タージマハルは一帯が公園のようになっていて一通り見回ったあと、見物もそこそこにしてドライバーの元へ戻ることに。たくさんのインド人の中から「あの人だったかな……いや、あっちか?」と自分のドライバーを探す。肩をトントンと叩かれて振り返るとニコッと笑うインド人が。「ああ、この人だった気がする」。
タクシーに乗り込んで駅へ向かうはずが、逆の方向へ。頼んでもない店の前に停まり、ドライバーも降りてしまって埒が明かない状況。「??……ドライバーの買い物かな?」。待ってても仕方ないような気がして自分も車を降りて店に入ることに。
入った瞬間にわかった。「あー、やられた」。
目つきの悪い店員何人かと、ショーケースに宝石や象の置物。それに絨毯みたいなものも売っている。よく聞いたりする「海外での恐い出来事」のやつだ。
「よく来たね、タージマハルはどうだった? 帰りに皆ここへ寄ってお土産を買っていくんだよ。これが30,000ルピーで、これが25,000ルピーで……」
「そういうの買う予定ないんだ。もう行くね。」と言ってドライバーを見ると目を合わせようとしない。
目つきの悪い連中は部屋の四隅と、ショーケースの前で話かけてくるやつの5人。
「要らないじゃなくて、皆買うんだよ。どれにする?」
「皆買うってどういうこと? 要らないから」と、わざと笑顔で返した辺りから相手の表情と口調がどんどん厳しくなってきた。
「仕事は何してるんだ? これくらい買えるんだろ? 買えよ。買えば帰してやる」
「何それ? もうわかった。警察に『脅されてる』って連絡する。こんなビジネスは普通じゃない。そのあと弁護士も呼んで……」と、ポケットからiPhoneを出して電話をかけるような仕草をしたら相手が急に焦り出した。
「待て待て! わかった、行けよ。さあ早く行け。」
面倒くさいなと思いながらも、店を出るときにちゃんと言うことにした。
「あのさ、俺はお前らが思ってるような日本人じゃないから。観光客相手にこんなことするのはもうやめた方がいいよ。」
グルだったドライバーにも「お前らみたいなやつがインドの品格を下げる」と言ってここで別れを告げた。
こんな体験をしながらも、もちろんインドは悪人ばかりではないし、人や社会のバランス感覚に驚きっぱなしだった。自転車は大体が4人乗り以上、家族3人で1つのバイクに乗って高速道路を走ったり、今にも崩れるんじゃないかと思うような建物の建て方、そして人々の生活から垣間見た社会システムなど、目にした全てから無理矢理に価値観を広げられたような気がした。