第113回 弱い男 強い女

私は女性のための隔離施設で働いている。いわゆるDVシェルターだ。ここを訪れるのは、夫の暴力に耐えかね、子供の手を引いて逃げ出してくる母親がほとんどだ。母親達の頬はやつれ、目の下のクマも酷く、声はか細い。私達スタッフが優しく子供の相手をするのを見て安心したのか、突然泣き出してしまう女性も多い。私は彼女達の肩を抱きながら、いつも数年前の自分を思い出す。そう、私もこうやってここに来たのだ。

男はプライドの塊だ。事業が傾いても周りに助けを求めなかった私の夫は、大きな負債を抱えて倒産した。破産手続きをして、また2人でゼロから生きて行こうとしても、夫は全く働いてくれなかった。元社長がアルバイトをするなんて耐えられないのだろう。パートから戻った私にあらゆるモノを投げつけてくる夫はとても哀れで、エスカレートしていく暴力を私には止めることが出来なかった。

さっき部屋に案内したばかりの親子にお茶を持っていくと、すでに母親はベットで眠り込んでいた。眠れない夜が続いたのだろう。身を守るように丸くなっているのが痛々しい。子供がドアの横に立って不安そうに私を見ている。いつもそうやって離れて眺めていることしか出来ないのかも知れない。笑顔を向けると上目遣いのまま少し笑ってくれた。袖の下には青いアザが見える。抱き寄せたい気持ちを必死に抑え、今は何も聞かずに部屋を出た。ここに滞在できるのは2週間。大丈夫。私達はもっと強くなれる。