第2回 散歩
21時過ぎに主人が帰って来た。
あたしは玄関に迎えに行き「遅かったわね」と話しかけながら、一日仕事していた彼の匂いを吸い込む。匂いに敏感なあたしは、タバコや汗、そして何を食べたかまで大抵分かってしまう。詮索したいわけじゃないのに、もう習慣になってしまっている。
さっき主人を見た時、少し疲れた顔をしてるな、とは思ったけれど、あたしも一日ストレスが溜まってたから思い切って散歩に誘った。返事はしてくれなかったけど、玄関を開けたままにしてくれてるから、あたしは彼の気が変わらないうちに急いで外に出た。
この時間でも空気が暖かくなって来ているのを感じる。
彼は度々立ち止まるあたしを急かしたりしないし、近所の友人に話しかけたって黙って待っていてくれる。彼の歩調は凄く心地良い。あたしはなんて幸せなんだろう。
明日は土曜日。きっといつもの公園に行く。
遠くに投げられたフリスビーを何度も何度も急いで取りに走るのは正直しんどいけど、主人の笑顔のためなら頑張れる。
散歩から戻り、玄関で首輪を優しく外されながらあたしはそう思った。