第112回 逆光の中に

「そのスケートボードを持ってる奴はいつだって中に入れるんだよ」そう言うと黒人の大男は僕を軽々と持ち上げ、柵の中に入れてくれた。この柵の中には誰でも入れるわけじゃない。トップレベルのスケーターしか入ることが出来ない特別な場所。それはこの街に住んでいる誰もが知っていること。僕もいつもは柵の外から大人達をかき分けて眺めているだけだった。そこには観衆から喝采を浴びている僕のパパがいた。今はもういないけど。

先月パパは癌で死んでしまった。日に日に痩せていき、簡単なトリックでも転んでしまうパパの姿を、若いスケーター達は悲しそうに見守っていた。斬新なトリックを編み出しては、誰にでもコツを教えていたパパは、ひねくれた若いスケーター達にとって初めて尊敬できた先生のような存在だった。僕はそんなパパが誇らしくて、格好良くて、とにかく大好きだった。

スケーター達がパパのスケートボードを持っている僕に気づき始めた。「もう本当に彼には会えないんだ」そう思ったスケーターもいると思う。でもみんな大きく手を振って僕を歓迎してくれた。そして次々とトリックを僕に見せてくれる。パパのトリックだ。「もちろん僕は全部知ってるよ!」そんなつもりで僕は親指を突き出した。逆光に照らされたみんなのシルエットは、まるでパパが生き返ったみたい。僕は嬉しくて泣いたり笑ったりした。今度は僕がみんなに教えてもらう番だ。いつかパパに自慢できるように。

photo by normaratani