第125回 トライアングル

僕たち3人は幼なじみ。幼稚園で出会ってすぐに仲良くなった。喧嘩もせずに毎日遊び回り、褒められるときも叱られるときもいつも一緒。小学生、中学生になっても僕たちの関係は何にも変わらなかった。テスト勉強に夏休み、部活から受験勉強までお互いの部屋を行ったり来たりしながら過ごした。他の友達がいなかったわけじゃないけど、この3人じゃないと本気で笑えないし、なにしろ落ち着かなかった。
中学を卒業後アキラとヨーコは地元の高校へ、僕は県外の高校へ進学した。教師一家の僕には進学校に行くしか選択肢が無かったのだ。それでも週末はよく3人で遊びに出かけた。僕はずっとこの関係が続いてることが嬉しかった。でも2人にとっては少し違ったのかも知れない。アキラのヨーコに対する視線がそれまでと違うなんて全然気付かなかった。いや嘘だ。僕は気付いていた。
高校3年の文化祭。僕の学校に2人が遊びに来たときのことだ。最近化粧をするようになったヨーコを僕がからかっていると、アキラはなぜか不機嫌そうだった。気まずくなって視線を落とすと、2人はペアルックのスニーカーを履いていた。僕が気付かないと思ったのか、それとも暗に2人の関係を知らせたかったのかはわからない。あの時から僕は2人から少しづつ離れていった。連絡もあまり返さなくなった。そろそろ連絡しよう、と何度も思ったけどやめた記憶がある。もう10年も前の思い出だ。
まず入場して来たのはアキラ。そしてすぐにヨーコが入場して来た。純白のウェディングドレスがとても良く似合っている。場内から一斉に2人に拍手が送られる。僕は思い返す。結婚が決まってから1度だけヨーコと会った時のことを。翌日、朝陽に照らされた下着姿のヨーコがとても美しかったことを。2人が僕の目の前を通り過ぎる。おめでとう、僕は2人に声をかけた。アキラは嬉しそうに頷いた。でもヨーコは僕のことを見てくれなかった。3人だった僕たちは、たった今2人と1人になった気がする。僕は壇上に2人が並ぶ前に教会を抜け出した。孤独を吸い込みながらしばらく歩こう。降り始めたこの雨があがるまで。