塩田千春「I Hope...」展　

＜塩田千春「I Hope…」展＞の会場となったのは、今回が初となるベルリンのクロイツベルク区に位置する「König Galerie」だ。同ギャラリーは、教会の跡地をリノベーションしたギャラリーで、Johann Königによって2002年に設立された。一階はアート本を中心としたミュージアムショップ、階段を上がって進んだ先に、天井まで吹き抜けた圧巻の展示スペースが広がっている。コンクリート剥き出しのミニマルな建築ながら、元教会という神秘的な空気が混じり合う独特な空間であり、コンテンポラリーアートを中心とした展示はいつも人気を博している。

＜塩田千春「I Hope…」展＞は、ロックダウンの真っ最中に開催のアナウンスメントが届いた。“ああ、また観ることが出来ないのか、、、”と肩を落としていたところに、Facebookやインスタグラムに、アーティストとのコラボレーションによるパフォーマンスを行うとの情報がポストされた。実際にギャラリーを訪れることができない状況下で、単にバーチャルで作品を見せるだけでなく、作品を背景にミュージシャンやダンサーがライブパフォーマンスを行い、それを映像配信するという。

参加アーティストは、ダンスカンパニーのSasha Waltz ＆ Guests、ジャズピアニストの高瀬アキとオペラ歌手の中村まゆみ、チェリストのChristoph Heesch、ピアニストのUlrike HaageとコンポーザーのChristian Meyer、作家の多和田葉子と舞踏ダンサーのYuko Kaseki、ロックバンドのGrüßaugust、ギタリストの内橋和久の10組。塩田氏と日頃から親交が深く、ベルリンを拠点に世界で活躍する一流のアーティストが集結した。これは是非とも観たい！！　と強く思った。長引くロックダウンには心底辟易してしまうが、普段であれば多忙を極めているであろう分野の違う芸術家たちのコラボレーションによるパフォーマンスなんて、きっとコロナ禍でなければ見れなかったかもしれないからだ。

チェロのソロだけで弦楽器が奏でる音の奥行きを感じさせるメランコリックで情熱的な演奏、「赤い雨」と題した作品が朗読される中、エコーのように言葉を反復させながら全身で表現しながら踊る、塩田千春展と同様にずっと以前から生で観たいと思っていたドイツを代表するダンスカンパニーSasha Waltz ＆ Guestsは、赤に映える白い衣装に身を包み、残響音のようなサウンドの中でシュールなパフォーマンスを見せる、即興によるアブストラクトなピアノにメゾソプラノの美しく、凛とした歌声が重なり合い、天井を突き抜けるかのように響き渡る。どれも本当に素晴らしく、そして、圧倒的な美しさだった。

貴重なライブパフォーマンスを収録した映像は、4月18日までの限定公開にて、以下のリンクから視聴可能となっているので、是非とも観て欲しい。

Chiharu Shiota 塩田千春 Facebook／KÖNIG GALERIE Facebook

その場に長くいればいるほど、心が浄化されていくのが分かる展示会場は、上を見上げても終わりの見えない高い天井から、無数の赤い糸が吊るされ、無機質なコンクリートの空間が赤い世界に染まっていた。その中を風に舞うように無数の赤い紙がランダムに吊るされ、近付いて見ると、短冊のようにそれぞれに願いごとが書かれている。骨組みだけの木製の大きな船はみんなの願いごとを乗せて天に昇っていくようだった。

神々しい真っ赤な世界をゆっくりと廻りながら、塩田千春という誰もが知ってる世界的アーティストがどんな思いでこの作品を制作したのだろうか、赤い短冊に願いを込めた人たちはどんな思いで書いたのだろうか、そして、自分は今この瞬間に何を願うだろうか、ずっとそんなことを考えていた。人は希望がなければ生きていけない。希望があることで、生きようとする力が湧き、人生を諦めることなく、思考を止めずに、人間らしくいられるのではないだろうか？

帰り際、エントランス付近にあった赤い用紙に願いごとを書いて、König Galerieを後にした。新型コロナウイルスがパンデミックとなってから、すでに1年が過ぎようとしている。