2014年2月14日、前日に降った雪の影響で路面は凍結し人通りも少なくなり始めた午後8時、ロウアーイーストサイドのストリート系ファッションショッ プ、THE GOOD COMPANYのシャッターは半分だけ開いていた。薄暗い店内からはストリートまで漏れる程の爆音の音楽。シャッターをくぐって行き来する若者達に紛れて店内に潜り込むと、そこには、ウィードとタバコの煙が充満する中、近くのデリで買ってきたビールを片手に騒ぐ若者達の姿があった。この日筆者が訪れたのはニュー ヨークの新世代ラップグループRATKING(ラットキング)のデビューアルバム『So It Goes』のリスニングパーティーだった。
RATKINGは、WIKI(ウィキ)、HAK(ハク)、Sporting Life(スポーティング・ライフ)からなるラッパー/プロデューサーで結成されたニューヨーク・ハーレムを拠点に活動をするヒップホップグループ。膨大な知識と経験から成る時に冷笑的でストレートなリリックは核心を突き、その唯一無二のスタイルが注目されている。
RATKING – PIECE OF SHIT(A FILM BY ARI MARCOPOULOS)
2012年3月に公開されたマスターピース“Peace of Shit”のPVは伝説的な写真家アリ・マルコポロスによって撮影されたもので、壁全体が無数のタグに覆われた彼らのスタジオでのセッションは強烈なインパクトを残している。実は筆者もこのPVに衝撃を受けた内の一人だ。このPVを観て以来、彼らがNYで行うショーには毎回足を運んでいるのだが、その度に彼らのスタイルは進化し、いつもオーディエンスに新しい刺激を与えているように思う。
フロントマンを勤めるWIKIはマンハッタンのアッパーウエストサイド出身。街中にヒップホップが流れる黄金の90年代に幼少時代を過ごしたWIKIがラップを始めたきっかけは、この街に暮らす多くの子供たちと同様、友人との悪ふざけの延長だったという。それはWIKIがまだ中学生の頃、学校行事で出向いたスキー旅行の最中、友人達との会話の中から冗談でラップグループを結成したのだ。そしてこのグループでの活動を続けるうちにラップの楽しさを知ったというWIKIは最終的にグループの誰よりもラップが上手くなっていたという。そしてこの時、WIKIはその後の人生を左右する ある出会いをしていた。それは通っていた小学校の教師だった。WIKIのラップを目にした数学の教師とスペイン語の教師はWIKIの才能をいち早く見いだし、ヒップホップの根底、文化そのものを深く教えた。以降、WIKIはブロンクス出身のこの2人の教師と共に学校でサイファーを始め、ラッパーとしての頭角を現し始めた。そして同級生でもあり、後のパートナーとなるHAKとはこの頃に出会っている。
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