第105回 ボーイミーツガール

売れないミュージシャンが男の中で最低だと思う。お金は持ってない、酒癖は悪い、そのくせ態度は大きい。でもそんな男がステージに上がっている時だけに垣間見せる、野生の獣の様な目つきで全部許してしまう自分がいる。だから僕はせっせと彼の酒代を払い、酔っぱらった彼を部屋まで送り届け、朝食の用意をして仕事に向かうのだ。「僕はホント馬鹿だな」なんて思ってたけどまあまあ幸せだった。彼が堂々と浮気をするまでは。
珍しく仕事が早く終わったある日。夕食の材料を抱えて彼の部屋に行くと、知らない男が全裸でベットに寝ていた。僕より若く、ひげの薄いその男は僕を見ても全然驚かない。そのふてぶてしい様子を見て僕は全て悟ってしまった。いつかこうなる気がしていたからか、不思議と取り乱さない自分が悲しい。僕は部屋を出てすぐに復讐を思いついた。彼が一番「大事にしているもの」を汚すのだ。僕は知っている。それは彼のたった一人の妹だ。
「あなたのことゲイだと思っていたわ」長いキスの後に彼の妹は僕の耳元で囁いた。僕は何も言わずに微笑んで、今度は腰に手をまわしもう一度長いキスをした。彼女は目を閉じて体をすっかり僕に預けている。彼は既にステージの上から僕達を見つけているはずだ。きっと気が狂いそうだろう。もうここから出ないか? と言うと彼女は顔を真っ赤にしてうっとりと頷いた。しかし女の唇は柔らかすぎてなんて気持ちが悪いんだ、僕は足早に安そうなホテルに向かいながらそんなことを考えていた。