第148回 視線

僕たち3人は保育園で出会いすぐに親友同士になった。まだ言葉もうまく喋れないうちに。親たちが迎えに来るまで3人はずっと一緒。誰かが泣いていれば泣き止むまでそばにいる。誰かがお遊戯のダンスを憶えられなかったら憶えるまで一緒に踊る。誰かが忘れ物をしてきたら自分も忘れたことにする。そんな風に3人はお互いをかばい合って成長した。

小、中学校生活を共に過ごした3人の距離感はますます縮まった。高校生になってからもまるで兄弟のように毎日を過ごしている。周りから気味悪がられても気にも留めなかった。この3人でいれば他に何も必要ない。この2人以外には誰も僕を理解出来ないだろうし、理解して欲しいとも思わない。3人が3人ともそう考えていた。はずだった。

旧正月は日本に住んでいる僕ら中国人にとって大事な日だ。この日ばかりは日本人に遠慮せずに馬鹿騒ぎできる。僕は小さい頃からこのお祭りが大好きだ。3人で何ヶ月も前から特訓して他の誰よりも強烈な演劇を見せつける。そして耳を塞ぎたくなるほどの大歓声を浴びながら、歓喜の雄叫びを上げる。毎年この瞬間が僕たちの最高潮だ。

まさか。本番が始まってもケンが来ない。最近練習を休みがちなケンにイライラは募っていたけど、本番に来ないとは思ってもみなかった。頭が真っ白のまま時間は過ぎる。動揺がまるで隠せないまま、ボロボロの演劇は終わった。呆然としたまま衣装を脱ぐと、僕たちの視線の先にケンがいた。同じクラスの無口な女と手をつなぎ、僕らを見ている。なぜだろう。睨むことも目を逸らすことも出来ない。こんなにも短い時間で僕たちは少しだけ大人になった。つまらない大人に。

photo by normaratani