本人アーティストの出演がなかったが、日本の老舗メーカー“オヤイデ電気”の「オヤイデNEO」とベルリンを拠点にカスタムケーブルを展開する「enoaudio」がオフィシャルパートナーとして抜擢された。

ケーブルはスタジオやステージには欠かせないパーツであることは誰もが知ってるが、なかなかスポットが当たらない裏方機材でもある。今回はそんなケーブルの重要性、ヨーロッパに広がる日本製品についてなど、関係者に話を聞かせてもらった。

「オヤイデNEO」海外担当 &PRのAnriさん、「enoaudio」の代表・飯野祐紀さん、マネージャー・佐賀井克彦さんをゲストに迎え、音楽にも精通する3名による貴重な動画コメントとともにご覧頂きたい。

インタビュー|『Sónar Lisoba 2022』オフィシャルパートナー 日本が世界に誇るケーブル「オヤイデNEO」&「enoaudio」に迫る column220518_sonar_oyaide-enoaudio_13-1440x960
(L→R) オヤイデNEO 海外担当&PR・Anriさん、enoaudio代表・飯野祐紀さん、enoaudio マネージャー・佐賀井克彦さん

『Sonar Lisoba 2022』「オヤイデNEO」&「enoaudio」へインタビュー

オフィシャルパートナーに抜擢された『Sónar Lisoba 2022』について

━━まずは『Sónar Lisoba 2022』について聞きたいのですが、オフィシャルパートナーに抜擢された経緯を教えてもらえますか?

佐賀井克彦(以下、佐賀井) 『Sónar Lisoba 2022』(以下、Sónar)のスポンサーシップとPRを担当している友人から、ワークショップをやらないか? という話をもらったのがきっかけです。そこから、スポンサードという形でケーブルを提供してもらえないか? という話に発展して、「enoaudio」だけでは対応できない規模感だったこともあり、以前から取引のあるオヤイデさんに相談させてもらいました。

Anri 「オヤイデNEO」は、これまでにも「Sónarバルセロナで行われたCarl Craigのショーや、ポルトで開催されている「NEOPOP Festival」などにもスポンサードしてきました。「NEOPOP」のオーガナイザーチームが今回のSónarも手掛けていることを知って、話がとてもスムーズに運びました。嬉しい偶然が重なりましたよね。

━━ケーブルのスポンサードというと具体的にはどういった形になるんですか?

Anri 『Sónar Lisboa 2022』では、全エリアのDJブースやステージにオヤイデのケーブルをインストールしました。「d+」と「NEOケーブル」を250本、長さにして約1,250メートルを用意しましたが、かなりの量ですよね。「d+」は完成品なのでそのままDJブースに導入出来ますが、「NEOケーブル」は、日本からベルリンの「enoaudio」さんに送り、各ステージで必要な種類のプラグや長さにアッセンブリ(※)してリスボンへ送りました。

(※)ステージに合わせてケーブルを組み立てたり、カスタマイズすること。

━━Sónarで使用されるケーブルにはどんな特徴があるんですか?

Anri 今回Sónarのために用意したケーブルは、「NEO」から2種類と「d+」から3種類です。一つ目は、NEOでは定番とも言える「PA-02 V2」という紫色のケーブルで、導体にオヤイデオリジナル精密導体102SSCが使用されたものになります。普通の導体との違いは何かというと、特別な製造工程を経て作られた銅が使われていて、音の量感はすっきり傾向ながらも、解像度の高さとレンジの広さ、超低域から超高域まで濃厚な情報量を持っています。レコーディング、ミキシング、マスタリング、モニターなど、あらゆる環境で優れた伝送能力を誇るので、プロフェッショナル向きと言えます。

もう一つは「INNOVATOR」というまだ未発表の新作ケーブルです。同ケーブルについては、6月にリリースを予定しているので、詳細は控えてさせてもらいますが、発表を楽しみにしていて下さい。DJブースには、オヤイデの定番といえる「d+ 」ケーブルを用意しました。緑と白の2トーンカラーにフラットなデザインが特徴的で、フェスだけに限らず、世界中のクラブやDJが多数使用してくれていて、定評があります。

ケーブルを“アッセンブリ”するレア映像を公開!!

ベルリン拠点のオーディオブランド「enoaudio」オフィススタジオを訪問

飯野祐紀(以下、飯野) オヤイデさんがオリジナルの導体を独自に開発したことは業界内でもすごいことなんです。通常ではやらない細部にまでこだわってることで音が変わってくるし、何をしたらどのように音に影響するか分からない状態で、オヤイデさんは長年に渡り、研究と開発をしてきているんですよね。僕も学生時代からオヤイデさんからケーブルを買って使っていたし、日本におけるケーブルのパイオニアですよね。だから、コラボレーションとか取引が出来ることになって純粋に嬉しかったです。

━━Sónarは単にダンスミュージック のフェスというだけでなく、テクノロジーの分野にもフォーカスしていますが、その中で「enoaudio」さんはどんなワークショップを行う予定ですか?

佐賀井克彦(以下、佐賀井) 指導しながら実際にケーブルを作ってもらうワークショップを行います。作ったケーブルは持ち帰りが可能なので、自宅やスタジオでそのまま使用してもらうことができます。普段、Bluetoothで音楽を聴いている人も多いと思いますが、そういった人にもぜひ自分で作ったケーブルをスピーカーに繋いで音楽を聴いて、その違いに気付いて欲しいと思っています。フェスの現場って何が起きるか分からないし、これまでそういった現場に出展したことがなかったので新たな挑戦ですね。

「enoaudio」による『Sónar Lisoba 2022』ワークショップの様子を公開

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ワークショップを行った「Sónar+D」会場は、パン工場跡地をリノベーションした巨大なコンクリートビルディング
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「オヤイデNEO」「d+」「enoaudio」のケーブルが並ぶ
インタビュー|『Sónar Lisoba 2022』オフィシャルパートナー 日本が世界に誇るケーブル「オヤイデNEO」&「enoaudio」に迫る column220518_sonar_oyaide-enoaudio_3-1440x1080
ベルリンからSónarに参戦していたカップルがオリジナルケーブル作りに初挑戦。佐賀井さん(左)指導のもと、約30分で1本のケーブルが出来上がる。
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Anriさん(右)もケーブル作りにチャレンジ。

良質なケーブルを使うことで音が変わることを知って欲しい

━━飯野さんに質問ですが、なぜベルリンでカスタムケーブルの会社を立ち上げようと思ったんですか? 

飯野 もともと電子音楽が好きで、自分でも楽曲制作をしていたので、導かれるようにベルリンに移住しました。しかし、交友関係が増えていく中で、アーティストでもケーブルに拘ってない人が意外と多いことに気付いたんです。日本にいる時はケーブルを機材の一部として見るのが普通だったけど、ベルリンではそうではなかったんですよね。

僕は日本にいる時から良い音にするために自分でケーブルを作っていたし、ケーブルを変えると音が変わるということを確信していました。そこで、試しに自分が作ったケーブルを友人のアーティストに使ってもらったら反応が良かったんです。最初は、友人繋がりで使ってもらう程度でビジネスとしては捉えてなかったですね。2017年ぐらいからオンラインで販売を始めて、「enoaudio」という名前も付けて、そこから徐々にオーダーも増えていきました。

━━それは意外ですね! 世界のトップアーティストたちが集結しているベルリンで、使用しているケーブルのクオリティーがあまり良質ではないとは考えもしませんでした。でも、そこから天職を見つけたわけですよね?

佐賀井 飯野くんはビジネスの才覚があると思います。ニッチな分野に鼻が利くし、元々ギークなんですよね。僕はコミュニケーションが得意なので、一緒に働き出した時もそれぞれ違った動きができて、良いバランスが取れていると思います。

飯野 いろんなアーティストから”ケーブルガイ”って呼ばれてます(笑) 

全員 爆笑

━━自分で作ったケーブルを身近なアーティストにサンプリングして、実際に使ってもらって、という地道な草の根活動から広がっていったんですね。

飯野 そうですね。ケーブルにお金を掛けるという考えがあまりなかったアーティストやPAでも、実際に音を聴けば違うことが分かるので、サンプリングして実際に使ってもらうことによって理解を深めていきました。職人気質のPAは日本の方が多い印象ですが、ドイツだけに限らずヨーロッパの人たちは幼少期から良い音を聴いているから、自然と耳が肥えていて、音感のレベルが高いと思います。

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ベルリンのPrenzlauer Berg地区に位置する「enoaudio」
ケーブルをカスタムするための作業場でありながら、スタイリッシュ。インターナショナルなスタッフが在籍し、英語でコミュニケーションを取り合うのもベルリンならでは
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「enoaudio」ストックルーム

━━物心ついた時から家で流れている音楽がテクノだったとか普通の環境ですもんね(笑)日本人として海外で事業を手掛けるに当たって、メリット、デメリットを教えてください。

飯野 日本から仕入れた良質な素材で作った“メイド・イン・ジャパン”製品をベルリンを拠点にヨーロッパで販売できているのが一番のメリットですよね。日本人が今まで地道に築き上げてきた技術の看板を維持しながら、クオリティーを一番に考えた製品作りを心掛けています。

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enoaudio代表・飯野祐紀さん

━━日本製品の良さはケーブルにおいても実証されているわけですね。アーティストもクラブもス
タジオも多いベルリンが拠点というのも良い環境だと思います。間違いなく需要があるし、良質であればなおさら広がっていくし。

飯野 ただ、日本は遠いから材料を送るための輸送費も高いし、コロナやいろんな世界情勢に左右されてしまう点はデメリットかもしれません。

佐賀井 自分が好きな物や信頼出来る製品を人に勧めることって楽しいじゃないですか? 僕にとっては、音楽好きな仲間たちととても良い環境で働けていることがメリットですね。製品の営業をして、実際に買ってくれる時が嬉しいですよね。

━━ベルリンならではですが、身近にいるトップアーティストからダイレクトな反応をもらえることもメリットの一つですよね。せっかく上質なケーブルをサンプリングしてるのに、いらない! とか言われたりすることはあるんですか?

佐賀井 全然ありますね。やっぱり好き嫌いがあるから、「enoaudio」のケーブルを使っても何も変わらないとか、逆に、音がきれいになると出音が静かになる印象になるので、それが物足りない、というアーティストもいますね。安価なケーブルから上質なものに変えるだけで音が3Dに聴こえるとか、クリアになるなど確実な違いがあるのにそれに気付けない人がいるのは残念ですが、そこに正解はないんですよ。

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enoaudio マネージャー・佐賀井克彦さん

━━オヤイデさんはどうですか?すでに世界展開している実績がありますが。

Anri 現在、「NEO」ブランドに関しては、全世界50ヵ国で展開していますが……

全員 すごい!!!

━━「NEO」ブランドというのは、オヤイデ社のケーブルブランドということですか?

Anri そうですね。オヤイデは、元々オーディオアクセサリーのブランドとして知られていましたが、14年前に「NEO」ブランドが誕生し、「d+」の登場から認知度が上がってきました。現在、BerghainやWatergateといった世界有数のクラブや本当に多くのDJが使用してくれていますが、クラブの現場からどんどん口コミで広がっていると感じています。「オヤイデNEO」というブランドを知らなくても、緑と白のケーブルだ!と認知されていますね。やはり「d+」は見た目のインパクトやデザイン性が高くて、フラットケーブルという特徴が記憶に残るのだと思います。

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Carl Craig at FUNKHAUS Berlin
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Bloody Mary at SuperBooth 2021
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Biesmans Live at Watergate

━━「オヤイデNEO」の担当としてAnriさんも最初は飯野さんと同じようにサンプリングから始めたんですか?

Anri そうですね。今でもサンプリングは続けています。いろんなアーティストとコミュニケーションを取り合う大切な場ですし、現場でのサポートにも繋がります。海外フェスやクラブに行く時もアーティストに会う確率が高いので、数本必ず持参して、名刺と一緒にサンプリングしています。ます。

━━やはりどんなことでもフィジカルな動きは大切ということですよね。今後の予定や展望があったら教えて下さい。

飯野 オヤイデさんとのコラボレーション製品を現在ローンチ準備中です。ケーブル以外でも日本の音響製品でまだヨーロッパで認知されていない良い商品が沢山あると思うので、こちらで広めていく架け橋になれたらと思っています。それと、ベルリンのオンラインRadioの「Refuge WorldWide」で、「enoaudio」として隔月で1時間枠をもらっているので、日本のDJやミュージシャンなどもベルリンから発信、紹介していく場となれば嬉しいです。
あとは、オンライン上でもっと簡単にカスタムケーブルのオーダーメイドが出来るようにしたいです。ケーブルって本当に多数の種類があって、無限なんですよ。長さや仕様も違うし、プロの現場からしたらもうケーブルを作るしかない! という状況もあります。だから、そういった様々な状況に対応できるようなカスタムケーブルメーカーを目指したいです。

Anri 世界中のクラブの全てのDJブースのケーブルが「オヤイデNEO」「d+」になるのが目標です!

全員 おおおお!!!

Anri 例えばCDJだったらPioneerとか、ミキサーならALLEN & HEATHとか、よく見るメーカーがあるじゃないですか? だから、ケーブルと言ったら「オヤイデNEO」と認識されるのを目標に世界規模で動いています。どこのクラブに行っても「d+」のケーブルが入っているというのが夢ですね。Boiler Roomとかスポンサードしてないクラブとかで、DJ中の写真や動画に「d+」が映っていることがよくあって、それを発見するのはやっぱり嬉しいですね。

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オヤイデNEO 海外担当&PR・Anriさん

コロナ禍でもケーブルの売上は好調!!その背景には?

━━これまでにも様々な問題が起きてきましたが、コロナウイルスや紛争など、ここ数年の世界情勢は想像を遥かに超えています。そういった中で、音楽業界は最も大打撃を受けてきたかと思いますが、どんな気持ちで仕事をしていましたか?個人的な観点からでも構わないので教えて下さい。

Anri オヤイデに関していうと、コロナ禍でも売上は伸びていて好調と言えます。自宅にいる時間が増えたことによって、リスニング環境や音楽制作するための環境を改めて整えたり、グレードアップする人が増えたからだと思います。パンデミックになってからすぐに、クラブがクローズしたりイベントができなくなって、ライブ配信やストリーミングが一気に増えましたよね。アーティストやヴェニューをサポートする意味を込めて、そういった配信の現場に無料でケーブルを貸し出すサービスを行なった時期がありましたが、やっぱり思った以上に需要がありました。

━━確かに家にいる時間が長くなればなるほど、音楽や趣味へのこだわりに目がいきますよね。今日のインタビューで私もケーブルが欲しくなりました(笑)。

Anri 以前のようにライブやクラブイベントが開催できない状況になって、やはりアーティストの苦労を聞くことが多くなりました。ケーブルの売上が伸びていたとしても、音楽業界全体を見ると中々厳しい状況に追い込まれてしまった現実もあって、色々と難しさを感じることもありました。ヨーロッパはすでにコロナルールが緩和されてクラブも再開してるので、これまで通り、アーティストや現場で働く人たちに出来る限りの協力はしたいと思っています。リスナーの皆さんにもオヤイデ製品を使ってもらうことによって、今まで以上に良い環境で音楽ライフが素晴らしいものになるようにサポートしていきたいですね。そうすることで音楽業界の未来へも貢献していけたらと思っています。

━━音楽業界は、ようやく本格的な経済復興にむけて動き出した状況ですよね。コロナ禍でケーブル業界の売上が伸びたということは、良い音楽を欲している人がそれだけいるという証拠だと思います。今後も日本を代表するメーカーとして活躍を期待しています。
本日はありがとうございました!!

次回は、大成功を収め、すでに来年の開催が発表された『Sonar Lisboa 2022』の現地レポートをお届けします!お楽しみに!

Text:宮沢香奈
Videography & Photography:Ari Matsuoka

オヤイデNEO
enoaudio

宮沢香奈さんの記事はこちら