第131回 猫の家来

殿、連れて参りました。中山道のあの茶屋の娘でございます。一目で惚れたんだ、と殿が興奮気味に仰っていたあの時の娘です。なんとこの娘も「殿の熱い視線がどうしても忘れられなかった」と申しております。これには驚きました。はい、十分に人目につかぬよう気を配りました。ですがこの場所も長居は出来ません。殿が城下町に現れたなんてことが知れたら町中大騒ぎになってしまいます。では早速。これ娘、殿に挨拶をしなさい。いや殿、これは礼儀ですので。私はここで見張っております。もちろんですとも。うしろを振り向くなんて野暮なことは致しません。産まれてからずっと城の中ばかりで生活をしていた殿が、とうとう大人の階段を昇るのが私は嬉しくてたまりません。私が教えた通りにすれば良いのです。まずは唇を吸うのです。時に優しく。時に激しく。

家来も大変ですね、と話しかけると「息抜きも必要なのだ。殿はまだまだ若いのに自分を殺して生きて来た。全ては民衆の幸せのためだ。そんな殿に泣いて頼まれたら断ろうはずが無い。切腹覚悟である。そろそろおぬしも立ち去れ。人間だとしてもこのことは他言無用だぞ」と小さい声で話してくれた。後ろの2人は営みに夢中で僕には気付いていない。僕は音を立てないようにその場を離れた。甘い猫なで声が背中に聞こえ始める。殿もなかなかやるじゃない。