ヒップホップなどの心の底から格好いいと思える音楽や、それを生み出すアーティスト。『スパイダーマン』などの憧れの作品。リスナーに「影響を与える側」であると同時に、自分たちもまた「影響を受ける側」として、「やってみたい」や「こうなりたい」といった理想へと近づき、そのエッセンスを取り入れていく。その結果として、彼らの輝きはますます増していくのだ。

参照:SixTONESの2ndアルバム『CITY』に現れる、音楽・映画への「尊敬の精神」

“FASHION”のMVで見られるようなハイプなファッションとヒップホップは、カルチャーとして切っても切れない関係性にあるもの。そうした意味で、SixTONESがこの楽曲を歌うのは、もはや運命だったとも感じられる。本当にヒップホップが大好きなグループなのだろう。それこそ、人々の憧れの対象として《Cover girl, Rap star それとも Like a movie star?》とすら歌っているわけだし。

参照:SixTONES 『共鳴』のMVから紐解く、“共鳴”“FASHION”が象徴するメッセージ

SixTONES×ラップ/ヒップホップ……このふたつの要素が交差したときの無限の可能性については、これまでに何度も語ってきた。実を言えば、筆者の個人的な趣味もあり、同話題にはなにかと文字数を割いてきたわけだが、そんなグループの強みがいよいよ名前の通り、“宝石”のような唯一無二の輝きを煌かせている。

SixTONESが、6月14日にリリースする10thシングル『こっから』。表題曲は、髙橋海人(King & Prince)がオードリー・若林正恭役、森本慎太郎(SixTONES)が南海キャンディーズ・山里亮太役を務めるドラマ『だが、情熱はある』主題歌として、すでに広く親しまれている。同楽曲とドラマ間の親和性の高さについては、下記コラムにてたっぷりと触れられているため、本稿では楽曲単体……それもヒップホップにおける“サンプリング”の観点にテーマを絞って綴っていきたい。

コラム:
だが、情熱さえあれば“こっから”始められる──SixTONES

COLUMN:SixTONES「こっから」

SixTONES – こっから [YouTube ver.]

ヒップホップ、ブレイクビーツ、生バンドにミクスチャーと、公式サイトの楽曲解説に並んでいるワードを抜き出すだけでも、team SixTONESの各位であれば「こっから」がどれほど彼ららしいものかを想像できるに違いない。

プロデュースを担当したのは、お馴染みの佐伯youthK(佐伯ユウスケ)。これまでに、魂の衝動をぶつけるロックチューン“僕が僕じゃないみたいだ”から、ピアノの旋律が疾走感を掻き立てる“共鳴”、さらには儚いミドルバラード“わたし”まで、SixTONESのシングル表題曲を幅広いアレンジに進化させてきた張本人である。それが今回はどうだろうか。ギターやベースがブリブリと存在感を放つ生バンド演奏、《これだけじゃやれねぇってわかってる》などの劣等感を根底にした泥臭いメッセージなどを総じて、とにかく“オールドスクール”という言葉が相応しい一曲といえる。

本題はここから。前述の“サンプリング”とは、既存の作品からメロディループ、あるときはギターやピアノ、またあるときはリリックのワンフレーズなどを引用。いわばひとつの“パーツ”として、サウンドの質感やテンポを調整したり、あるいはそのまま使ったりと、楽曲を構成する要素として拝借することを指す。一例として、バンダナが縫い付けられたペイズリーデニムを想像してみてほしい。デニム地のなかで、ひときわ際立つ総柄バンダナ。あの部分こそサンプリングなのだ。

パッチワークとはまた違うのだが、もともとのブリブリなサウンドに相まって、こうしたサンプリングの積み重ねが今回の楽曲に抱く“ミクスチャー感”、わかりやすく言えばいい意味でのごちゃごちゃ感を作り上げている。これまでのコラムでも記してきた通り、それこそがSixTONESの強みにほかならない。

今回の楽曲について、メンバー自身はどう感じているのだろうか。“こっから”を初解禁した4月29日放送のラジオ番組『SixTONESのオールナイトニッポンサタデースペシャル』では「“だが、情熱はある”の山里さんと若林さんの言葉っていう意味もこもって、(タイトルも)“こっから”になっているけど、オレらSixTONESにも通ずるところがある」「ソニーはそこが天才なんだよ。オレらにもリンクさせてくるから」と、もはや制作スタッフを褒め称える流れとなっていた。あくまでもいちファンの勝手な想像ではあるが、レコーディングの際に“ここってあの曲のサンプリングだよね?”と、メンバー各々でやいのやいのし、答え合わせをしていてほしい。

話を戻して、ことラップ/ヒップホップでは、とりわけ重要な表現技法のひとつとされるサンプリング。すでに存在する作品にリスペクトを示すのが目的のひとつであるが、SixTONESが抱いているだろう同様の想いについても、すでに過去コラムで言及したところ。とはいえ、ここまで綴った内容を翻意にするようで恐縮だが、これ以降の内容について、特にSixTONES以外の他アーティスト作品と絡む内容は、あくまでも筆者独自の見解に過ぎず、公式的に発表されているものではない。そのことを頭に置きながら読み進めていただけると幸いだ。

最初はサンプリングというより、どちらかと言えば“オマージュ”の枠組みに分類されるだろう話から。そもそも楽曲解禁時からSNSなどを騒がせていた、イントロに挿入されるサックスが“あの楽曲”に似ているという話題。“あの楽曲”とは、宇多丸、Mummy-D、DJ JINからなるRHYMESTERのクラシックナンバー“B‐BOYイズム”のことである。たしかに軽く流し聴きをしただけでも、似ているという印象を抱けるだろう(といいつつ“B‐BOYイズム”は、Jimmy Castor Bunch“It’s Just Begun”からサックスのループを拝借しているという歴史の連鎖が面白い)。繰り返しになるが、これはあくまでいちリスナーの意見である。

また“こっから”MV中盤には、メンバーがダンスパフォーマンスを見せつけ合うシーンが挿入されるが、“B‐BOYイズム”MVにもブレイクダンスを披露しあうパートが。このあたりもまた、SixTONESや制作チームからのサプライズプレゼントなのかもしれない。

ラップのフロウに話題を移せば、SNS上では曲中、R-指定(Creepy Nuts)に似ているとの指摘がいくつか目に入った。このフロウについては個人的に、彼以外のさまざまなラッパーが使用している、ある種の“型”のひとつかと思われるためなんとも言えない。が、ともあれCreepy Nutsは若林と山里がかつてメイン出演していたTV番組『たりないふたり』の大ファンで、2016年1月に同名のEPとリスペクトソング、2019年11月には実際の若林と山里によるイベントで使用された“たりないふたり さよならVer.”も発表しているほど。もしかしたら……という可能性も?

リリックの観点では、曲中に登場する《ローリンローリン転がってけ》が、神奈川・横浜を拠点とするレジェンド=OZROSAURUSの大名盤『ROLLIN’045』を彷彿とさせたり、ラップ/ヒップホップの歴史を踏まえるに、あまりこの名前を軽い気持ちで並べたくはないのだが、《間違ってる未来でも俺には光ってる》のラインが、KICK THE CAN CREWの楽曲“アンバランス”に登場する《もし間違ってたって知らねぇオレは未完成でも光ってる》と構造が似ていたり……と書きつつ、さすがにこじつけのようだなと我ながら反省してしまった。ひとつ言えるとすれば、もしかすると楽曲冒頭の《Hey, boy 平凡にBorn in the ニッポン》の”ニッポン”がカナ表記なのは、SixTONESのラジオ番組の放送局のことだったりするかも……?

ただ、同じリリックについてでも、ここからの内容はおそらく“ほぼ確”といってよいはず。《でもどこ行ったって”人人人”》のライン。こればかりはさすがに、2023年1月発売のアルバム『声』収録曲として、本楽曲と同じく佐伯youthKがプロデュースをした“人人人”のセルフサンプリングと考えて問題ないだろう。さらには先ほど言及した《ローリンローリン転がってけ》も、過去楽曲“Rollin’”のタイトルを引用したように思えてくる。このほか、筆者が気づいていない部分でも、もしかすると過去作から引用しているフレーズがあるかもしれない。ぜひ筆者にだけこっそりと教えてほしい。

また、レトロな純喫茶やダンスホール、さらにはコインランドリーなど、全体を通してヴィンテージ感あるMVでも、“セルフサンプリング”の確認ができた。例を挙げるならば、間奏で見られるギターをかき鳴らすような振り付けは、5thシングル表題曲“マスカラ”で、楽曲提供をしてくれた常田大希(King Gnu/millennium parade)へのリスペクトを込めて考案されたもの。間奏後のラップパート最初の振り付けも、『CITY』収録曲“Rosy”から引っ張ってきたものではないだろうか。リリックにあわせて、こちらもぜひteam SixTONESだからこそ楽しめる宝探しをしてみてほしい。

それでは、本稿を通して何を伝えたいのか。一点目に、これまでの持ち味だったミクスチャーなサウンド感がさらに進化していること。二点目に、ともすればサンプリングといえど、“虎の意を借るなんたら”のように、人の持ち物でリスナーを沸かしたり、気づいた人だけが喜ぶ音楽ファンとの身内ウケを狙っていたりと揶揄されてしまう可能性もある。そのあたりのバランス感を上手く取るかのように、自分の持ち物でセルフサンプリングし、なによりファンダム以外でも幅広く楽しめるクオリティの作品に仕上げていることが、“こっから”を通してぜひ感じてほしいところだ。

実は本稿を執筆する上で、楽曲タイトルになぞらえて、念願だった単独ドーム公演を終えた先の未来予想図を広げるつもりだった。しかしながら、そんなことは書く前から蛇足になってしまうほど、サンプリングという新しい武器を手に入れたSixTONESのことを紹介したかった。“こっから”には、SixTONESの“好き”が詰め込まれている。セルフサンプリングもまたそれと同様。過去の楽曲と同じ言葉を繰り返し使っていたとしても、彼らもまた“大事なことは2回言うタイプ”なのかもしれないし。

SixTONES「こっから」レビュー|“サンプリング”で輝くリスペクト、さらなるミクスチャーなサウンド感の進化 column230610_sixtones-02

Text:一条皓太

INFORMATION

SixTONES「こっから」レビュー|“サンプリング”で輝くリスペクト、さらなるミクスチャーなサウンド感の進化 column230610_sixtones-01
通常盤ジャケット

こっから

2023年6月14日
SixTONES

予約はこちらSixTONES 10thシングル「こっから」DISCOGRAPHY