第135回 交差する刹那
最近小さい女の子がさらわれる事件が続いてるんだって。学校の友達もいつの間にかいなくなったりしてるし。新聞には載ってないけど噂は本当なのかも。実は私は犯人に心当たりがあるの。私の家の2軒先に1人きりで住んでいるお爺さん。朝、家の前を通ると必ず水を撒いていて、私に気付くとニヤニヤしながら話しかけて来る。きっとあの長いホースでアッという間に女の子を捕まえてるんだわ。もしかしたらまだ家の中に女の子達がいるかも知れない。私が助けなきゃ。みんな、もう少し待ってて。
ふと窓を見るとうっすらと小さい人影が見えた。またあの娘が庭に入って来たのか。この時間になると毎日現れるようになってしまった。あの娘の母親から「あなたのことを誘拐犯だと思い込んでいる」と言われたときは随分笑ったが、こうも毎日だと困ったもんだ。しかし事故で妹を亡くしたことをまだ受け入れられてないというあの娘に、私はしばらく付き合ってあげると決めたのだ。こっそりと庭に出てホースを握り、部屋の中を覗き込んでいる娘の背後からわざと足音を立てて近づく。足音に気付いた娘は飛び上がるほど驚いて自分の家の方へ走り去っていった。まったく、世話が焼ける娘だ。明日はもっと驚かしてやるか。確か私の孫もあれくらいの歳になっているはず。どうしているかな。久しぶりに会いたいものだ。
photo by normaratani