第145回 未来予想図
観光客が集まる繁華街を抜けてしばらく歩いたところに、陽気な兄弟が営む路上マッサージ店がある。僕はタイに来ると必ずここに寄る。もちろん腕が良いのだけどそれだけじゃない。この兄弟は足の裏を見て占いをしてくれる。手相みたいなものだろう。人の足の裏を見ながら時にはマッサージの手を止めて「あーでもない、こーでもない」と甲高い声で言い合っている2人の姿が僕は大好きだ。
数年前、僕は僕の中に生まれた「女」を抑え切れなくなっていた。日本では誰にもこの気持ちを吐き出せなくて、というか僕自身もこの感情に向き合えなくて、自分をなんとかしたくてタイに来た。タイ語も話せないし観光する気にもなれない。ただバンコクをひたすら散歩する毎日。そんな時、僕はこの兄弟に出会った。僕の足の裏を見た途端、お姉さん(お兄さん)は僕を抱きしめてくれた。そんなお姉さんを見て、ふと僕の足の裏を覗いた弟さんも自分のお客さんを放り出して抱きしめてくれた。突然過ぎて僕には何が何だか分からない。でもなぜだかずっと張りつめていた僕の気持ちがほぐれていくのを感じた。人前であんなに泣いたのは初めてだ。
「あんたはどこもおかしくないよ。私達にとっては普通のこと。今のあんたは男でもあり女でもある。今すぐに決める必要は無い。楽しんじゃえば良いのよ。迷ったときはいつでもここに来なさい」お姉さんがたどたどしい英語でそう言ってくれたのを良く憶えている。今回は初めて出来た恋人を日本から連れて来た。まず僕を見つけ、そして隣にいる恋人を見つけた兄弟は凄く喜んでくれた。僕たちは今、並んでマッサージを受けている。彼にはまだ占いのことは話していない。さてどんなこと言われるかな。相性は良いと思うけどな。